入管法改正案は何が問題なの??その実態と課題について考える

現在、衆議院で審議されている「出入国管理法」(以下、入管法)の改正案。5月12日の委員会では、立憲民主党が採決には応じられないとし、採決が見送られました。では、そもそも入管法とは何なのか、その入管収容施設ではどんなことが起こっているのか、そして最後に、なぜ今回の「改正案」が問題なのかについて、わかりやすく解説したいと思います。

ー入管法ってなに?

まず入管法とは、1951年に施行された法律で、正式名称は「出入国管理及び難民認定法」です。入管法は、日本に出入国するすべての外国人に対して、公正な管理を行う法律です。外国人の在留手続きや難民の認定などについて、定めています。2018年12月8日に、第197回国会(臨時会)で、「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が与党の強行採決で決まりました。

この2018年の改正後、技能実習生の劣悪な労働環境が浮き彫りになり、技能実習制度の本来の目的とは違って、「外国人を安い賃金で単純労働させる制度」として多くの批判が上がりました。

2018年改正案が強行採決されたことからもわかるように、この改正案には、日本の労働力不足を補うために、外国人を「労働力」として利用しようという日本政府の意図が込められていたことは言うまでもありません。

技能実習生の労働環境問題は現在も深刻で、長時間労働、賃金の未払い、各種手当の未払い、 有給休暇がない、いじめられる、パワハラがある…など、多くの技能実習生がひどい扱いを受けています。

ー入管収容施設の実態

次に、入管収容施設に目を向けると、そこには技能実習生問題とは別の深刻な問題が存在します。

まず、入管収容施設とは、日本での在留資格がない、もしくは失った外国人が母国への帰還の準備が整うまでを前提に一時的に収容されている施設のことを言います。ここで問題となっているのが、収容の長期化問題です。

収容はあくまで「一時的」であるはずなのに、人によってはどんどん収容が長期化され、3年以上収容されるというケースが出てきています。

昨年、国連人権理事会の「恣意的拘禁作業部会」が、こうした実態を「国際法違反」と指摘しました。

「在留資格がない外国人が悪いのでは?自分の国に早く帰ればいいんじゃないの?」と思っている方もいるのではないでしょうか。しかし、強制退去命令を受けた97%の外国人は送還に応じていて、残りの3%は、「命の危険がある」「家族が日本にいる」「生活の基盤の全てが日本にある」など、帰ることができない事情を抱えている方たちなのです。そのような方たちを、強制的に本国へ帰還させることは、人権侵害の何ものでもありません。

そして今年3月、名古屋入管の収容施設に収容されていたスリランカ人女性ラスナヤケ・リヤナゲ・ウィシュマ・サンダマリさん(33)が亡くなりました。面会を重ねた支援者によれば、彼女は年初から体調を崩し、誰の目にも衰弱は明らかであったと言います。入管側に何度も外部の病院に移すよう求めたが、認められることはありませんでした。(施設側は自らの責任を一切認めていません。)

ウィシュマさんの他にも収容施設での死亡事例は後を絶ちません。過去15年間で、少なくとも17人の外国人の死亡が報告されています。長期収容が横行し、医療も精神的ケアも不十分であることから、問題の根源が収容者に対する入管の人権軽視政策にあることは明らかです。

では、日本の入管制度が、このような深刻な問題を抱えている中、現在審議されている「入管法改正案」は、どのような改正案なのでしょうか。

ー2021年入管法改正案の問題点

今回の入管法改正案は、上記の問題の実態を放置したまま、入管の権限を拡大しようとしています。

特に深刻な点は、「難民申請の回数に制限を加え、国外退去に従わない者には刑事罰の適用(1年間の懲役または20万円以下の罰金)も検討されている」ことです。

また改正案では、難民申請の手続きに関して、3回目以降の申請の際には、外国人を本国へ送還できるようになります。(現行制度は難民認定の申請中は外国人を送還できません。)

本来ならば、やむを得ず本国に帰還できない外国人を保護したり、在留資格を与えることが入管の取るべき措置であるにも関わらず、「日本で罪人になるか、本国に帰り命の危険に晒されるか」の究極の2択を、外国人に選択させる法案になりかねないということです。

そもそも、日本の難民認定率は0.4%で、カナダが55%、イギリスが46%、アメリカが29%と、世界各国に比べても圧倒的に低い数字です。それはつまり、改正案が採決されれば、難民申請をしても認定されない=3回目の申請以降本国に強制送還される。という流れになることは、目に見えて明らかです。

在留資格をもらい日本で生きたいと願う外国人を追い出すのか。それとも、技能実習生の労働環境や入管施設の問題を省み、外国人との共生のために、実態の解明や適切な法整備、次世代の教育を行っていくのか。

私たち一人ひとりが声をあげることによって、入管法のより良い改正を促し、収容施設における外国人差別問題を解決していけるのではないでしょうか。

以上、現在審議されている「入管法改正案」について、簡単に説明しました。以下参考にしたWeb記事を載せておくので、より詳しく知りたい方はそちらをご覧ください。

2021年5月13日/金将来

♦参考資料

・入管法「改悪」 日本は難民を「犯罪者」に仕立て上げるか<寄稿>安田浩一さん(2021年5月12日/東京新聞)

・「“他人が生きていてよいかを、入管は自由に決められる”というお墨付き」―入管法が変えられると、何が起きてしまうのか(2021年5月7日/安田菜津紀/Dialogue for People)

・入管法改正案、山積みの課題とは? 難民申請3回以上は送還可能に...申請者「命の心配をせずに暮らしたいだけ」(2021年5月12日/東京新聞)

・せやろがいおじさんの入管法に関する解説(Youtube・IGTVなど)

・「入管法の改正案採決見送り 立民が収容施設で死亡の真相究明」(2021年5月12日/NHK NEWS WEB)

・入管法改正案、12日の衆院委採決見送り 野党「慎重審議を」(2021年5月12日/日本経済新聞)

・「ガラ」と見下す風潮 元職員が明かす入管の人権意識(2021年5月12日/毎日新聞)

・名古屋入管収容のスリランカ女性死亡 医師「適切な栄養補給されず」(2021年5月11日/毎日新聞)

など


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