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「心が叫びたがってるんだ。」にハマって(2)

3.本作の表現には象徴的おぜん立てが多い

本作の表現には,非常にリアルな身近なものと,そのモノは実在しうる・ありえるものであっても(たとえばラブホ,突然の告白)「そこでそれ使う?」的な,このお話のなかでの現実味が薄いもの=象徴的なもの=とが,まぜこぜに出てきます。

■ラブホテル

おやまぁ。いきなり小児とラブホの取り合わせですか... 本篇は,高校生の純愛ものじゃなかったの.... 

性的感情の象徴であるラブホが,始まりと終わりに出現して,円環をなしています。終盤,主人公がラブホを出てミュージカルの輪に入るのは,その「闇の円環」から最終的に抜け出たこと(再生したこと)の表現でしょう。それをわかりやすくするために,作者はどうしてもラブホという「枠組み」を使いたかったようです。

そして円環を抜け出た最初の行先は,協同作業のミュージカルです。こちらは社会の象徴ですね。再生したことがいやがおうにも強調されます。

一方で,画面上でわかりやすく主人公が抜け出るのは,「玉子の殻」です。何度もでてきて,これは主人公が殻を破っていく過程の物語なんだ,と視聴者にわかりやすく教えてくれます。では,その明示的な「玉子の殻」のほかに,もうひとつ「順が抜け出す枠組み」をあえて(ストーリー上無理があるのを承知で)作者が作ったのは,なぜでしょう。それは,主人公が殻を破る直接のきっかけ(後押ししたもの)が恋愛感情であり,その根底は性的衝動だ,という組み立てを示したのだと思えます。

■大樹の告白

最後の大樹の告白は,「闇の円環を抜け出て社会に復帰した主人公・順の,人生の新しいフェーズの開始」をダメ押し的に示唆する意図のように思えます。

ただし,急すぎて違和感を持つ人多数です。私も。そのダメ押しは「母との和解シーン」でもよかったかもなのに,そこは母親のほんの短い客席微笑シーンで済ませて,あえて最後まで男女関係から逸れないことが作者のこだわりのようです。大ちゃんちょっと危ないやつに見えちゃいますけどね...

■性的要素の小ネタ・小道具たち

主人公が好きな男子をおびき寄せる(うぁ)ラブホの廃墟の奥まった部屋には,廃ベッドがあり,主人公はそこにもたれかかっています。えぐい えぐすぎる。これじゃ順ちゃん,「あぶない人確定」されちゃいますよ。(このヤマ場シーンで一貫して落ち着いた対応をする拓実くんは,やっぱ逆の意味で普通の人じゃないかも=リアリティ欠如感のひとつ)。ベッドはもちろん,性的衝動の暗喩,というか性行為そのものの象徴でしょう。

一方でこの廃墟にはステンドグラスが多用されていて,主人公はステンドグラスから差し込む光を背にヤマ場シーンを演じます。ステンドグラスに光,なのは,救済の暗喩でしょう。(ちょっと陳腐だけど,そもそも廃ベッドを持ち出す時点で陳腐などという言葉は作者の辞書になさそう。「絵的にきれい」,ではありますが)

恋愛感情・性的衝動は(否応なく)人の人生に影響する,というモチーフは,ラブホやらベッドやらというあけすけな象徴だけでなく,あちこちにたくさん散りばめられています。

最初のほうのDTM研の小ネタでは,伊勢佐木町ブルース,声優さんの水着写真集,告白ぅ?w,二次元ハーレム... これと対称をなすチア部のほうでも,陽子と樹の関係性を示す小ネタがやはり4,5か所... 坂上君の登場シーンでさえ,おっちゃんの「いい女と...」というあられもないセリフで味付けされていることも,ワクドナルド前での「気があるんじゃぁ?」のセリフも...

大樹と菜月の最初の接点も,駅で言い放つ「おれとラブホ行こう」という,悪い冗談ではじまります。悪趣味です。ここまでやると,くどい。

象徴的おぜんだて,物語の枠組みの設定については,またのちほど。

4.順のキャラクター設定はなぜ幼いのか

順だけが,容姿・しぐさ・発声・持ち物,すべての点で1人だけ子供っぽく描かれています。ほかの高校生は相応にハイティーンぽく見えるように描かれているのに,彼女だけ,容姿は中学生のようです。

全校生徒のなかで一人だけスクバじゃない,って相当にヘンではありましょう。(あの小さいピンクのリュックに教科書ぜんぶ入りそうもないし...) リュックも携帯も私服も,彼女は「☆」形のモチーフとピンク色が大好きです。くどいくらいに... 肌身離さないメモ帳も,全ページ絵柄の入った,子供っぽいものです。

発声,話し方。これはわざとそういう声質の声優さんを選んでいるわけで,全般に中性的な印象を強めています。とくにタメ口で怒声で叫ぶときは,少年役のように聞こえます。(ファミレス,ヤマ場の前半)

これは,テーマの強調のため,1人だけ浮かせるため,なのでしょうか。それとも,未熟な人間が恋愛に目覚める,ということの強調? それともマーケティング? それにしても,違和感のある人はいるでしょうね。。。

(つづく)

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