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限築杯に寄せて

20年前、MTGを辞めた。

2000年当時、私の通っていた小学校ではMTGが大流行していたが、中学入学を期に急速に熱が冷めていき、アポカリプスの発売を待たずして我々の第一次MTGブームは去っていった。

ブームが終息した原因は何と言ってもカードが高かった事に尽きる。
小学生同士紙束で遊んでいるうちは良いが、仲間内でのメタゲームが煮詰まってくると自然と強いカードが必要になってくる。
ウルザの激怒3500円ーー

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ゲームぎゃざの通販ページを見ながら、何度も嘆息をもらした。
3000円もあれば中古のPS2ソフトが何本買えるだろうか。田舎の子供にとってMTGはあまりにもコストパフォーマンスが悪い遊びだった。

MTGに本格的に復帰したのは5年前だった。
その間に何度かのマジカル・エマージェンシー(*1)があり、突発でプレリに参加したり、MOをやってみたりしていたが、どれも長続きしなかった。
(*1 MTGの禁断症状の事。薬物依存には完治は無く、依存と寛解を繰り返す。)

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しばらくはスタンとモダンを中心にプレイしていたが、どのフォーマットでプレイしてもあの頃の熱狂には遠く及ばなかった。

なぜなら小学生の私を魅了したのは、まるで本当に魔力が宿っているかのような旧枠カードの魅力に他ならないからだ。
禍々しくも美しいイラスト、時には文学作品の一節から引用される重厚なフレーバーテキスト、旧枠カードはまさにファンタジー世界の呪文書を切り取ってきたように思えたものだった。

そんな私にとって、旧枠のカードのみで遊べるミドルスクールは最高のフォーマットだった。
TXで1時間かけて秋葉原まで遠征し、ミドルスクールプレイヤーたちとの交流を深めていたところでコロちゃん(*2)の流行。
自分が主催予定だったミドルスクール大会も流れてしまい、一時はMTG引退も考えた。
(*2 アレの事。noteで正式名称を書くとトップに物々しい注意書きが表示されてしまうためこのような表記とする。)

インベイジョンブロック構築の大会がオンラインで開かれるらしいと知ったのは、あるミドルスクールプレイヤーのRTからだった。

たまたまこの時代のカードを集めており、デッキがすぐに組めそうというのもあって参加は即決だった。
旧枠カードで遊ぶイベントが増えて欲しい。私は別に主催者でもなんでもないが、このイベントだけはなんとしても成功して欲しいと願った。
数は少なくても旧枠を求めているプレイヤーは確実にいるんだぞと言う意思表示としての参加表明だった。
蓋を開けてみれば参加人数96人ーー集まりすぎだろ……

96人も集まった理由はひとえに主催者の影響力の大きさに尽きるが、インベイジョンブロック構築というフォーマット選択が絶妙だった。

旧枠フォーマットの入門として、インベイジョンブロック構築以上のものはないだろう。

理由の1つは環境の多様性である。
ブロック構築は必然的にトップメタとその対抗デッキ、ローグ的なデッキのせいぜい3〜4種類くらいしか存在しない。しかしインベイジョンブロックにおいてはその限りでは無い、限築杯メタゲームブレークダウンからもわかるように、ブロック構築の中では最も多様な環境だろう。

もう1つの理由はカードの値段が安い事だ。
インベイジョンブロックには再録禁止カードが無い。そのため昨今の再録禁止カードの暴騰に影響されることが無く、ほとんどのカードが100円未満で買える。あの頃手が届かなかったウルザの激怒も今では50円だ。
また、モダン・レガシーで使われているカードがほとんどなく、一番高いのはファイレクシアの供犠台、悪魔の意図といったEDHカードで、それでも精々3千円台だ。紙切れ1枚に3千円は安いと思ってしまった人は一緒に人生について考え直そう。

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インベイジョンブロックのカードはカードパワーが低い、それゆえ1強のデッキが存在せずブロック構築と思えないほど多様な環境で、おまけにカードの値段も安い。
しかしながら、カードパワーが低いからといって退屈な環境であるというわけでは無い。

