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ここにしかない景色〜失敗経験人生物語・助産師実務病院編〜

今日は、病院、クリニックで働いていた時のお話です。
患者側から見えない、病院の裏側の様子を語りますが、全ての病院で行われているわけではないので、こんな病院もあるという感覚で読んでください。
登場人物は、私の勝手なイメージの人を当てはめています。

32歳にして助産師1年目。就職した総合病院は、当時行われていた全国病院ランキングで上位に入り、ここの産婦人科は花形として有名で凄腕産婦人科医が揃っており、全国からDrヘリで重症妊婦が搬送されてくる病院でした。
同期は、今でも熱く助産師話する仲の、沖縄出身の安子ちゃんと私以外は、京大、信大、名大、名市大と一流大学卒のばかりのメンバーの中に、4流大学卒で小学1年生の子持ち30代の私というメンツ。頭脳では到底かないません。先輩から教えてもらったことをマニュアル化するのも、すごく上手で可愛い図解説付きでまとめていて、感動するものでした私と安子ちゃんは、みんなが作ってくれたマニュアルをいただくばかり。私はマニュアルを暗記して実践するタイプの人間ではなく、先輩の背中を見て自分の感覚で覚え、原理原則は守りつつ、やりやすいように変えていくタイプ。なので、すぐに独り立ちさせられ、体育会系の先輩たちに鍛え抜かれていきます。

私より年齢が若く、新人の医者なんか丸め込んでしまう大門先輩とよく一緒の勤務で分娩室係をやりました。見るからに「私失敗いないんで!」というセリフを言いそうな先輩でした。何度も「遅い!」「優先順位が違う!」「焦りながらも丁寧に!」「あなたが行った行動の訳を言え!」と言われまくっておりまた。仕事終わりには、いつも1時間くらいの反省会で本当に嫌でした。「一生懸命やっているのに、これが限界なのに」と不機嫌丸出しの顔をしながら、心の中ではつぶやきながら、話しを聞いている自分がいました。今となるとその先輩のおかげだなと思うことは多々あります。他の同期たちは、「大門先輩が怖くて仕事に来れない」「一緒に分娩室はできません」と課長に自己申請していくので、気づくと、私しか大門先輩と仕事できる同期がいないという状況になっていました。

私が一番恐怖に感じていた存在は、凄腕産婦人科医のルパンDr。帝王切開をなんと20分以内に終わらせてしまいます。なので、緊急時はルパンDrに簡潔かつ重要な患者情報と経過を説明し、1秒でも早くOPEができる準備をし、手術器械を素早く渡さないといけません。心臓が口から飛び出そうなぐらいの超プレッシャーです。
新人の頃は怒られるし、話もしてもらえないし、分娩担当医がルパンDrの日は、常にドキドキしながら「できればお産の人がいませんように」と祈りながら仕事をしていました。が、そういう日に限って分娩室も陣痛室も満床で、babyちゃんの心音が下がり胎児仮死になったり、骨盤の中に真っ直ぐ降りてこれなくて分娩停止なったり、胎盤が先に少し剥がれてきたりと、緊急帝王切開になるんですね。私はお産を呼ぶ人なので、先輩たちからは一緒の勤務で分娩室係に私がいると、必ず忙しくなるので「あんたの手からアトニン(子宮収縮促進剤)出てるよね?今日も残業決定ね。」と嫌がられておりました。胃が鷲掴みされたように痛くなり、憂鬱になりながら、気づけば勤務時間オーバーしていることは常。当時は本当に嫌で、安子ちゃんと辞めたいね。と言い合う毎日でしたが、今となると総合病院でのあの経験があったから今の自分があると感謝できることばかりです。

こんなに高度な医療を提供する総合病院でも、出産後、出血多量で子宮全摘することになる事例や、管理入院していた妊婦さんの双子ちゃんの一人が亡くなっていることに妊婦健診まで気付けなかった事例、出産後脳梗塞を起こして我が子を抱くことなく、寝たきりになってしまった事例など、医療の限界をまざまざと見させられることもありました。
時には、「えーーーー!!そんなこと現実世界で本当にあるの?!!!」と目が飛び出そうになるような、ドラマの世界だけの話だと思っていたような人生劇場もたくさん見てきました。
望まぬ妊娠出産でbabyちゃんを児童相談所に引き渡す場面にも立ち会いました。なんとも言葉に表せない切なく無力感を感じる場面もありました。

クリニックに移ってからは、総合病院のように高度な医療機器も十分なスタッフもいません。経営面も大きく影響するので、使う物品は1円でも安く、無駄使いしない。緊急時に必要な薬品や物品は、使用頻度が低いので代用できるものがあるならばそれで対応する、という環境。異常分娩になる人も少ないですが、全くないわけではありません。経営が絡んでいるので、毎月の正常分娩と帝王切開の比率が6:4か7:3と決められているんです。これにはびっくりしました。なので、石田純一院長から「この妊婦は帝王切開に持っていく。」と妊婦健診で目をつけられると、誘発分娩の予定を決め、フルコースで誘発過程を進み、最後は帝王切開になるように仕掛けるんです。本当にこんなこと医師がするのか・・・と初めは開いた口が塞がらなかったです。このことに抗議したこともありましたが、返ってくるのは「おたくの給料減ってもいいの?」でした。それだけではなく、分娩費用を得るために緊急かつ高度な医療が必要な状況での帝王切開が必要な産婦さんでも、「最悪な状態になったら、搬送したらいい!」といい、物品も薬品もスタッフも足りていない環境で平気で帝王切開する始末。何度怖い思いをし、いつか犠牲になる妊産婦・babyがでるのではなきあ?助産師免許なくならないか、と、そわそわ・ヒヤヒヤしたお産に関わった件数は、数え切れません。

