この世の全ての仮装の恋人たちへ ~「第99回全日本仮装大賞」感想~

 3年ぶりに開催された「欽ちゃん&香取慎吾の第99回全日本仮装大賞」(日本テレビ)を見た。
 今回鑑賞し、やはりこの番組はTBS「SASUKE」と同様に“持たざる者たちの祭典”なのだという思いを強くした。
 仮装大賞は大型の素人参加型番組であり、主役は市井の人々だ。
 この番組ではたまに芸能人も出場者として参加することがあるが、審査の点数がカラい傾向がある。これもあくまでもこの場は「シロート」のためのものであるという証左であろう。
 この番組は「公衆の面前で仮装することによってカタルシスを得る人たち」がこの世に存在するということを教えてくれた。
 そういう人たちが元々存在していたのか、もしくは「仮装大賞」があるからそのような人々が生まれ始めたのか、どちらが先かを考えると「ニワトリが先か、タマゴが先か」の話になってしまうので起源のところは置いておくとして、実際のところは「仮装をしたい人々」と仮装大賞という番組が相互に反響しあうことで互いの存在感を増していったのは確かであろう。
 日々の生活は基本的に味気なく、つまらない。「ハレとケ」というところの「ケ」である。
 人は「ケ」だけでは生きていけない。そこで出てくるのは「ハレ」という非日常、「祭り」であり、仮装人種たちはいつもの自分ではない他の者に仮装することによって日々の枷から解き放たれる。
 仮装大賞は祭りの最たるものなので、祭り特有の乱痴気というか独特のトリップ感に満ちている。
 分かりやすい例で言うと、今大会のトップバッターを飾った作品「バンザイ!」。
 一人のスーツ姿のおじいさんが出てきて「僭越ではございますが、バンザイ三唱の音頭を取らせていただきます」と堅苦しい挨拶を述べたと思ったらスルスルスル~ッとスーツが脱げて上半身が裸になりバンザイをするという正気の沙汰ではない(褒めてますよ)内容だった。
[補足]首の下に顔のイラストを貼り、鎖骨まわりにその人物の腕を描くことによって、おじいさんがバンザイすると連動してその小さい人物もバンザイして見えるという「仮装の原点」のような作品。
 公衆の面前において、いきなりおじいさんが突如上半身裸になったらいろいろややこしいことになりそうだが、ここは「祭り」の空間、好き放題にしていいのである。味気ない現実を「フリ」にして、そこから飛距離を伸ばせば伸ばしているほど気持がよい。
 
 本稿のタイトルにある「仮装の恋人たち」は、番組冒頭、満員の客席からの拍手で迎え入れられた欽ちゃんが感極まって発言した「こんなにたくさんの仮装の恋人たち……」から採った。
 今日もどこかで仮装の恋人たちは、何くわぬ顔で次の非日常への飛躍を企んでいることだろう。


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