ドラマじゃない!本当に死ぬかと思った刑事のお話【S県K市への出張編②〜リベンジ〜】
【前回のあらすじ】
事件の捜査でS県K市に乗り込んだ私たち。
あるビルに住む被疑者の行動を見張ろうとレンタカーに乗って監視をしていたところ、ビルの屋上で全裸で阿波おどり調に踊り狂う被疑者を発見。
驚いていた矢先に、レンタカーの周囲を被疑者の手下である暴力団員たちに取り囲まれて、ぶっちゃけ人身事故だったんじゃないのかなと思う勢いでその場から退散した。
すぐに撤収命令がかかった私たちは翌日のうちに帰県。
そっとリベンジを誓うのであった…
反省の帰路…
S県からの帰路、私は飛行機の中で苦悩していました。
「奴らに勘付かれたのは、自分のせいではないか?」
だって、キャッチのお兄さんたちは暴力団員か、あるいは準構成員という限りなく黒に近いグレーか、最低でも暴力団員が経営している飲食店の従業員。
私の警戒心不足で尾行されてしまったのではないかと悩んでいたわけです。
ところが、どうも現地に行った捜査員と話していると「関連の被疑者を先に逮捕してるから、相当に警戒心が上がってたのでは?」という結論に達しました。
なにも刑事オーラを垂れ流していたわけではないし、日頃から「あなた、刑事さんっていうよりもJAの人みたいよ」なんて言われてしまう優しい人相・人当たりな私。
「バレたのって、オレのせいじゃないよね!」
立ち直りは早かったと記憶しています。
リベンジ作戦に志願!
帰県した私たちを待っていたのは、労いではなく作戦会議でした。
「次は万全で行くぞ!」
ヤル気の課長にいつもならイライラするところですが、その日ばかりは燃えていました。
絶対にリベンジを成功させてやる!
もちろん、リベンジ戦は自ら志願しました。
「もう一度いきます!現地を知ってるし、負けっぱなしは性に合わないですからね。」
そしてK市へ…リベンジ戦スタート!
帰県の2日後、さっそくリベンジ部隊はS県K市へ。
今回の作戦は『突入』です。
突入部隊は2つの3つの班に分かれています。
まずは『先制攻撃班』。
なんと、対象の部屋の真上の部屋からロープを伝ってベランダに乗り移り、窓ガラスをぶち破って突入するというスリリングな役目。
さすがに身軽じゃない私はここには選ばれませんでした。
次が『援軍班』。
対象の隣の部屋の協力を得てベランダに入らせてもらい、ベランダの防火壁を破って対象のベランダに突入。
先制攻撃班が破壊した窓から屋内に入って被疑者を確保する役目です。
私はこの班にメンバー入りしました!
最後に『令状班』。
いくら相手が暴力団員であっても、こんなミッションインポッシブルみたいな突入が法治国家で許されるわけがありません。
ということで、中からカギをあけてもらい、捜索差押え許可状、通称『ガサ状』を提示するという大切な役割です。
さぁ、対象の在宅も確認して、作戦スタートです。
超突入劇……にまさかの『出遅れ』
作戦決行まで対象のお隣さんのベランダに潜む私と先輩。
先制攻撃班が突入するまであと数分…
無線機につないだイヤホンからは決行までのカウントダウンが流れてきました。
10、9、8、7…………Go!
ガッシャーーーーン!
派手なガラスの破壊音とともに作戦が始まりました。
先制攻撃班になった先輩は柔道4段、逮捕術の県代表だった超武闘派で、このくらいのアクションは朝メシ前。
援軍班はガラスの破壊が合図だったので、すかさず私の前にいた先輩が防火壁を蹴り破って穴を開けて、突入しました。
よし、オレも!
と防火壁をくぐろうとした私に悲劇が襲いかかります。
あ、穴が狭すぎる…
私、身長180㎝、体重85kgの見事なレスラー体型のため、先に穴をくぐった小柄な先輩が通り抜けた穴の大きさではくぐり抜けられなかったのです。
どうにかくぐり抜けられないかと身体をねじりながら突っ込んでみましたが、肩幅でひっかかってしまい、どうしても抜けられません。
冗談じゃなく、こんな状態です。
その間、部屋の中からは
「動くコラァ!抵抗するな!!」
という怒号がこだましており、すでに先制攻撃班が被疑者と接触している様子が伝わりました。
ヤバい、出遅れてしまったどころか、このままだと全てが終わってしまう…
仕方なく、いったん頭を抜いて体制を立て直して防火壁をキック!
