見出し画像

Climate Integrate の2023年を振り返る

* 能登半島地震の被害に遭われた方々へのお悔やみ、および被災された方々へのお見舞いを申し上げます。みなさまのご無事を祈ります。

組織発足3年目へ

Climate Integrate は、今年、3年目に入りました。昨年中はさまざまなご支援をありがとうございました。駆け出しの組織が日本や世界でどのような役割を果たしていけるのか、走りながら模索し、挑戦した一年でした。手応えを感じたり元気づけられたこともある一方で、失敗も反省も後悔も失望もいっぱい。やりきれず悔しいことも山積。でもそこから先に進むために…ざっと、一年を振り返ってみます。

協働で<ファクトを作る> <ファクトを伝える>

Climate Integrateの仕事(Annual Report FY2022より)

Climate Integrateの仕事の流儀は、<ファクトを示す>シンクタンク機能と、<ファクトを伝える>サポート機能を重ね、両者をコミュニケーションでつないでいくこと。ーー6月に初めての「Annual Report FY2022」を制作した時に、このように表現しました。そして、「協働」を大切にしてきました。以下、いくつかの事業を紹介します。

<ファクトを示す>

<ファクトを示す>事業は、信頼のおける海外の研究機関やシンクタンクとの協働で実現しました。

  • 2023年6月のG7サミットに先立つ3月、日本の電力部門に関する分析で米ローレンス・バークレー国立研究所と協働。同研究所の費用最小化シナリオは、政府計画を前提にした保守的な試算ながら、日本でも2035年に9割の電力が脱炭素化でき、うち70-77%を再エネで供給でき、なかでも洋上風力が重要な役割を果たすという結果。Climate Integrateでは、このシナリオ実現に必要な政策についてレポート「2035年電力システム:脱炭素化への政策転換」を同時発表。

Report「2035年電力システム: 脱炭素化への政策転換」
Report 「ネットゼロを評価する」

<ファクトを伝える>

独自の調査分析レポートの他、Insightsなどを通じて、各種トピックを紹介する情報を発信してきました。フェローや理事の方にも書き手に加わっていただいています。個人的には、わかりやすく伝える・届けるために、下手な手書きのイラストを裏紙に書いては消してを繰り返し、スタッフやデザイナーさんを困らせながら議論して最終的にはキレイなデザインに仕上げてもらい感動したり。やり方には色々反省もありますが、こうした試行錯誤が実は大事なプロセスかもと学んだ時間でもありました。

  • 科学:IPCCレポートから気候変動の今をわかりやすく紹介する情報や、アンモニア利用による窒素循環の問題など。

Insights「窒素循環に見るアンモニア利用拡大の課題」
Insights「GXとは?」
Report/Insights「住宅・建築物における気候変動対策」

対話と支援で人とつながる

一年を通じてたくさんの方々とお話ししました。その相手は、国内外の政府、政治家、企業、研究機関やシンクタンク、NGOや地域の方々などさまざま。豊岡市神鍋地域の皆さんとは、Climate Integrateとして特に深く交流し、断熱ワークショップも実施しました。大学や企業・団体、NGOなどから私宛の講義や講演の依頼は1年で60回以上になり、多くの方と出会いました。市川市の環境施策推進参与としては、行政に助言する立場から市長や職員の皆さんと対話を続けました。12月には国連ビジネスと人権フォーラムの基調講演に招聘いただき、ジュネーブの国連本部で(緊張しながら)気候変動と人権について提起し、人権に取り組む方々ともつながりが作れました。
直接話をすると、理解が深まり、違いや課題が正確に特定でき、次の展望を描くことができます。2024年はもっと多くの人と話をしたい、と思います。

第12回国連ビジネスと人権フォーラム プレナリー

メディアや出版物を通じて伝わる・伝える

折々に、各メディアの取材を受け、論壇やコメント等を掲載していただきました。『気候変動パーフェクトガイド』(日経ナショナルジオグラフィック・日本語版監修)、『気候変動を学ぼう』(合同出版・共著)の2冊の出版で、より幅広い層に伝えるツールを世に出せました。また、2016年から執筆している『隔月刊 地球温暖化』のコラム「パリ協定後の気候変動対策」は46回を数えました。
さらに2023年は、ウェブメディア Business Insiderの「Climate Action 30」に選出され、新たに国際的に注目されることになりました。
おかげさまで、Climate Integrateはこの2年で多くの方に知られる存在になりました。メディアや出版物を通じて気候変動動向や見解が伝えられることがなければ、決して広くは届きません。本当にありがたいです。

Business Insider:2023年の Climate Action 30 選出

2024年:気候政策にブレークスルーを

観測史上最も暑い年となった2023年は、気候変動が危険なステージに突入したと実感した年でした。それでも、私たちは影響の一端を断片的に見ているに過ぎなくて、今この瞬間も、見えないところで生き物が絶滅し、永久凍土が溶け出しメタンが放出され、洪水や干ばつの被害が起こり、食糧や水の危機で人々が命を落としています。
捉えきれないままに極度に深刻なレベルまで進行する気候変動。非人道的な攻撃や砲撃が続く現実。絶望感ややるせなさが募りますが、2024年は、立ちすくむのではなく、立ち上がる年にしたい。そして、気候政策にブレークスルーを起こす年にしたい、そう強く願います。そしてそれを動かすのは、一人ひとりの行動だということも、改めて書き留めておきたいです。

2024年:GXをグリーンウォッシュの隠れ蓑にしない

気候危機が叫ばれる中、政府が一昨年に打ち出したのがGX(グリーントランスフォーメーション)の概念です。カーボンニュートラルというより、産業振興が目的のイニシアティブ。G7広島サミットで政府は、議長国として、GX推進を国際的に位置付け、アジアにも拡張しようとしてきました。2023年には法律を制定し、今年から国債を原資にした投資を促進する予定です。積極的な動きにも見えますが、その中身決め方には問題があります。投資先は総花的で、アンモニア混焼技術などの化石燃料や原子力インフラを基礎とした技術等も含まれています。このままではエネルギー転換が進まず、温室効果ガス排出削減につながらない可能性が大きいため、GXの名の下で目先の企業利益を優先したグリーンウォッシュが広がることのないよう、しっかり見ておく必要があります。今年はまた、エネルギー基本計画の見直しと2035年以降の温室効果ガス削減目標の検討が始まる重要な年になります。

ビジョンの実現に向かって ー 人材こそが力

Climate Integrateのミッションは、気候を守り、公正で持続的で平和な社会を実現することをめざし、
✔️政策転換を加速させるための調査分析・エンゲージメントを実施し、 
✔️科学と政治と社会をつなぐ統合的なアプローチで各主体の脱炭素への取り組みを支援すること、です。

その挑戦は、時代の要請に沿った新しい「気候政策シンクタンク」のスタイルを形作る作業であり、多くのことはまだまだこれからです。
心強いのは、意欲あるチームの存在です。昨年、異なるバックグラウンドを持つ人材がさらに加わり、スタッフは10名に。それぞれが専門性を活かして知恵を出し合い、共に事業を創り上げていく、そんなワークスペースが形成されてきています。その過程の一つひとつが質の高い仕事につながると実感できる日々はとても刺激的です。人材こそが力。このチームの今年の動きもぜひフォローしてください。本年もよろしくお願いいたします!
平田仁子

Climate Integrateのチーム(*国内在住スタッフのみ)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?