人間してるな

 再三言ったが、人間らしい人が好きだ。無駄な人が好きだ。お笑い芸人だと、こういう人が好きだ。


国崎和也

 M-1という漫才の大会がある。今年は約8500組が出場した。再エントリーを含むとはいえ、コンビだけではなくトリオもいるので、16000人くらいが出ているわけだ。決勝戦に進出する10組は、20人は、それぞれが8000人を倒していると言っても過言ではない。決勝戦はそれくらい厳しい舞台で、数え切れないほどの組が進出を果たす前に年数制限(結成してから15年)を食らって出場できなくなっている。国崎さんのコンビ、「ランジャタイ」は結成14年目にして進出の機会を掴み、生放送の、視聴率がすっごく高い、M-1という番組で!最下位になった。10位だった。9位のコンビは636点、ランジャタイは628点。1位は665点。

 決勝戦の漫才師ならあって当然のツカミ(客を引き込むための小ボケ)はなく、ぬるっとネタを始めた。玄関から外に出たら強風に乗って猫が吹っ飛んできて、その猫が口の中に入り国崎さんをロボットのように操作するというネタだった。そのめちゃくちゃさに審査員たちは困惑した。前の組がまともだっただけにその困惑は強かった。
 
「決勝だぞお前ら!何やってんだずっと!」

「何かあれですよね、見る側の精神状態によりますよね」

 と言われた。

 俺からすると、ランジャタイとてつもなく無駄なことをしていた。だから大好きになった。全漫才師の憧れの舞台で、めちゃくちゃなネタをして、最下位。国崎さんはお笑いのセンスがとても鋭敏だし、世渡りの才能があるし、14年も活動していたから、そのヤバさを分かっていたと思う。こういう結果になることも分かっていたと思う。それでもやった、その無駄さが最高だった。

 質の高い無駄をするのは難しい。金を余分に使うなんて誰でもできる。彼のような、真性のホモ・ヴァストスになれる人間は、そういないだろう。大好きだ。

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