しかし、すでに中央部分が割れているため、衝撃が伝わりにくく割れてくれません。
ますます動揺する私、もういっそのことけん銃でぶち壊してやろうかと思いました。
しかし、こんな至近距離でけん銃を撃ってしまえば『跳弾』といって跳ね返った弾丸で大ケガをしてしまいそう…
えーい、どうにでもなれ!
とにかく力いっぱい防火壁を蹴りまくりました。
それはもう百烈キックなみに何度も蹴って、蹴って、蹴りまくって、防火壁を固定している枠ごと破壊しました。
ハッキリ言って「無用な破壊行為」なんですが、それでなんとか突入に成功したのです。
ちなみに、この間はほんの20秒程度のできごとでした。
ほんの20秒程度のできごとのはずだったのです…
襲撃と勘違いしてひれ伏す被疑者
私がほんの20秒ほど遅れて突入して、最初に見た光景は、
リビングの床にうつ伏せ・全裸の状態でひれ伏した被疑者と、被疑者の上に馬乗りになって後頭部を押さえつけている先制攻撃班の先輩の姿
でした。
おお、マジか…
こんな制圧方法で問題にはならないのか?
しかし、被疑者の怒号を聞いて、すぐにその不安は消し飛びます。
「お前ら、どこの組のもんじゃぁコラァ!」
?
??
もしかして、ウチら、警察って思われてない?
どうやら、対立している別の暴力団組織による襲撃だと勘違いしているご様子…
「あ、あのね、ウチら警察ですよ」
と説明すると、被疑者は
「え?あぁ、それならそうと早く言ってよ。
殺されるかと思ったじゃん」
と安心してしまったのです。
難なく逮捕状を提示して逮捕、服を着せて手錠をかけて、そのまま羽田へと向かったのでした。
無事に帰還…そして笑いものになる
片田舎にある地元の空港に着くと、空港警察の方に案内されて一般のゲートとは別のゲートへと通されました。
空港警察というのは、空港があるエリアの警察署が管轄する派出所のひとつ。
「空港警備派出所」という部署の人たちですが、主に「警察官もいますよ」というアピールのために存在しています。(失礼)
ちなみに、羽田は大きすぎるので羽田空港の警察署が独立しています。
被疑者を連行する際に飛行機を使う場合は、時間になるまで羽田空港警察署の留置場に収容するのがセオリー。
しかも、誰かが一緒に牢屋に入って監視しないといけないので、今回は東京ばな奈はお預けです。
さて、地元の空港に着いた私たちは別ゲートから外に出たのですが、
「バシャ!バシャ」
とまぶしいフラッシュやテレビカメラが出口を取り囲んでいました。
大がかりな犯行グループの主犯格を片田舎の警察署が捕まえたので、報道陣が押し寄せていたんですね。
これにはちょっと驚きました。
ある程度、警察官をやっていると報道慣れしてくるものですが、カメラの数が多いと色んな意味で興奮します。
「オレ、カメラ映り大丈夫かな?」とか邪なことを考えつつ、ありがちな「被疑者の顔を隠す」という方向で車へと向かいました。
これも余談ですが、警察官は自分が映ったと思しき報道は必ずチェックします。
新聞の一面なんかにカラーで掲載されようものなら、切り抜いて大切に保存します。
テレビなら自宅に電話して「今日のイブニングニュース、録画しといて」なんて伝えます。
意外とみんなミーハーなんですよ。
さて、被疑者を連れて警察署に帰り着いた私たち。
前回の敗走があったので、今度こそは「捕まえてきましたよー!」と堂々と帰還したのでした。
デスクに意気揚々と戻った私。
警察署で指揮をしていた課長にご挨拶をしたところ「あのこと」がバレていました。
お前、突入に出遅れたらしいな
しかも、デカくて引っかかってたとか…
なんと…
まさか労う前に失態を突っ込まれるとは。
デスクのみなさん、大爆笑!
あぁ、もう…
恥ずかしくて死ぬかと思った。
チャンチャン♪
☆☆☆次回予告☆☆☆
次回はまさにドラマよりもドラマチック!
殺人事件の現場でみた驚愕の光景!
『なぜ室内に◯◯が⁉︎』をお送りする予定です。
お楽しみに〜( ^ω^ )
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