異常者

 僕は病気です。先週、ズボンのチャックが開いたままで、大勢に笑われました。いや、大勢と言っても5人くらいなのですが、僕にとってはもう大勢です。先週というのもちょっと違って、本当は1か月前から開いていたらしいのですが、彼ら彼女の温情のおかげか嘲弄のせいか許されていました。

 ズボンのチャックが開いていたこと・・・厳密に言えばそれを指摘されたことはべつに大した事件ではないのです。ただ、その日から気になって仕方がないのです。自分のチャックが開いていないかどうか。

 もちろんズボンを履くときにちゃんとチェックしますけど、そのとき以外にもしてしまいます!トイレに行ったときと帰宅したときはもちろん、学校のガラス張りの反射を発見したときとか店員さんがレジからお釣りを取ってるときとか・・・隙あらば。

 それによって新しい問題も出てきました。「こいつチャック確認してない?」と気づかれたらどうしよう、という問題が。チャックが開いててもだめだし、チャックが開いてないか確認してもダメ。八方ふさがりです。

 でもやめることはできません。僕が1か月もチャックを開けっ放しにしていたうっかり屋なことは事実ですから。そしていつも気がそぞろで勉強ができないこと・・・他人と話しているときもチャックが気になってしどろもどろになってしまうこと・・・それもまた事実です。

 僕は病気です。事件から1か月経って、病状は悪化するばかりです。ただ、もともと病気だった気もするのです。だって、1か月もチャックを開けっ放しにするなんておかしいですよね?だから珍しくて笑われるんですよ。

 じゃあどうすればいいのか・・・チャックを確認することはまあ止めようと思えば止められる気がします。じゃあチャックを開けっ放しにしてしまうことは止められるのか・・・やめられません!

 それは僕の性ですから!誰もが生まれる国や時代を選べないのと同じなんです!だから確認もやめられません!とりあえず開けっ放しを防げていることは事実ですから!

 そして、これから病状はさらに悪化するでしょう。自分を異常者じゃないかと疑う時間は伸びに伸び、今度は「チャック開けっ放しの異常者」から「チャック開けっ放しじゃないか四六時中疑ってる異常者」に変身します。

 だから他人に迷惑はかけませんよ。他人に迷惑は…………かけませんから。そして、もしみんなのチャックも全開だったとしても、僕は迷惑だなんて思いませんでしたし、思われなかったでしょうね。うっかり屋として笑い合えたでしょうね。

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