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書きなぐりのーと

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いわゆるエッセイみたいな雑文です。思いついたこと、気になっていること、昔から考えていること、あったこと、なかったこと、「どうでも話だけど誰かに聞いてほしい話」を書きなぐってます。
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#読書感想文

犬飼愛生『手癖で愛すなよ』を読んだ話

五年ぶりに出版された犬飼愛生の詩集『手癖で愛すなよ』が届いた。 一読して、彼女のライフステージが再びアップデートされたのを感じた。 犬飼愛生という詩人は、常に一貫したテーマと向き合いながらも、そのキャリアとともに視点を変え続けてきた書き手である。 最初の詩集『カンパニュラ』(2006年)以来ずっと、彼女の作品に通底する最大のテーマは“女性”だ。自分自身が女であること、女として生きること、その中で生じる違和感や軋轢、矛盾、絶望、悲しみや怒り、さらにそこにあるおかしみや喜び、愛

『目下の恋人』を読んだ話 ~「恋」という美しくロマンティックで野蛮なものについて~

これは、辻仁成の短編作品『目下の恋人』の中で語られる、象徴的な台詞である。 「一瞬が永遠になる」というのは(現実にはあり得ないとしても)、そのロマンティックなレトリックを感覚的には理解できる気がする。しかし、「永遠が一瞬になる」というのは、少なくとも「愛」をポジティブなものと考えるなら、なかなか理解し難い。 この台詞をどう解釈するべきなのか。 一般論として考察するには無理があるので、あくまでもこの『目下の恋人』という作品における恋愛観、あるいは辻仁成がこの作品を通して語りた

『年収100万円で生きる―格差都市・東京の肉声―』を読んだ話

18年間の会社勤めにピリオドを打って、フリーランスのコピーライターとして独立した2009年4月。今どきの人にはピンとこないだろうが、バカボンパパと同じ41歳の春のことだった。 2008年9月のリーマン・ブラザーズ・ホールディングス経営破綻に端を発する、いわゆるリーマンショックの真っ只中で、世の中は決して景気がいいとは言えない状況だった。 独立することについて妻と娘にはもちろん相談したものの、この歳になってわざわざ両親に報告する必要もないと思った。ところが妻に「それは常識とし