「藤原定家 『明月記』の世界 」 村井康彦 岩波新書 新赤版 1851

著者がこの本を90歳にして世に出されたたことに感服する。各所の写真も著者の撮影とあり、そのフットワークも驚くべき軽さ。膨大な情報量の『明月記』を読み込んで、定家の実像に迫る作業は並々ならぬ熱量が必要だったという。それを見事にやり遂げられている。

私は、この本を読む前に、田渕句美子先生の『新古今集 後鳥羽院と定家の時代』と『百人一首──編纂がひらく小宇宙』を読んで、和歌集編纂者としての冴え渡る定家の姿に触れてきた。そして、この度、この本を読んで、定家の別の側面が非常にリアルに思い描くことができるようになった。九条兼実との主従関係、俊成との親子関係、彼を含めて九人もいる同母兄弟姉妹との関係、自分と息子の昇進にあくせくする日々など、など。人間味のある生身の実像がクッキリと像を結ぶまでになった。

意外な事実もあった。定家の息子・為家の妻は、北条時政と後妻の牧の方の娘の娘、ふなわち孫娘だった。大河ドラマの配役で言えば、坂東彌十郎さんと宮沢りえさんの娘のその娘が、為家の妻だった。その牧の方が京都にやってきて、時政の十三回忌をの供養をしにやってきて、定家の妻も彼女に会いに行ったという。

定家が私たちに残してくれた遺産は尊いものがあると思う。百人一首に代表される和歌文化はその筆頭である。また、『源氏物語』を始めとした日本古典文学の書写が今も残されているおかげで、私たちはそれらを読むことができている。この偉大な人物の実像に迫ることができて、とても良い体験ができた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?