見出し画像

 忘れ物がとても多い。手荷物を二個以上持っているときに、ひとつの荷物を手に持つと、それで安心して、その他のものをそのまま置いていってしまうのをよくやる。なので重たくても荷物はできるだけひとつにまとめることにしている。
 これまでに、たくさん忘れ物をした。
 よく行くお店でごはんを食べて、年末だったのでオリジナルのカレンダーをもらった。写真にヌーベルバーグの映画のポスターを使っていて、とても格好良い、素敵なカレンダーで、センスの良さを褒め称えて、感激して盛大にお礼を言って、そのままお店に忘れて帰った。帰り道、バスに乗っているときに「あっ!」と気づいてバスを降りて、反対側のバスに乗って取りに戻ると、
「いらないならいらないって言ってよね」
と、ヘソを曲げられた。
 そんなふうだから、もちろん傘もたくさん忘れた。
 雨の中、傘をさして出かけ、どこかで傘立てに立て、出てくるときに雨がやんでいたらもちろん忘れる。
 そもそも傘というものが好きではなくて、重たいし、ぐらぐらするし、風に煽られるし、人とすれ違うときにぶつかりそうで怖い。傘のつゆ先が人の目に刺さって失明とかさせたら責任取れない。傘をさすくらいなら雨に濡れたほうがまし。土砂降りだとさすがに傘をさすけれど、少々の雨なら傘なしでずっとやっていた。
 あるとき、メガネをかけなければあとで大変なことになるよと、眼科医に脅されて、それからずっとメガネをかけることになった。
 メガネをかけて雨に降られると、メガネが濡れて景色がシマシマにぼやける。眼球は雨が降ってきても景色がシマシマになることはない。便利で高機能。それに比べてメガネは不便。でもあとで大変なことになるのはいやなので、メガネをかけて、ちゃんと傘をさすようになった。
 いまでは小雨の中に傘をささずに飛び出すと、世の中がシマシマにぼやけて「あっ傘!」とすぐに気づく。
 雨の日には傘をさす。
 大人になったなあと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?