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後悔しないためのヒント 〜井戸へ飛び込んだヤギ(『イソップ物語』)

 人生は「やる」か、「やらない」か、選択の連続です。

「やらないで後悔するよりも、やって後悔するほうがいい」という声をよく聞きます。

 なんだか潔くてカッコいいですが、できるなら「後悔はしたくない」ですよね。

 後悔しないために、気をつけたい心がけを教えた、こんな『イソップ物語』の一話があります。意訳してみましょう。

井戸へ飛び込んだヤギ(『イソップ物語』)

 夏です。
 太陽が、まぶしく輝いています。
 野原を歩いているヤギは、のどが渇いてきました。
「どこかに、水がないかな……」

 すると、大きな穴を見つけました。
 古い井戸のようです。
 そっと中をのぞいてみると……。

 ありました。
 清らかな水が、井戸の底にわいています。
 しかも、一匹のキツネが、先に中へ入っているではありませんか。
 ヤギは、話しかけます。
「キツネさん、そこの水は、おいしいの?」

 キツネは急に頭の上から声がしたので、びっくりした様子です。
 実は、キツネは、足を滑らせて井戸に落ちてしまい、困っていたのでした。
 でも、とっさに悪知恵が浮かんだようです。
 すぐ、ニコニコ笑って、ヤギに優しく語りかけます。

「そりゃ、もちろんだとも!
 冷たくて、おいしい水だよ。
 一緒に飲もうよ。さあ、おいで!」

 ヤギは、もう我慢できません。
「早く、水を飲みたい!」と思って、井戸の底へ跳び下りたのです。

 キツネが言ったとおりでした。
 井戸の水は、とてもおいしくて、ヤギは満足しました。

 でも、冷たい水がのどを潤す快感は、しばらくの間のことでした。
 いつまでも飲んでいるわけにはいきません。

「さて、もう家へ帰らなくっちゃ」
 井戸の底から上を見上げたヤギは、急に、心細くなりました。
 自分の力では、この井戸から出られないことに気づいたのです。
 ヤギは、泣きそうになりました。

 すると、横にいたキツネが、ぽんと手をたたいて、
「そうだ! 君と僕が、一緒に助かる方法を思いついたぞ!」
「えっ、どんな?」

「まず、君が前足を井戸の壁にかけ、背伸びをしてくれないか。
 君の体を土台にして、僕が壁をよじ登ってみるよ。
 そうすれば、きっと外へ出ることができるはずだ。
 僕が先に出たら、君を引っ張り上げてあげるよ」

「それはいい考えだね」

 ヤギは喜んで協力しました。

 キツネは、ヤギの背中から頭、そして角へ登って、ようやく外へ出ることに成功しました。

 でも、キツネには、ヤギを引き上げる力なんてありません。

「君は、なんてバカなんだ。
 後のことも考えずに、井戸へ飛び込むなんて……。
 たとえ、おいしい水を飲めても、井戸から出られなかったら、どうなると思う?
 よく考えてから行動することだな」

 キツネは、こう言い捨てて、どこかへ去っていきました。

イラスト 黒澤葵


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