「砂一以前」から「砂一時代」まで~さとなおリレー塾第三期2回目~

さて、前回の記事につづき、「さとなおリレー塾第三期」という講座の第2回の記事を書きたいと思います。

実は、あえて第1回の記事では、「砂一時代」という単語を使いませんでした。ただ、第3回でも頻発するでしょうし、この単語を避けることで逆に回りくどい記事になってしまう可能性を感じたため、まずは他記事から引用する形で「砂一時代」を紹介します。

さとなお:世の中の情報洪水の規模感をよりわかりやすくとらえるために、「あなたが発信しようとしている情報は、世界じゅうの砂浜にある砂の一粒」なのだと表現しました。略して「砂一(すないち)時代」。そんな時代に広告を押し付けても伝わるはずがない。
「伝えたい相手を笑顔にするための コミュニケーションプランニング」佐藤尚之さんインタビュー | CORECOLOR.JP

この情報が溢れている「砂一時代」と、それほど情報の洪水に触れていない「砂一以前」という2つの「厳しい現実」について第1回の記事は書きました。

第2回は、その「砂一時代」にどのように至ったかと、砂一時代の人達に「ファンベース」という考え方でどうアプローチをするのか、という大きく2点について解説されました。

後者は第3回に続くようなので、この記事では前者の「砂一時代にどのように至ったか」ということについてまとめたいと思います。混乱を避けるため、まずは情報の受け手の変遷から書いていきます。


受け手の環境の変化

・お茶の間プラットフォーム時代(砂一以前)

多くの人がお茶の間にいる家族を中心として、職場、学校、友人、知人と情報を共有し合っていました。この頃、情報ソースが少なく、情報はありがたいものとして捉えられていました。広告も情報源のひとつだと考えられていた時代です。

・トライブ・プラットフォーム時代

都会を中心として、老人、子供のみがお茶の間に残り、お茶の間での家族の繋がりが無くなっていきます。家族という従来の中心的な存在がなくなり、さまざまな繋がり(トライブ)がバラバラになりました。趣味や好みのかたまりで繋がりが存在し、トライブ単位でコミュニケーションをとったり、情報共有が行われていた時代です。一方で、お茶の間というハブがなくなったため、トライブ間で情報が伝わりにくくなりました。インターネットも少しずつ普及していきます。

・ソーシャルグラフ・プラットフォーム時代

ソーシャルメディアが発達することで、トライブごとに独立するだけではなく、個人を中心にトライブが結合されていきます。発信者以外の影響力のある情報強者が現れ、友人・知人からの間接的な情報も影響力が増しました。今まで無名の人々が押し寄せてエジプト革命を起こすような時代です。

・ファン・プラットフォーム時代

情報量が爆発し、仲間ごとが激増し、市場での選択肢が増え、メディアやツールが溢れ、エンタメで満たされた過酷な情報環境になりました。情報に埋もれるようになった生活者は、広告はもちろん、友人経由だとしても自分の興味のないほとんどの情報をスルーするしながら生活するようになっています


友人・知人が最強メディアに

このように、情報が氾濫し、情報そのものの価値がどんどん下がり、避けられるほどになることで、メディアの役割や影響力も大きく変化していきます。

マスメディアの影響力が下がる一方で、個人の発信力やネットワークの力が増し、友人・知人達がメディアとして大きな影響力を持つようになりました。友人や知人の力が増した理由として、以下の4つが挙げられていました。

・信頼される情報源

情報が多すぎる状況では、自分をよく知る友人知人に頼る方が、短時間で自分に合う情報にたどり着けます。検索で探しても、ヒットする情報は多すぎる上、誰が書いたものかも分かりません。Nielsenの調査では、2009年時点ですでに「友人勧められた情報」が最も信頼される情報源となっています。(Nielsen Global Online Consumer Survey、2009 年4 月)

・有益な情報が届いてくる便利さ

友人を介して届く情報はそもそも自分と類似しているネットワークを経由しているものが多いです。その情報の流通過程で、自分に合う情報やニュースがフィルターされ、自動的に自分に届きます。これは言い換えれば、友人のネットワークが便利なメディアのような役割を担うようになったということです。

・爆発的に拡散可能な仕組み

ソーシャルメディアはブログを書くよりも格段に楽に自分の共感を広められます。また、クリックひとつで自分のネットワークに広がるだけでなく、広まるようなネタの多くは広めたくなるような要素を含んでいるため、さらに次のネットワークへと、多段階の広がりを見せます。この簡単さとネットワークにより、情報が信頼と共感をまとって爆発的に広がるようになりました。

・友人とは常に繋がっている

スマホの普及に伴い、ソーシャルメディアだけでなく、LINEなどコミュニケーションアプリも含めた様々なツールによって、友人や知人と24時間連絡を取れるようになりました。ソーシャルメディアでは友人の最新状況、興味関心が分かりますし、いま活動している友人が誰かも分かります。

