黒味かかってるなあの雲。雨粒落ちてくるんちゃうか?

男はいつも親友と一緒だった。


一緒に戦い、一緒に勝ち抜き、一緒に夢を見た。


そして男はいつも親友の陰に隠れる存在だった。


誰かが男を"じゃない方"だと言い、誰もが彼に光を見出せなかった。


いつしか親友は頂点へと立ち、男は彼を見上げることしかできない立場になった。


男は親友に羨望の眼差しを向け、嫉妬し、時には親友をひどい方法で裏切った。


それでも二人は友人だった。


だがある日、親友は頂点から降りなければならなくなった。長年の戦いで親友の肉体は傷み、もう戦うことができなくなってしまった。


“天命"がほくそ笑む。

奴が去った頂点に立つべきは自分だと。

そして暴虐の限りを尽くす。


そこに待ったをかけたのは、他ならぬ"陰"の男だった。

"天命"はまた笑う。「ずっと"陰"にいたお前は決して光ではない。そんなお前が、このハシゴを登り、頂点を手に入れることができるわけがない。まして俺は以前、お前を倒している」

陰の男は天井からぶら下がる頂点を見上げる。
"One more match."
「もう一度、俺と闘え」
彼の覚悟の背後でJust Close Your Eyesが流れる。

Dreams you never lived, and scars never healed,
叶わなかった夢や、癒されることのない傷
In the darkness, light will take you to the other side.
闇の中でも光が別の世界へ連れてってくれるから

自分の為、そして親友の為、男は悪夢のように高いハシゴに、手をかけた。



×××


モテキというマンガを連載当初から読んでいたわけだが、私はあのマンガの主人公が自分に似ていると思ったことなんて一度もないし、少なくともフェスやライヴなどの人がゴミゴミと集まるアトラクションに対して私は消極的である。

嘘です。それなりに集まりも好きです。

たしかに憧れはある。

なんでもない友達と2人で旅行にいって、急遽同じ部屋に泊まることになり、どうにかなってしまいたい。

恋人とではなく女友達と2人きりで温泉旅行、というのがミソだろう。

アダルトビデオメーカー、プレステージの“一泊二日、なんちゃら旅行”というシリーズは本当に素晴らしいと思う。

先日、私は大学時代の友人の結婚式で、出席していた後輩を派手に口説いた。

他人の式の最中にもかかわらず私は彼女に「ねえ、付き合おうよ」を20回言い、「結婚しようよ」を30回言った。


新婦が両親に涙ながら感謝のスピーチをしているとき、私は後輩に「見えもしない。聞こえもしない。キミと繋がっている不思議。見えない糸が張り巡った、その中で今日も僕は生きている」と言った。

周囲はドン引きしていた。


後輩は日本テレビアナウンサーの夏目三久に似ているといえば似ているし、似ていないといえば似ていない。

私は以降も新郎新婦そっちのけで度重なるセクハラ(その内容については言及すると社会的常識性に欠けるというレッテルをはられかねないので口外しない)を繰り返し

ついに三次会で周囲の批評の的としての罵詈雑言の集中放火を浴びることになった。

マジキモい。
うるさい。
ウザイ。
顔考えろ。
貧乏人。
だめ社会人。
病気。
バカ。

数々の暴言が飛び交うなか、ついに1人の出席者が夏目三久に均衡を破る一言を吐いた。


「ねえ!迷惑ってちゃんと言ったほうがいいよ」

『大丈夫ですよw迷惑はかかってないですからw』

「ええー。黙れ不細工!くらい言ったほうがいいよ」

「こんなヤツに口説かれるの嫌でしょ」

『別に嫌じゃないです。私、松岡さんの顔、結構好きなんで』


こんなに素晴らしいことはこの世界にない。

付き合えるんじゃないかこれ。この子と。

私はその日、ルンルンな気分で家路につき、

【やあ。こにゃにゃちわ。ひまなとき今度遊びにいこう】

とメールを送った。


あれから1週間。


返事はまだ、ない。


吾が輩はバカである。

返事はまだ、ない・・・

昨日

いつもいく耳かき専門店に行ったときに、みゆちゃんが

「松岡さん初体験いつですか?」と尋ねてきた。

「まだだよ」と私は言った。

そして次に彼女が口にしたことは驚くべき内容であった。


「じゃあ、あたしとします?」


というのは嘘で

「そうなのかなーって思ってました」


と言ったのである。

私はそこそこイケメンなのに、確かに女性にはモテない。しかし童貞にも見えないんじゃないかと自負していたために、現実を突き付けられてしまった。

仕方ない。少しずつ自分を磨いていくしかない。


有楽町マルイに注文していたスーツ用のブラシが届いたというので、新橋から有楽町まで歩いて行った。時刻は7時を過ぎていて私の好きなジュエリーショップはシャッターを下ろしていた。

私の職場の近くにビッグサイトがあるが、そこで行われる国際宝飾展にその店は今年も参加していた。
会場ではベストジュエリードレッサー賞の受賞が行われるので、今年は著名な芸能人が来ていた。


今日はなんだか疲れた。


昨日の夜、友野愛美という板野友美みたいな漢字の雰囲気の近隣に住む女子大生に

【やあ。こにゃにゃちわ。もしもまだ願いが一つ叶うとすればそれは素敵だけど、そんな空想を広げ、一日中、ぼんやり過ごせば、月も濁る有楽町の夜だ。そして捻り出した答えは・・・君が好き。僕が生きる上でこれ以上の意味は無くたっていい】

とメールを送信した。

届かなかった。

人生で初めて携帯のメモリに登録されている女子大生が0人になった。

吾が輩はヒマである。

週末の予定はまだ、ない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?