インベイジョンブロック構築はそのカードプールの小ささから、コントロールデッキであっても10枚前後のクリーチャーを搭載する環境になっており、必然的にコンバットが生じる。
主力生物の基本P/Tが2/2というこの貧弱な環境は、容易に膠着し複雑な盤面を産む。
1点が明暗を分ける熾烈なライフレース、インスタントタイミングで計算を狂わすコンバットトリックの読み合い、コンバットはMTGの華だ。

再録禁止時代の理不尽さもなければ現代マジックの複雑さもないが、インベイジョンブロック構築にはMTGの全てが詰まっている。

結果

限築杯 BBBでSE1没
R1 マシーンヘッド 2-1
R2 青黒アグロ 2-1
R3 アリーナドレイン 2-0
R4 BBB 0-2
R5 SSS 2-1
R6 ドロマーコントロール 2-0
R7 ID 予選ラウンド 5-1-1

SE1 ドメイン 0-2

本来の実力以上の結果が出せたのはデッキ選択が良かった事に尽きるだろう。

今回使用したデッキはBBB、TOP8中3人はこのアーキタイプであり、ベストなデッキ選択だったと思う。

参加者全体でBBBを選択した8人中3人がSEに進出、実に38%が予選7Rを抜けた事になる。

TOP8に進出した他のアーキタイプがドロマーコン2、ドメイン1、トレンチ1、クローシスコントロール1となっており、SE進出率で言えばダントツのアーキタイプである。

しかし、インベイジョンブロック構築環境のベストデッキは間違いなくドロマーコントロールだろう。
名誉回復、幽体オオヤマネコ、嘘か真か、環境最強クラスのカードをほぼ全て積むことができて、不利なマッチアップがほとんどない。

かくいう自分もデッキ登録直前までドロマーコントロールを使うか迷っていたが、以下の理由で断念した。

・予選7Rの長丁場でコントロールを使い切れる自信がなかった。
競技プレイヤーでない自分にとって7Rのゲームはほとんど未知の領域だ。集中力、体力共に消耗した状態でコントロールを的確に運用できる自信がなかった。

・環境理解が足りない。
コントロールの真骨頂は全てのデッキに対して最適な対応をとり、全てのデッキに対して互角以上に戦える事にある。裏を返せば、最適な対応が出来なければボロボロに負ける。今回はほとんど練習時間が取れなかったため、コントロールで勝ち切るのは難しいと判断した。

・同型対決がダルい
…もとい、時間切れの可能性が高い。インベイジョンブロック構築はただでさえ遅い環境だ、コントロール同型対決で3R目までもつれ込んだ場合、時間内に決着することは難しいだろう。

上記の理由からコントロールを諦め、ビートダウンで行くことにした。
この環境のビートダウンデッキの選択肢はBBB以外にSSS、ステロイド、マシーンヘッド、etcと、有力候補を挙げるだけで他のブロック構築環境に存在するデッキよりも多い。

その中でもBBBを選択した理由は熊(*3)ビート対決に強いからだ。
(*3灰色熊の事、転じて2/2生物を指す。自明の用語だが筆者は専門用語には極力注釈をつけなければならないという強迫観念に駆られている。)
インベイジョンブロック構築は熊を巡る盤面の取り合いだ。
この環境のデッキはコントロールとビートダウンに二分され(現代風に言えばミッドレンジに分類されるデッキが多いが)、トレンチのような重コントロールを除けば必ず熊が入っている。

熊が主力となるこの環境の最強生物は間違いなく幽体オオヤマネコだろう。

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緑相手なら熊を一方的に倒せるし、膠着した盤面でも淡々とクロックが刻める。
それ以外の色でも再生があるため容易に膠着状態に持ち込める。他の熊が2色2/2プロテクションの中で明らかにオーバーパワーだ。
しかし、白黒を主体としたデッキはドローが弱く引きムラに左右されやすい、かといって青を入れるとドロマーコンになってしまうので白黒系ビートは除外した。

