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『マザー・スノー』なんでやねん!③

「………なんでやねん。なんでやねん。なんでやねんなんでやねんなんでやねん!!」


まるで『なんでやねん』しか言葉を知らない壊れた玩具のように、その言葉ばかり繰り返しながらベッドに雪崩れ込む優希。


そして掛け布団に包まりミノムシに擬態して、外部からのアクセスを一切拒むかのように、アデルに対して心を閉ざした。


キャラクターデザイン応募の話は、彼女にとってはまるで、灰色に塗られた味気の無い絵画に、色鮮やかな絵の具を落とすかのような、刺激的かつ魅力的なものだった。


ただ言われた通りのことを惰性で行うだけの退屈な日々の中にも、自身のやり甲斐を見つけられたなら、もっと輝けるのではないか?

もっと人生を彩り豊かに仕上げることが出来るのではないか?

そう考えていた矢先のこと。


まさか、自分のやりたい事を見つけたその瞬間に、自分の人生が何者かによって摘み取られる事になる未来が来ると知るなんて。


信じたくはない。しかし、これからそうなる可能性も否定は出来ない。


『世の中の嫌な奴を濃縮還元したような、最低最悪の男』とは、間違っても一切合切関わり合いたくはない。


まだ一度も会ったことすらないその男に対して、沸々と怒りが湧き上がる優希。

何故そいつは、自分から人生を奪い取るのか。
何故自分がそいつのせいで命を落とさなければならないのか。


「……ゆるせない。ころしてやりたい。」


彼女の中から明確な殺意が生まれる。


" 心配することはない。そいつは死ぬんだ。君の死は肉体だけの死に過ぎない。

そいつの死は肉体だけじゃなく、魂までもが死ぬ。


奴は圧倒的に内面の塩分濃度が足りていないから、魂を溶鉱炉で最低百年は燃やされるんだよ。


そうなれば、魂なんて欠片も残らない。

そいつが笑っていられるのも、せいぜい生きている間だけ。


僕だって、そいつを絶対にゆるさないさ。


上下の歯が擦り切れて無くなるまで、そいつは溶鉱炉の中で、泣きながら歯ぎしりすれば良いんだ。"

脳内に直接語りかけるアデルの声は、冷静さの奥底に、青白い炎のような怒りをたたえていた。
それはまるでアデル自身が、何十年もの間その男の足台にされていたかのような、怒り。

" 君に是非、会わせたい人たちがいるんだ。"

「……誰?」

" その男に傷つけられ、踏みにじられて来た人たちだよ。

数が多すぎるから、全員とはいかないけど。
その中でどうしても会わせたいのは1人。

25歳になる君の息子の、龍だ。
彼の最期の日をどうか、見届けてほしい。"



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