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青い鳥文庫

昔からなのだが、片手に女性が今日することをメモしていることに、うっとりしてしまう節がある。

このご時世、携帯電話のメモ機能もあれば、そもそもメモ帳だってある。だのに、利き手じゃない方の手に今日することを書いている。

どこがうっとりするポイントかといえば、それぐらい緊急性が高いことから察するに「明日でいいじゃないか」精神がないこと、

そして、忘れっぽいというお茶目さである。

もしかしたら、手を石鹸で洗ううちに落ちて、結局、抜けていくこともあるだろう。

昔、名刺に特徴を書いていた人がいて、ハッとした。眼鏡。青いシャツ。面長。など。そうか、それは悪くない方法だとも思った。

ただ、例外もある。

わりと最近の話になるが、ある屋台で飲めないながらもお酒を呑んでいると、隣りの席の男に話しかけられた。かつて芸人、今は広告代理店で可笑しいぐらい稼いでいる、と自己紹介してきた。訊いてもないのに、セルフインタビューする雰囲気。

どう考えてもお友達にはなれないタイプだ。しかし、LINE交換をしようと言ってきた。断った方が精神衛生上、いいに決まっているが、あえてノリノリなフリをしてみた。コテンパンにするチャンスを逃してはならない。すると、じゃあ、なにか送りますね。と彼が送ってきた一投目の吹き出しが

「ニット帽」だった。

無味なスタンプが相場だと思うが、間違いなく私の特徴だった。いや、ちょっと待ってくれ。百歩譲って、その失礼さは抜きにして、それで覚えられるのか。まだ私の特徴があるはずだ。

猫背、顎曲がり、剛毛、三白眼。そのどれかでも書いてくれた方がこちらも「失礼だろ」とツッコミ甲斐がある。ニット帽。本当に彼は芸人だったのかすら疑った。

とにかくメモというのは、非常に滑稽なものである。それが堪らなく愛おしくもある。

カイキマンを除き。あ、カイキマンというのは彼の芸名だ。皆様、もしBARで会ったら「友達が欲しい」と、かましのアプローチをしてくるので気をつけていただきたい。

ちなみに狙い通り、私の言葉で既読スルーになり、彼の中でニット帽はもはや誰かわからないだろう。

なにより最終的に伝えたいことは、アプローチが昂ぶると、人はメモをするということだ。

それは、

カバーが後ろかどうかもわからなくなるということ。




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