主人公

「海賊王に、俺はなる!」

そう誓った1人の青年がいた。

海賊船に乗って、秘宝を探す旅に出る。

旅の中で徐々に増えていった仲間と共に日々を生きてきた。

はしゃぎ、笑い、闘い、悲しむ。

あそこまで喜怒哀楽を味わった日々は無かった。

そんな中でも、その秘宝は見つからず、そこに対しては延々とモヤモヤしていた。

しかし、彼らは海賊。

モヤモヤしている時こそ強くなる。

彼らは、必死になって秘宝を探し続ける。

必死になって......。


しかし、それから50年。

彼らが乗っていたのは、海賊船ではなく、車椅子。

あの頃の探究心なんて皆無。

長閑な生活を送る日々。

最早、あの頃の記憶など忘れかけている。

老化に抗えず、脳から記憶がワンピース、ツーピースと剝がれ落ちていく。

頻繁に出てくる話題は、宝探しの事よりも、身に覚えの無い探し物の事。

自身についての記憶すら欠けてきている。

自らが海賊であった事、海賊として青春を謳歌した事、様々な感情を仲間共有した事などなど...。

確かに在った。在った筈なのに。

今では、まるで幻。

「思い出したい...。」

彼は、そう願う。

ひたすら願い続ける。

車椅子から体が飛び出してしまいそうな程のエネルギーを使って、思い出そうとする。

しかし、思い出せない。

「駄目だ...。」

そう思った時、突然目の前が真っ暗になった。

そして、目が醒める。

「あれ、さっきまでと景色が違う...。」

自らを一通り確認してみる。

明らかに、あの男の姿ではなかった。

当然、その男が老いた姿を成している訳でもない。

「どういう事だ?」

そう疑問を抱いたが、それは直ぐに答えに変わった。

"夢"だ。

何の変哲もない1人の人間が、先程まで夢を見ていたのだ。


何の変哲もない1人の人間。


そこに自らを当てはめてもう1度改めて読んでみると、また少し違った面白さを感じられるのかも...。

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