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「心が叫びたがってるんだ。」にハマって(5)

5.4 エンディングはこだわりすぎか

ミュージカルシーンが終わってからのエンディング,順・大樹,菜月・拓実の2ペアがそれぞれに告白がらみの言葉をかわす。この作者は本当に「対称性」にこだわるみたいですね。。。いかにも演劇っぽく感じます。ただ,大樹がここで告るのは普通の感覚からして唐突すぎて,急に「あれれっ」となりますわ。リアルさよりも対称性の維持を優先したのか。。。

んでもこれじゃ,せっかく「良い人キャラ」になってた大ちゃんが,「ヘンな人」認定されやしませんか・・・ ミュージカルをごり押ししたのも当日頭を下げてチャンスをくれと懇願したのも,良い人だからじゃなくて恋愛感情があったから,という方向に行ってしまいかねないのは,なんか大樹がかわいそうでは...

素人考えですが,大樹が「告白」でなくて,「おれちょっと成瀬にミュージカル成功しておめでとうって言ってくるわ。あいつにはいろいろ自分も思うところあったし。今ちょっと2人で話してみてえんだ。(赤面)」くらいにして今後を暗示,ならリアルさは保てたかも。

6.全体をふりかえって

6.1 リアルの皮をかぶったファンタジー

ということで,本作は基本は順の一人物語であって,しかも象徴的に極端な設定・進行が急所に据えられ,受け取り方が難しい(コツがいる?)セリフもあり,それがリアルすぎる普通の学園描写のなかにハメこまれているので,途中までで「普通の学園ものの普通の展開」を期待して見てしまった人には,ヤマ場以降の象徴性?(ファンタジー度)が極端すぎて,共感してもらうのが困難なのはよくわかります。例えば順は,「ありえない幼さ,ありえない逃亡,ひどい自分勝手」認定されてしまい,周囲の生徒たちは「ありえない優しさ」になり,大樹のは「ありえない告白」に見えてしまう。

本作は,リアル指向に見えてリアル指向ではない,「1,2か月の間で起こった恋のめざめ,という設定に凝縮された精神のファンタジー」なのですね。なもんで,絵づら・言葉づらを額面通りに受け取りたい人にはきびしく,ファンタジー的解釈も許容する人(私を含む)には受け入れられる,のかな。

ある意味,見た目と違って,とてもわかりにくい作品かも。逆に言うと,見るほどに味が出る,とも。

6.2 脚本家の技巧

本作の脚本の技巧上の特徴のひとつが,「対称性」へのこだわり,と感じます。あちこちに見られる対称のペアの散りばめられ具合は,ちょっとモノマニアックでさえあるかもしれません。

・事後,明示的に大きく変わった2人(順,大樹)と,外目にはそんなに変わってない2人(菜月,拓実)

・サブ役でのDTM研の2人とチア部の主要な2人

・外周を固める大人役2人:教師と祖母

・高校生の順の登場シーンは家ゴミ袋をかかえ,ラストシーンの順はふれ交ゴミ袋をかかえている

・ヒロイン2人から別々に「来ないでっ!」と叫ばれる拓実

などなど...

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