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「アラン島」(シング作)

 「アラン島」(シング作)を読んでいる。
 戯曲家シングが、友人イエィツに勧められてアイルランドの辺境アラン島へゆき、土地の人々と交流する。
 19世紀の終わりごろのアラン島の人々は「原始的」で素朴な生活を送っている。
 何か特別なことでもない限り、例えば赤ちゃんが産まれるときとかでないと、お医者にかかることはない。その医者もいちばん近い本土の町から船に乗ってやって来る。離島なので海が荒れると来ることはできないので、島の人々だけでなんとかするしかない。
 どうしても、何がなんでも医師が必要なときには、医者は坊さんといっしょにやって来る。もしものときに二度手間にならないためである。
 島の人は、小さな手漕ぎの船を手作りし、それで漁をする。網を作りそれを繕う。海藻を集めて乾かし海藻灰を作る。小さな畑を開墾し、耕し、作物を作る。家を建てる。屋根を葺く。縄をなう。靴を作る。棺桶を作る。ゆりかごを作る。それらすべてを、すべての島民がつくる。大きなものは協力しあって作る。
 島の人すべてが漁師であり農民であり大工で炭焼きで屋根職人で手工芸家で、分業ということがない。
 もしかすると昔々縄文時代なども、みんなで力を合わせて家を建て、栗を植え、土器を作ったり、船や釣り針を作り、魚を取ったりして暮らしていたのかもしれないと思い浮かべる。家を建てたり、屋根を葺いたりする大仕事のときは、みなで集まってお祭りのようににぎやかに、みんなの力を合わせて作っていたのだろうなと想像がふくらんでゆく。
 不便で、過酷で、貧しく、快適とはいえない暮らしだろうけれど、どこかに、なにかとても豊かなものがあるような気がする。
 旧字体の岩波文庫なので、とても読みにくいのがまた、集中して読めて、物語の中に入り込んでゆけてとてもいい。
 都会からやってきたまれびとの観察した紀行文だけれど、なんだか憧れてしまうのである。
 

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