そんな中で昨日お話しした、最大の事件1つ目の常位胎盤早期剥離の妊婦さんの事例が起こります。教科書で習う症状は、実際の現場では見られないことが多々ありますし、痛みの感じ方も個人差が大きく、異常かどうか判断するのに難しい場面は多くあります。こういう時に役に立つのが自分の経験値と感覚です。1,000件以上のお産を取り上げている助産師でも、この時の異常を見抜けず正常と判断していました。私の助産診断ではCTG(分娩監視装置)上のbabyちゃんの心拍は少し元気ない感じのサインが出ており、産婦さんのお腹の張りは嫌な予感がする波形で自覚症状でもずっとお腹が痛いと言っていました。これは、搬送事例になると準備をしていた時に、一気にbabyちゃんの心拍が下がりました。救急車を呼ぼうとしている私に、「ここで帝王切開するから準備して」という石田院長。背筋が凍るような嫌な結果になる予感しかしません。「絶対に搬送するべきです。」と言っても、「いいから準備して。」のやりとりの平行線で、結局帝王切開することになります。
いざbabyちゃんが生まれると、全身の肌の色は真っ白。「これは助けられるか自信ない、ダメかも」と頭をよぎりましたが、必死で蘇生し、救急車で総合病院のNICUへ搬送されました。後にこのbabyちゃんが脳性麻痺になったと聞きました。産婦さんはというと、低体温を起こしクリニックで管理できない状態。それでも搬送せず、他のスタッフも大丈夫でしょうとほとんど観察しない状況に、私が対応。旦那さんからは、怒りが込み上げ、今にも殴りかかってきそうな感情の拳を後ろに回し、必死に堪えながら説明を聞いていた姿が忘れられません。この時、この家族の人生を変えてしまった1人であることに自責の念でいっぱいになり、悔しさも込み上げ自宅に帰り、大泣きました。

分娩はどうだったかというと。私が立ち会うお産は、陣痛開始から数時間で生まれる事例。勤務に入った途端に停滞していた陣痛が強くなり、あっという間に生まれる事例。「トイレ行きたいです。」と言われて内診しても5cmも開いていないからOK出したら、トイレで生まれてしまった事例。などと安産のお産か、産婦さんやbabyちゃんの生死が問われる事例と極端でした。
毎年の学生実習でも、お産を呼ぶので、教授には感謝され、臨床からは「先生が来る時だけ忙しいんです」と苦笑いされています。この不思議な現象を、オーラソーマのスナフキン先生にいうと「babyちゃんの世界に、勤務表があって取り上げてくれる人を選んでるんだよ。」と言われていました。

助産師といっても、経験値も、考え方も、モノの見方も、判断の仕方、感覚も、抱く感情もみんな違います。国家資格を持っているだけで、"良識ある人格者である!"と患者側に立つと目の前にいる医療者を勝手に思い込んでいますが、表面的な関わりでは、わかないものです。緊急時の時こそ、他の助産師や医師に相談し、意見を聞き、総合的に判断していくことは、命の現場では必須のことです。私もそれができないで意地を貼っている時期(経験年数が浅い時)がありまして、「その無駄なプライド捨てろ」と、ルパンDrや大門先輩をはじめ、たくさんの先輩たちにコテンパンに言われてきました。
プライドが高いとも見えますが、本人の受け止めは、自分が間違っていると言われたと受け止めていますし、自分ができない助産師と思われるのが嫌、という思いを強く抱くのも体感してきました。けれども、それは患者にとってはただの迷惑でしかなく、自分にとっては成長できない、ただただ無駄なことだと気付化されました。

命の現場は、学校で習ったり、ガイドラインにある常識に沿って判断することと、良識も含めてバランスをとりながら、一人ひとり丁寧に関わっていくことがプロに求められる姿だと実感しております。それと同時に、異常な分娩の対応ができるより、異常にならないように導く医療を提供できないのか?と新たな課題もできました。

今日は、私の失敗経験談に加えて一部の医療現場の患者側からは見えない景色をお届けいたしました。
長くなりましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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〜今日のちょこっと情報〜
10月20日から11月7日まで、暦上では秋の土用に入っていきます。秋の土用は、メンタルバランスを崩しやすく、鬱々しやすくなります。また土用に入る前後もバランスを崩しやすいので、自分の心にいつも以上に優しくしてお過ごしください。

holistic 助産院 MOON LODGE  和田貴美恵


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