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【短めnote】詐欺師はスーツを着る

私が駆け出し刑事のころ、直属の上司からいわれた格言(?)があります。

「詐欺師はスーツを着る」

たとえば、泥棒は身軽で動きやすい服装をしています。

暴行犯は一見してヤクザ風だとか、なんらかの粗暴なイメージがあります。

では詐欺師はどんなイメージなのかというと、こんな感じです。

・身なりが小綺麗である
・パッとみで犯罪者風でもない
・どちらかといえば物腰は柔らかい

だからこそ、詐欺師はまるでまっとうなサラリーマンやビジネスマンのように「スーツを着る」なんて言われるわけです。

詐欺師は見た目で信用させる

詐欺罪は嘘を信じ込ませることが重要なステップとなります。

あなたは、見るからにお金を持っていないボロボロの身なりをした人から
「来月には大金が入るから」
と言われてお金を貸しますか?

当然、「そんな話、信用できないでしょ」とお断りしますよね。

ところが、たくさんの人が詐欺の被害に遭っています。

「まさか嘘の話だったとは…」と驚かされ、地の底に落とされるような地獄を味わっているのです。

詐欺師は字も上手い

ある詐欺師の取調べで驚いたことがあります。

取調べのなかで犯人が説明した内容は『供述調書』という書類にまとめます。

基本は面前で手書きで作成するものですが、逮捕身柄などになると時間をかけて訴訟に耐えるものにするため、パソコンを使って推敲しながら作成します。

できあがった供述調書は、最後に刑事が読み聞かせて間違いがないかを確認してもらい、間違いがなければ犯人に直筆の署名をもらいます。

60歳を過ぎたある詐欺師に署名をもらったのですが、これがまた感嘆するほどの美しい名前を書くのです。

毎回、調書の最後に署名をもらうたびに美麗な文字を書くものだから
「◯◯さんは本当に字が綺麗ですね」
とつい声に出してしまいました。

「社会人として信用してもらいたいですからね、自分の名前くらい綺麗に書けないと」

なるほど。

詐欺師たるもの、契約書類や借用書など、自分の名前を書く機会が多いはず。

見た目にスーツを着てキメ込んでも、字が汚いと「ありゃりゃ…」と思われてしまうわけですね。

姿を見せない詐欺師など、詐欺師ではない

総じて詐欺師は他人から見た目の情報がとても美しく、誰よりもマトモな人に見えるということになります。

『対面犯』といって、得体の知れない正体不明の犯人ではなく、堂々と被害者の前に姿を現している犯罪だからこそ、身なりは美しく整えられているのです。

では、流行りの振り込め詐欺やネット犯罪はどうなのか?

私が知る限り、振り込め詐欺やオークション詐欺などの『非対面犯』の犯人は「美しさ」にこだわってなどいません。

なんてことない、本当になんの印象もわかない程度の、いたって普通の人。

こんなの、詐欺師でさえもありません。

せいぜい『ウソ師』程度に改名してやりたくなります。

スーツは知能犯刑事の戦闘服

知能犯刑事はスーツを着て取調べに臨みます。

知能犯刑事にとって、スーツは戦闘服であり、気合いの表れであり、そして礼儀でもあります。

身なりを整えて「オレを口説き落とせるかい?」と上から臨む詐欺師に対して、シャツにジーパンの刑事が敵うはずなどないのです。

同じ部屋の中でも
「知能犯は綺麗な格好をしてて、現場に出る気なんてないのかね?」
なんてイヤミを言う刑事がいましたが、盗犯や強行事件の刑事が動きやすい服装なのと同じです。

身なりを整えることは、精神を整えることと同義。

自分のポジションにあった服装や立ち振舞いを身につけることは、戦闘準備の必須項目なのです。

「格好から入る」は大いに結構なこと。

格好を整えることさえできないのに大義を果たすことなんてまず不可能なんですよ。

あなたも「まずは格好から」で勝負に臨んでみましょう。

『なりきり』が解決することもあるものですよ。

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