BBBのデッキ名はBear Bounce Burnの頭文字である。その名の通り、熊をバウンスとバーンでバックアップするデッキだ。
火力呪文は熊の通り道をこじ開けるだけでなく、盤面が膠着した際には勝ち手段にもなる。
予言の稲妻とウルザの激怒を組み合わせれば10点近く削り切ることもザラにある。
レガシーではデルバーを使っている事もあって、勝ち筋のイメージがしやすいBBBを選択した。

また、事故が少ないというのも大きな選択理由の一つだ。
MTGにおいて最も忌むべき事象は土地事故である。
せっかく大会に参加したのにゲームが出来ず一方的に負ける悔しさと虚しさたるや筆舌に尽くし難いものがある。
BBBはデッキに12枚もの熊がいるので初手に土地2枚と熊が1枚あればとりあえずゲームにはなる。

気をつけたこと

戦略記事的な事は書けないので参加者として自分が気をつけた事を備忘録として残しておく。
オンラインでの大会は初めてだったので、開催直前まで非常に緊張した。
特に自分のせいで大会の進行を遅らせたらと思うと不安で夜しか眠れない日々が続いた。
(これは嘘、コロちゃんのせいでオンライン会議が主流になったため、昼間も結構寝ていた。)

大会の進行を滞らせないよう、以下の2点については特に気を付けてプレイした。
・宣言、返事をする
・巻きでのプレイ

・宣言、返事をする
顔が見えない相手とのプレイは意思疎通が難しい。
フェイズの進行宣言は当然として、土地のプレイに対しても「はい」「どうぞ」と言うなど、ちょっと過剰かなと思うくらい宣言をした。
土地のプレイは別に優先権が発生する訳でもないので通常の対面でこんなことをしていたら鬱陶しいことこの上ないが、今回に限っては通信が取れている・意思疎通ができているということを確認する意味であえてそのようにしていた。

・巻きでのプレイ
50分は長いようで短い。特にインベイジョンブロック構築はカードパワーが低く、膠着状態になることが多いから尚更だ。事実、限築杯当日は全てのマッチがエクストラターンにもつれこんでいた。
時間切れで取れていたゲームを落とすのは馬鹿らしいし、ラウンド間で休憩を取る事もままならない。
「宣言をしっかりする」と矛盾するかもしれないが、意思疎通を確実に取れている方が結果として早く終わる。
どうでも良い盤面で時間を使わないように即断即決で進める。そのために相手のターンに次のターンで取る行動を考えておく、次に置く土地や生物を出す、構えてエンドくらいは決めておく。選択肢は毎ターンのドローによって常に変化するものだが、大体の方針は立てるよう意識した。
大会参加前に基本的なカードの効果を把握しておく事もプレイスピードの高速化につながる。特に頻出カードの効果確認で時間を取ることは避けたい。
環境に多く存在する有力なデッキと練習する事で、主要なカードの効果を把握できるだけで無く、有力デッキの基本的な動きを理解しておくことで、例えばSSS相手に4マナまで伸ばされたら熊出さずに構えておいた方が良い、などの判断ができる。
これらは今回だけでなく、今後も意識していきたい。

大会運営が凄い

100人近くも集まれば発生するトラブルは一つや二つでは無いだろうに、大会開始から最終戦まで滞りなく対戦が進んでいったのは驚愕だった。
蓄積されたノウハウ、優秀な運営・ジャッジの存在には頭が下がる思いである。それだけで無く、100人近い参加者全員がトーナメント進行における注意事項を理解していたからこそなし得た事だろう。
参加費が払えない事以外は最高のイベントだったと思っていたところ、参加者の間でnoteに記事を書くことで参加費とする流れができていたので記事を書く事にした。
インベイジョンブロック構築について言及するページがインターネット上に増えればその分旧枠フォーマットの活性化につながるだろう。

旧枠で遊ぶ人が増えて欲しい

旧枠カードは買い得。カードを眺めているだけで満足できるのに対戦まで出来る。
インベイジョンブロック構築という限定的な条件でも100人近く集まるのだから、きっと旧枠フォーマットには需要がある。
今回をきっかけに旧枠で遊べるイベントが増えてくれたら嬉しい。

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