フランス国民議会の電撃解散について

6月9日夜に開票された欧州議会選挙結果をうけて、特にフランスにおいては政治的に戦後最大ともいえる歴史的な試練が訪れたといっても過言ではない情勢となった。

フランスの開票結果(EU公式発表)をみると、ルペン氏のポピュリスト政党Rassemblement National(RN)が31.37%、マクロン氏の与党Renaissance連合が14.6%、社会党連合が13.83%、メランション氏のLa France Insoumiseが9.89%、共和党が7.25%、Les Vertsが5.5%、ゼムール氏のReconquêteが5.47%、となり、RNが与党Renaissance連合をダブルスコアで引き離す圧勝となった。

事前の予想でもほぼ同様の数字が出ていたので実はこの結果には新たに驚くべき要素はないが、実際に投票結果としてRNが圧勝したことで、当然ながら各政党ともRN大躍進に対抗する非常に強いメッセージを出さざるを得ないこととなった。与党Renaissanceと同様に基本的な姿勢としてEU体制の推進を志向する社会党連合、La France Insoumiseが開票後に行われた記者会見で極右勢力の台頭が最大の脅威でありそれと強く戦っていく姿勢を打ち出した。

投票結果以上に大きな衝撃をもたらしたのは、開票後即座のタイミングで出された与党Renaissance連合のマクロン氏の声明で、氏は投票結果を受けて大統領として国民議会(下院)を6月9日付けで即日解散、総選挙を第1回投票6月30日、第2回投票7月7日の日程で行う旨国民に宣言した。開票後即座というこの声明のタイミングをみると、マクロン氏周辺は選挙前に既にこの国民議会の解散計画を周到に練り決めていたとみられるが、選挙前の段階では解散の可能性にふれた報道はまったくなかったことから、この計画は事前に情報が洩れないように非常に限られたサークル内で練られたものと推測される。

電撃解散をうつことでルペン氏側に充分に準備時間を与えないようにして選挙戦を有利に展開することを狙った戦略と解釈できるが、前回の国民議会選挙までの経緯でもルペン氏のRNが勢力を伸ばす趨勢で推移しているうえ、与党の中道路線は逆に毎回勢力を落とす傾向で推移してきている状況であり、今回電撃解散をうつことで与党が有利に展開するような単純な政治情勢ではない。そもそも、今回の欧州議会選挙の結果は、国民議会で与党が過半数割れした状態で2期めにはいっているマクロン政権が、フランス憲法で限定的に認められているとはいえ議会の否決を覆せる大統領下の内閣権限を多用し、議会において強硬的な手法を使わざるを得ない政権運営を行ってきた経緯が大きく影響している。

マクロン氏の与党が既に過半数を取れていない現在の国民議会の状況で、かりにさらに議席を減らすような事態になった場合、他政党と議会運営で協力関係を築こうとしても比較的路線が近い中道右派の共和党が現在以上に勢力をのばすことは想定が難しく、また、オランド氏の時代に与党が袂を分かった社会党及び革新勢力と協力関係を築くには路線が開きすぎているといえる。仮に、与党が他政党との効果的な協力関係を築けない場合は、マクロン政権は議会運営能力を失いレームダックに陥ってしまう。いずれにしても、今回の電撃解散の結果でルペン氏のRNの勢力がどれだけの勢力を得るのかがフランス政治にとり大きな影響を与えると考えてよい。選挙結果によっては、与党はルペン氏のRNと事実上の協力関係を模索せざるを得ない事態に追い込まれることも排除できないだろう。極右ポピュリスト政党が政権を事実上掌握する事態は既にオランダなどで起きている通りだが、EUの艦首であるフランスで仮に同様の事態に陥った場合は、その影響はフランス内部だけではなくヨーロッパ全体に強い衝撃として広がることは避けられない。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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