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自分だったら食べられる?ーー『クリーンミート 培養肉が世界を変える』


 15年以上健康本をつくってきて、さまざまな食事法があることを知った。玄米菜食(マクロビオティック)、糖質制限、グルテンフリー、断食、さらには不食などなど。

 そうして私が思う結論は「雑食」が一番ということだ。何かに偏るのはよくない。なかには野菜のみ、あるいはほとんど食べないでも日常生活に支障がないという人もいるけれど、そこに至るまでにはそれなりの準備というか、体を慣らしていくことが必要だ。「これが体にいい」と思ってすぐに取り入れるのは、かえって逆効果になることがある、というのが私の考え。

 近年では、糖質制限の考え方が広まるのに従って、「肉食」を推奨する流れが強くなったように思う。体を構成するのにたんぱく質を摂取することは不可欠だから、たんぱく源である肉を積極的にとることには、私も賛成だ。

 そんな「肉食推進派」の私が、思わず考え込んでしまった問題作が、この本なのだ。

あと数十年で、肉が食べられなくなる日がやってくる⁉


 あと30年、つまり2050年までに、地球の人口が90憶~100憶人になるという予測がある。あくまで予測であって、むしろこれから人口減が起こるという意見もあるが、この本が前提にしているのは、そこで起こりうる食糧難の問題だ。

 今後、人口が増加していけば、いかにしてその食料を確保するかということが重要になってくる。

 肉食が好まれているのは世界的な流れのようで、中国やインドといったこれまで植物中心の食事だった国々も、肉食が求められるようになってきているそうだ。肉の供給が追い付かなければ、数十年後には「肉はめったに食べられない高級品」になっているかもしれない。

 それだけではない。牛や鶏を育て上げるまでには、餌となる穀物や水を大量に消費する。動物用飼料を確保するために、熱帯雨林の森林伐採がおこなわれており、これが地球温暖化の主要な原因の1つになっているというのだ。

 肉食をめぐるそんな事情を知ってしまった今、何を食べたらいいのだろう?

工業的畜産から細胞農業へ

 この本で描かれるのは、そんな未来予想図から、食の新しい流れを作り出そうとしている「培養肉」の開発・普及に取り組む人々の姿だ。

 培養肉とは文字通り、動物の生体外で、細胞を培養することで大きくした肉のこと。培養肉には菌の汚染もないし、それを防ぐために抗生物質が使われることもない。「クリーンミート」という名前には、そんな「食の安全」の意味も含まれているそうだ。

 荒唐無稽? しかし、かつては交通手段だった馬が車へと変わり、生活に欠かせない油だった鯨油がケロシンという石油由来の油へと変わったように、「それまで常識と思われていたもの」があるものの登場で変わることは往々にして起こる。

 そう遠くない未来には、「肉を食べるなら、培養肉が当たり前」という時代がやってくるかもしれないのだ。

大豆、昆虫…「肉の代わり」になるものはあるのか

 もう1つの考え方として、「肉が食べられないなら、植物性の代替食品をとればいい」というものもあるだろう。大豆を肉の代わりにしたハンバーグや唐揚げなど、最近では「これ、肉じゃないの?」と思わせるほど、肉に似せた食品も出回っている。

 ただ、ビタミンB12など、動物性食品に多い栄養素は、肉を避けていると不足する可能性がある。そういった意味でも、私はある程度の「肉食」は必要だと思うのだ。

 一方で、最近日本でも「昆虫食」が話題になるようになった。動物よりも飼育にコストがかからないし、何よりたんぱく源として非常に優秀だという。

「そうはいっても、自分はあえて食べることはないな」と別世界の出来事のように思っていたのだが、なんと今年、あの無印良品も昆虫食をはじめるというではないか! コオロギを粉末にしてせんべいに練りこんだ「コオロギせんべい」なるものらしい。

 肉が食べられなくなったら、大豆にするのか、昆虫を食べるのか、あるいは培養肉を食べるのか――私自身の答えはまだ出ていない。

 しかし、「何を食べるのか」を考え続けることは、やめてはいけないと思っている。


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