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いい隠居はいい

 あるところで、妻が難しい病気にかかり、その入院中に、配偶者の密通が露呈した話を耳にした。まあまあの熟年夫婦で、成人されたお子さんまでその揉め事を目の当たりにされたらしい。年を重ねた親の恋バナは子どもとしては複雑に感じるだろう。
 ゾウやクジラなどの寿命の長い動物は、歳をとって繁殖と関係がなくなると、オスもメスも群れのサポートをするようになる。幼い子を保護したり、乾季の水場へ導いたり、獲物が通る場所や時期を教えたり、天敵から逃れる知恵で、群れが生きてゆくための力強いブレーンになるそうだ。
 人間にも、もはや子孫を残す活動の必要がない「ご隠居さん」という人たちがある。
 けれど、繁殖の必要のない年齢になっても、まだまだ繁殖ホルモンに行動をコントロールされちゃうヒトもいたりして、それはいろんな映画や小説に描かれる。めずらしくておもしろいからだとおもっていたら、現実にも存在するらしい。
 昆虫や魚類などは生まれてから死ぬまでずっと大きくなり続ける。繁殖も命が尽きるまで続く。鮭とかタコとかカマキリのように、子孫を残せばそこで生命が終わるタイプもいる。魚や昆虫は寿命が短い。長い長い寿命を持つヒトが、社会を形成して協力し合える人間が、死ぬまで繁殖に力を注ぎたがるのは、種として必要なことなのか。
 繁殖に関わる生体周期的変動は日々の生活を支配する。身体や精神に影響があり、命にかかわることもある。生きてゆくのに困難になることもある。
 その困難がなくなるととても楽になる。
 楽になると自分にも他の人にも寛容になれる。
 なにか人のためになる余裕もできる。
 隠居っていいシステムだと思うのだけど。

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