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映画#8『インセプション』

作品の概要

『インセプション』(原題:Inception)
公開年:2010年
監督/脚本:クリストファー・ノーラン、エマ・トーマス
音楽:ハンズ・ジマー
出演:レオナルド・ディカプリオ、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、
   渡辺謙、トム・ハーディ、他

「夢の中」で描かれる、多重構造の世界観

今作は主に他人の夢の中で物語が展開されていく。主人公のドム・コブは、そんな他人の夢に入り込み、隠された記憶を盗み出すスペシャリストだ。
この夢の中というのは当然人によって様々で、ある人にはフランスのパリの街並み、ある人には巨大なホテルだったりする。その風景というのはあまりに現実と酷似しており、劇中でも夢を見ている本人が夢と気づかない限り、夢の中の世界は現実のようにあり続ける。

その夢というのは変幻自在であり、「夢の設計」では街の地面をひっくり返すことすらできる(この描写は2017年公開のヒーロー映画『ドクター・ストレンジ』でも用いられている)。

さらに夢の世界というのは、本人が現実世界で受けた外的要因に影響を受ける。例えば本人が尿意を催していたら夢の世界は大雨が降る。本人の身体が上下逆さまになったりすれば、夢の世界の重力も変化する。
ここでさらにややこしいのが、夢の中で更に夢を見れるということだ。つまり夢の中で体感したことが、その更に奥の夢の世界にも作用する。
そんな複雑な設定をSFアクションに落とし込んでいる(制作当初はホラー映画だったらしい)のだから、ノーランの表現技法には脱帽させられる。

夢により居場所を失った男の「贖罪」

主人公・コブは、妻殺しの罪でアメリカに指名手配されている状態だ。そこから逃れ続け、世界を転々として産業スパイとしての活動を行なってきたが、そこには切ない真実が隠されていた。

前述した通り、夢の世界というのは現実世界と混同してしまうほどに現実味がある。ましてや自分の思い通りに世界を作り替えることもできるのだから、一度そこに踏み入れてしまえば忘れ去ることは困難を極める。

コブとその妻は夢の世界にて二人の理想の世界を作り上げ、そこで50年もの長い時を過ごした。
そしていざ現実世界に帰ってきた時、妻は帰ってきた現実世界を未だ夢の世界であると錯覚していた。そして記憶の混同の末、記念日の夜に妻は自殺をしてしまった(死ねば夢の世界から覚めるため)。

それから妻は、コブにとってとても強い潜在意識として残り続ける。夢の世界でも度々登場し続け、何度もコブの前に立ち塞がってきた。

しかしこれほどコブが妻のことを忘れられないのにも理由がある。それはコブが妻に対して行なった「ある事」が、妻の自殺に繋がってしまったからだ。

コブは、妻に「アイデアの植え付け」、つまり「インセプション」を行なったのだ。その内容とは「ここは現実だ」というもの。しかしこの効果は現実世界に戻った後でも強く残ってしまい、しまいには現実世界を夢の世界と錯覚し自殺に至ってしまったのだ。

ラストシーンでは自らの妻の記憶にも別れを告げ、やがて残った家族である子供たちと再会する。ここで初めて、コブの罪は償われたのかもしれない。

総評

今作も難解な設定が多く盛り込まれた作品だった。しかしそれは同時に、観れば観るほど味が出てくる、所謂スルメ作品である証明でもあると私は思う。
ただ、夢の中という現実に限りなく近い世界で繰り広げられる物語はとても印象的で、個人的にかなり気に入った作品だった。
何より俳優が豪華すぎる。作品を鑑賞し、「あ、この俳優さんあの作品で出てた人だ」という気づきをもたらしてくれるのも、映画鑑賞の醍醐味の一つだなと感じた次第である。
ノーラン作品を一通り鑑賞したらもう一度観てみようと思う。

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