このように、信頼され、便利で、拡散しやすく、常に繋がっている友人知人という存在が、今のような時代には非常に影響力を持つメディアになりました。

では、ここからは、このようにメディアの影響力が移りゆく中で、情報の送り手がどのような施策を取るようになってきたのかの変遷を追っていきます。

送り手の施策の変化

・お茶の間プラットフォーム時代(砂一以前)の施策

情報はありがたく、広告も情報源のひとつだと考えられていた時代でした。

この頃は、「消費者、囲い込む、刈り取る、吸い上げる、ターゲット」など、人間相手に使わないような言葉が広告の世界で使われていました。

F1M1的なマスインサイトをもとに、決まったマスメディアでトップダウン的に情報を伝えて、お茶の間を起点に世の中に広げていくような施策か王道で効果的だった時代です。

・トライブ・プラットフォーム時代の施策

お茶の間に届くメディアだけではなく、届けたいトライブがいるメディアに向けて情報を届ける必要が出てきました。今まで通用していたような、マスメディアのコンテンツに割り込むような広告だけでは通用しなくなった時代です。

この頃は、コンタクト・ポイントが増え、クリエイティブも部分最適化し、コミュニケーションが複雑化したため、キャンペーン全体を俯瞰する「コミュニケーション・デザイナー」という役割が登場します。

十人十色のインサイトを元に、メディア・ニュートラルに考え、表現に限らず伝わる方法を綿密に計画し、繋ぎ合わせる必要が出てきます。

・ソーシャルグラフ・プラットフォーム時代の施策

影響力のある情報強者、友人・知人同士が結びつき始めた頃です。「関与する生活者」がソーシャルメディアでつながり、個人が感情と行動力を発現させていきます。

同時に、情報がありすぎる時代なので、邪魔をして見せるような広告はスルーされはじめる時代でもあります。
情報に興味を持っていない生活者に伝える方法、見てもらう方法として、インフルエンサーや知人・友人を介して、魅力的なストーリーを間接的に伝えて振り向いてもらうような方法が流行しました。「バズを生じさせる」というようなワードが増えた頃です。

・ファン・プラットフォーム時代の施策

そもそも、知人・友人経由だとしても興味がない情報を受け取ってもらえません。ここでFan Baseという考え方が出てきます。

まずは喜んで情報を受け取ってくれる人たち(Fan)とコミュニケーションする必要があります。その商品の顧客をはじめ、その商品や企業のファン、その商品体験や企業体験のファン、より潜在的なファンなど、情報を伝えてもらいたがっている人の共感を呼ぶことが必要です。

そして、共感を呼んで情報を受け取ってもらうだけでは、情報は広がりません。情報を友人・知人に自分から語りたくなるような働きかけも不可欠となります。

自分の(オーガニックな)言葉で語ってもらうためには、彼らが本当に大ファンであるもの、事前期待を大幅に上回ったもの、リアルに体験したこと、自分が価値を発見したもの、自分の価値を上げそうなもの、をファンに届けて、ファンが協力したくなる施策でないと、多くの人、特に情報感度の高い人には響かなくなりました。

では、Fanからのオーガニックな言葉を引き出すには・・・

Fanからのオーガニックな言葉を引き出すファンベースの方法は、第2回で一部触れられたのですが、冒頭の通り、時間が来て途中で終わってしまったので、まとめて第3回の記事として書こうと思います。

第2回では「こちらが口説き落としたいマスと、その情報を買いたいと思っているファンは全然違う(変わってきた)」ということを学びました。それに合わせて施策側の手法がどのように変えてきたいま、送り手、受け手双方にとって「友人知人メディア」がいかに重要な存在なのかが説かれました。

第2回の話を聞いた後、個人的には「砂一以前の人達と効果的なコミュニケーションを続けることはできるのか」「企業はどうやって友人のように思ってもらえるのか」「ファンベースのエキスパートであるさとなおさんが絶対的に信頼する情報ソースを知りたい」「それでもやっぱりすぐ消費されるのでは?」「WebサービスなどIT製品を砂一以前に売るときはどうすればいいんだろう?」「もはやよく回ってくるWebオウンドメディアのHow to記事とかはありがたくないんだろうなぁ」など、色んなことを悶々と考えながら第3回を迎えることになりました。

・参考:第2回の参考文献

「ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体」(幻冬舎新書)原田曜平:「砂一以前」の人達の典型例の生活や考え方を知るために紹介された本。

「明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法」 (アスキー新書)佐藤 尚之

「明日のコミュニケーション 「関与する生活者」に愛される方法」(アスキー新書) 佐藤尚之

「明日のプランニング 伝わらない時代の「伝わる」方法」 (講談社現代新書)佐藤 尚之

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