消費税の『益税』は存在するの? インボイス制度開始で巻き起こった論争を解説します その2
イントロダクション
上記記事の続きです。
このテーマは、消費税の『益税』は存在するかどうか?です。
これも、前回と同様に、会計処理を「税抜方式」で見るのか「税込方式」で見るのかで世界が違う結果生じる、意見の齟齬だったりします。
つまり、先に結論を言うと……
税込方式で考えれば益税は存在しないし、消費税は費用。税抜方式で考えれば益税は存在し、消費税は預り金。
となります。
これは、グダグダ解説するより説例で考えればすぐわかる話なので、
とっても簡潔に説例で説明します。
なお、簿記3級程度の知識が必要になるので、その点はご容赦ください。
説例
1年間の売上は、1,000万円(税込で1,100万円)
上記の売上の仕入高は800万円(税込で880万円)
その他の経費は、人件費200万円のみ
なお、この場合、本則課税の課税事業者だと消費税を20万円納税する必要があります。100万円 - 80万円 = 20万円
人件費は不課税取引なので、消費税は含まれておらず、こうなります。
ケース1-1:税込方式で免税事業者が決算書を作る場合
売上高 1,100万円
売上原価 △880万円
人件費 △200万円
営業利益 20万円
…となります。ギリギリ黒字ですね。
ケース1-2:税込方式で課税事業者が決算書を作る場合
売上高 1,100万円
売上原価 △880万円
人件費 △200万円
租税公課 △20万円 ← これが消費税の納税額です
営業利益 0円
免税事業者だと利益が出ていたのに、課税事業者になったがために
追加費用が発生し、利益がなくなっちゃった。
……って思っちゃいますよね。
インボイス制度反対を声高に主張している人たちが見えている世界はこの決算書の世界です。
ケース2-2:税抜方式で課税事業者が決算書を作る場合
あえて、先にケース2-2から説明です。
売上高 1,000万円
売上原価 △800万円
人件費 △200万円
営業利益 0円
粗利200万円で人件費200万円だったら、そりゃ利益無いよね。
ケース2-1:税抜方式で免税事業者が決算書を作る場合
なお、免税事業者は税抜方式での決算書作成が認められておりません。
なので、免税事業者で決算書を作っている人にとって、見たことのない決算書になります。
売上高 1,000万円
売上原価 △800万円
人件費 △200万円
営業利益 0円
雑収入 20万円 ←仮受消費税100万円と仮払消費税80万円の差額
経常利益 20万円
ありゃ、免税事業者になったことにより、消費税の預り金20万円を納税しなくてよくなったため、これが利益になってしまいました。
この雑収入が、消費税の『益税』となります。
免税事業者には見たことのない決算書ですが、課税事業者の決算書を作っている人にはパッと思いつく決算書になります。
どちらが「真実の会計処理」なのか
……こんな感じで、会計基準が違うとこんなに風景が変わっちゃうのです。どちらも最終利益は同じ結論なのですけどね。
前回の記事でも書きましたが、会計の世界では、「税抜方式」と「税込方式」の採用ができる企業が限定されております。具体的にいえば
上場企業は「税込方式」を採用できない
消費税の免税事業者は「税抜方式」を採用できない
です。
前者は、おそらく「消費税として預かっているものを収益・費用に混ぜるのはケシカラン!」という発想から来ているものと思われます。
私もそう思います。
後者は、おそらく「消費税納税しないくせに、消費税を「預り金」として処理するのはおかしいだろ!」という発想から来ているものと思われます。まぁ確かに。
でもね。
「消費税」として受取り、「消費税」として払ったものを損益に入れるのってやっぱり変だと個人的には思うわけですよ。
そして、今回の反対運動を生んだ遠因にもなってそうな気がします。
個人的には、免税事業者も税抜方式で会計処理をするようにした方が良いように思っております。
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