たんぽぽの美
この世でもっとも美しい花はたんぽぽです。
バラは嫌いです。あまりにも色が強い。美しすぎてわざとらしいし、もう美しさの一つになってしまっているので美しさを見出せません。
アジサイも嫌いです。季節を選んで来るのが気取っています。そのくせでかい丸顔を淡く色づけているのが、ぶりっこ精神丸出しです。
たんぽぽは、それほど色が強くないです。というかたんぽぽって昼にしか見ないし昼は世界全体が明るいので強く見えません。また、同じような見た目の要素がある花でもひまわりのように目立ちたがり屋ではなくそっと一輪か二輪で生えているのでさりげないのです。雑草の中で咲く、健康で平等な花です。季節も選ばず、年中わたしたちを喜ばせてくれます。
たんぽぽは、この世でもっともありふれた花です。そして、この世でもっともありふれているという点でありふれていない唯一の花です。たんぽぽは、いつでもどこでも見れます。たんぽぽは、貧乏人にも金持ちにも、歩かせます。道端にたくさんあって、道端にしかないので。
たんぽぽが消えるかバラが消えるかならバラが消えた方がいいのです。たんぽぽは、近すぎるがゆえに見えない、仲が良すぎるがあまりに仲が良いと気付けない、日々の幸福や大切な人々と同じ存在です。
たんぽぽは、いつか。真っ白く、儚くなります。そして新たなる命に、子供たちに、いのちの息吹を吹き込まれるのです。
たんぽぽは、同じくらい真っ白で儚い雲にふわっと消えていくでしょう。そしてまた咲くのです。そしてまた、今度は、子供の子供に見つかるのでしょう。
しかしたんぽぽも見ています。あなたのお父さんお母さんが、あなたのように吹いたことを。
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