見出し画像

「心が叫びたがってるんだ。」にハマって(7)ここから後半です。

ここまで,この作品のテーマというか,作者の表現意欲の核心みたいなもの,について書いてきました。ここからは後半で,キャラクターや,演出や,などなどのもっと細部について書いていきます。

7.キャラクター(1)菜月

私は菜月を好感します。本作での彼女の造形は「拓実への恋慕と嫉妬」に集約されてて,うーん,なんかわかる,っていう気がします。

拓実を中学から2年も想っている一途さ。そこに現れたまさかの恋がたきは,無口な変人?だけど幼げでかわいい順です。その順がラブラブ光線を惜しげもなく拓実に降り注ぐのを見て,ほぼ最初から嫉妬全開でわかりやすいこの人。本作のヤマ場の始まり,夜の渡り廊下で叫ぶ「それが好きってことなんじゃないのぉっ!!?」が嫉妬の絶頂です。いーなー菜月。さいこうの叫びです。

キャラの雑味がありません(他はうまく省略されてる感)。順を応援したい友情と拓実をとられそうになることへの嫉妬の両方が表現されてるのがよい。ツンデレのテイスト良いです。

さて,「拓実を中学から2年も想っている(その間ほとんどなんのつきあいも会話さえもないという設定なのに)」のは現実離れしている,という意見があります。私はアニメにそんな現実味を求めないのでどうでもいいんですが,あえて申せば,「美人で優等生でリーダーキャラは男に敬遠される(愛嬌がないから,とっつきにくいから)」というセオリーを踏んだのでしょう。

容姿は....おでこの広いロングヘア―。部活中はポニテに結んで。たしかに,ある意味没個性的にひたすらかわいい(幼児的な)順との対照を際立たせるには,そして高校生という設定を逸脱しない範囲では,このくらいのアクセントづけが絶妙かも。さすがにプロの仕事だなぁ。

8.キャラクター(2)チア部の2人

チア部の2人は,存在感あります。クールビューティな江田っち(フルネームは江田明日香というらしい)と,情熱的で(←死語w)行動的な(宇野)陽子。菜月が微妙な窮地に陥る時,いつもこの2人のアシスト発言でものごとが進んでいきます。

そのさまから,「美人で優等生でリーダーキャラの菜月と,その友人(ある意味とりまき)の江田+陽子のグループ3人がまとまってなにかの方向性を出したら,ほかのクラスメイトは表立って反対することがもはやできない雰囲気ができてしまう」という,スクールカーストそのものの構図を想起せずにはおれません。ほかの生徒たちが内心「あーあ...」と思っていても,さからえないのです。

その点,野球部の2人が,「花形部活のエースとキャプテン」という,同じようにスクールカーストの頂点にいてもおかしくない設定にもかかわらず,どちらかというとあまり影響力のない扱いになっているのも,脚本家の芸がこまかいと思います。頂点が2つあったら,構図が成り立たないからです。

チア部の2人の見せ場はわき役なのにいくつもあります。最初のほう,部活の休憩時間に顔を洗って,2人でふざけて踊りだすところは印象的です。後半になると,陽子が2つの見せ場をつくります。ひとつは,なくてもよかったかもしれないキスシーン。そしてもうひとつは,舞台に戻ってきた順が歌い終わって袖に戻った時に,いちもくさんに順に駆け寄って抱き着くシーンです。後者はとくに,クラスをどん底につきおとした悪の女王・順に対し,最大級の歓迎・ねぎらいをいわば体全体で表現してしまうことにより,やはり「ほかのやつらは文句を言うんじゃねえぞ」という主張になってしまっているわけです。陽子が天然のままに繰り出すクラスメイトへの威嚇です。こわいです。これは,そのようなコンテクストをないものとして見れば,陽子ちゃんの母性発揮→三嶋はこれにヤラレタなw,というように見えるんですが。

このへんはくどくもあるのですが,「学校の中」という世界を脚本家がどう見ていたのか,ということの反映として描きたかった世界なのでしょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?