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街の機嫌

 前に住んでいた街は、高台の高級住宅街で、落ち着いた街だった。どこまで続くのかというような広大な敷地の屋敷があったり、白亜の金ピカの城のようなお宅があったり、この煙突は暖炉だねとか、ここの離れは茶室かななどと、犬と散歩をしていると、家々がバラエティに富んでいて、眺めるのが楽しかった。最近では相続の関係か、大きなお宅がそのまま維持されずに、一軒の古いお宅が取り壊されたあとに、建て売り住宅が11軒も建ったり、高級マンションになったりしている。
 それでも住人の多くは暮らしの豊かな人が多く、そしてだんだん高齢者になって、道を歩いている人も、なんだか「暇を持て余している」感じの人が多い。
 生活が安定していて暇な老人が多数ウロウロしているので、のんびりしていて、街全体がなんとなく機嫌が良い。
 対していま住んでいる町は、若い人が多く活気がある。スーパーマーケットもいくつかあり、飲食店も多数。近くにある大きなショッピングモールにシャトルバスも通っている。大学や専門学校があるので学生が多く、日本語学校もあって留学生も多い。市の中心への通勤も便利で、ファミリー向けのマンションが続々と新築ラッシュだ。小さなお子さんを乗せた自転車がたくさん走り、保育園幼稚園も多い。元気な街。
 元気だからきっとみんながんばっているのだろう。なんとなくうっすらと機嫌の悪い人が多い。
 毎日忙しいから。あれもしなきゃ、これもやらなきゃ。日常に追われて一日が終わる。今日も疲れた。思い通りにならないことばかり。明日もまた仕事。家のこともたいへん。
 ごく普通の、とても一般的な生活を送っている人が多い街は、全体的になんだか機嫌が悪い。悪いというか、よくない。
 日常のちょっとした喜び、週末の楽しみや、子どもの成長、おでかけやイベントなど、楽しみももちろんあって、嫌なことで100%満ちているわけではないだろうけれど、なんとなく、「はあ今日も楽しかった!」成分が足りないというか、夢とか希望のような成分がなんとなく不足していて、不満や不安がペタペタと貼りついている感じがする。
 若くて元気な街はなんとなく機嫌が良くなくて、老いてゆく街はなんとなく機嫌が良い。
 両方をぐるぐるかき混ぜて、希望とか明るい未来とかを足して、なんとなく暮らしやすい街ができないかとこのごろよく思う。
 みんななんか楽しく生きてゆきたいですよねー。

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