「百人一首─ 編纂がひらく小宇宙 」 田渕句美子 岩波新書 新赤版 2006

初学者にもわかりやすい。論理の筋道が明解で、名探偵の推理を聞いているようだ。

百人一首の歌の新解釈も紹介されていて非常に興味深く読んだ。とくに「末の松山」の解釈に興味を引かれた。貞観大地震の際に、ここを津波が越えたのではないか、そのことが人々の記憶に残されて、本歌の古今集の歌に譬喩として使われたのではないか、と。なんと、確かにありうることだ。

終章では、定家が百首をどのような基準で撰んだかを考察しているが、著書は、その中に俊成卿女や宮内卿が無いのは残念!と個人的感想を述べている。まるで、著者と定家が時代を隔てて会話し始めるのでは無いかと思わされるほど、二人の心の距離が一冊の本を通して縮まったような感覚になった。

田渕先生の著者『新古今和歌集 後鳥羽院と定家の時代』を読んだ時にも思ったことだか、どちらの著作も、先生の論述が非常に素人にもわかりやすいものになっている。詳細な事実を丁寧に積み上げながら一つの構造物を読者の目の前で作り上げてゆく。読者はそれを360度見渡しながら、対象となる古典作品の全貌を立体的にイメージすることができるようになる。そして、今度は、この古典作品の建物の内側へと探索を始めてみようか、という気にさせてくれる。

この本を読んで、わたしは、いま一度、百人一首を読み込んでみたくなった

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