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風の踊り(Danza del viento)サンプル

小川紀美代
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原点に帰れ

この数年間、私は自分でも予想もしていなかった、激動の時間を過ごした。

地球の反対側アルゼンチンを行き来し、数万人規模のフェスに出演したり、素晴らしい出逢いに恵まれ信じられないような幸運や素晴らしい経験をした。
ブエノスアイレスでの伝説のマエストロ、アニバル・トロイロのバンドネオンを使用してのレコーディング、そしてその楽器は海を渡り、日本にやってきた。
そして、孫のフランシスコ氏との日本ツアー。

これらの過程で数えきれない方々のご協力を得た。
自分たちでさえ信じられないような奇跡のような状況の中で支え合った大切な絆は、かけがえのない宝だ。

またその一方、人間の裏側の感情を突きつけられるような出来事も同じくらいあり、毎日がジェットコースターのようだった。

一連の事業が無事終了してからも、自分に立ち戻るためにはかなりの時間がかかったのだ。
元々、オリジナル作品を作曲したり、即興演奏など自由な演奏スタイルを好む自分が数年間、どっぷりとアルゼンチンタンゴ、フォルクローレに漬かり、それを深く追求していた。
本当に素晴らしい経験、勉強になったと思う。

しかし、、、、、

曲が書けなくなった。

何かストッパーがかかったように、自分の言葉が出てこない。

周囲の期待、人付き合い、依頼される仕事の質も変わった。

完全にキャパオーバーだった。
そして、自分を見失った。
辛かった。

そんな中、山形の限界集落、大鳥在住の彫刻家、嶋尾和夫さんから音楽祭への出演依頼を頂いた。

スマホも、パソコンも持たず留守電すらない彼との交信方法は、手紙と、電話。

心から自然と芸術、そしてバンドネオンを愛する彼とのやりとりは音楽祭出演まで約一年続いた。
そのやり取りの中で私は大鳥をイメージし、曲を書くことができた。
そしてこれがきっかけで、堰を切ったようにまた、自分の言葉が、あふれてきた。

何がいいとか悪いとかそういうことではなく、自分の流れの中でとても大事な出来事だった。

原点に帰れ。
私たちに必要なものは、そう多くはないのだ。

今、ソローの森の生活を読みながら、しまちゃんを思い出している。
そろそろ手紙でも書こうかと思う。

大鳥音楽祭の最後の日、キャンプファイヤーの前の幸せな唄や踊りを忘れることができない。

もちろんあの、熊汁も笑。

みなさんのサポートは、音楽活動を続けるため、生きていくために、大切に使っていきます。そして私も、誰かの小さな心の支えになれますように。