【お話23 痛覚と無罪】
腹の奥底に、歪な塊を感じる。
イタイ。痛覚になってようやく、失敗の認識にいたる。いやうそだ。
ちゃんと分かっている。
ご飯の食べる量が、久実はいつもよく分からない。
ダイエットをしていた時は、分かっていたのに。
辞めた瞬間に分からなくなって。
今では食べ過ぎてばかりいる。
ご飯だけなら、まだいい。
ゴミ箱の中には、たくさんのポテトチップスの袋。
どうしてこんなものを食べてしまったのか。
あんなに辞めたい辞めたいと思っているのに。
冷蔵庫の前に座りこむ。
白い扉を開けると、ひんやりとした空気が顔に当たった。
中にあるのは、真っ白いお豆腐。
1丁のパックをそのまま掴んで取り出す。
バリ。
蓋を破ると、水が散った。
気にしない。
あんなにもポテトチップスを食べてしまったから、ご飯はお豆腐だけだ。
醤油も何もつけずに、1丁をそのまま、手で掴んで食べる。
ぐにゅりと、指先で沈む感覚が、憎らしくて愛おしい。
白い食べ物は、久実の胃の中で罪の形を成さず、そのまま腸へと運ばれていく。
そんな、気がする、だけだけど。
腹の奥底が、痛い。
イタイ。
いま何時なのか。
調べることもなくただ、ワンルームのキッチンに、うずくまっていた。
お前はもっとできると、教えてください。