ボブマーリー/ONE LOVE観ました

映画の感想書くの久しぶりすぎてちょっと不安を感じつつ、せっかく観て良かったので感想を書こうと思う。

わたしはボブマーリーの作った曲が好きで特に夏場によく聴くが、彼の生涯には全然詳しくない。歴史にも疎く、英語も読めない、リスニングできないので歌詞の意味も曖昧である。
なので、おこがましすぎて「ボブマーリーのファンだ」とはとても名乗れないライト層である。
知っているのは彼の残した名曲の数々と、「恐らく人類でほとんど唯一といっていい『本当に音楽で世界を変えた人』である」という程度の、漠然としたヒロイックなイメージだけ。
そんなライト層なので、予備知識なくいきなり映画を観に行くのに少し不安を感じていたが、大丈夫まったく問題なかった。当時のジャマイカの複雑な情勢は、映画が始まるや否や簡潔な文章で説明が入る。

「イギリス植民地からは独立したが、二つの政党による政権争いで国内は二分され、内乱が多発し情勢は悪化していた。そんな中でボブマーリーと彼のバンドは、ジャマイカ国民のためにチャリティーの平和コンサートを開催しようとしていた」

ざっとこんな感じの説明文が出たあと、さあ本編をどうぞ、という感じで、既にジャマイカ国内では有名アーティストとして成功を収めているボブマーリーの、コンサート開催に至るまでの物語がスタートする。
いさぎよい始まり方である。
ボブマーリーがレゲエミュージックで成功を収めるまでの過程や、そもそもの生い立ちやレゲエを始めるきっかけや、そういうことは全部すっとばしていきなりチャリティーコンサート、そして銃撃事件、である。(そのへんの過去エピは、後々にちらっとずつちゃんと描かれる)
展開が早い!早いけど分かりやすい!

複雑な情勢下で活動していたアーティストのセミドキュメンタリーだから、もっと難しい陰謀劇とか、ジャマイカの歴史とか、レゲエの精神性とかが物語に絡んでくるのかと覚悟していたが、ライト層でも全然大丈夫だった。
作中、ボブマーリーの有名曲がそのままふんだんに使われるのだが(なので良い音響の映画館での鑑賞をオススメします)、その力強い歌詞は日本語字幕で表示され、子どもたちと趣味のサッカーを楽しむ日常のワンシーンを盛り上げつつ、彼がどんな音楽を奏で民衆を鼓舞していたのか、彼自身の精神性を表すのに一役買っている。
複雑なジャマイカ情勢とその渦中で彼がどんな主張をしていたのかに物語の中では敢えて触れず、それらを「彼の残した音楽でのみ語る」という割り切りが、伝記映画である本作をより大衆向けの見やすいものにしていたと思う。

実在の人物を扱う、特に故人の家族が今も存命である作品は、どの時代であっても慎重な取り扱いが必要だ。
今作は、冒頭で息子さん(お父上そっくりですね!)が登場し「僕も監修させてもらいました。父を描いたこの映画を、わたしたち家族は誇りに思っています」とナレーションしてから始まるため、どんな場面も「こんなことがあったんだあ。でもご家族はみんな納得済みで作ってるんだね」という感じに安心して観ていられる。それがまたストレスフリーでよかった。
奥さんと不倫問題で揉める場面や、銃撃でナイーブになり母国からの帰国コンサートの誘いを蹴る場面なども、もはや神格化されつつあるボブマーリーを、完璧ではない悩みを抱えた一人の人間として描くのに必要な場面だったし、病気が判明して苦悩しながらも帰国を決意した彼が、空港でジャマイカ国民たちから熱烈な歓迎を受ける場面は感動的だった。

ジャマイカに帰ってきたボブマーリーが祖国でふたたびコンサートを開き、そこに来ていた(内戦の原因である)2人の党首をステージ上で握手させるという、この映画のクライマックスになるだろうと思っていた場面は、なんと、コンサートシーンも含め役者が演じることはなく、実際の映像が使われる。
実在のアーティストを描いたセミドキュメンタリーとしてはやはり『ボヘミアン・ラプソディ』が思い出されるが、あの映画ではラストのライブエイドは当時のライブを完全再現!というのが一番の売りになっていたし、実際すごい映像だったから、正直なところ本作にも同様の場面を期待してしまっていた。そこは肩透かしだったかなと思うけど、偉大なボブマーリーのその場面は、やはり本物を見てほしいという製作者の意図であれば仕方ないのかなぁと…まあ…思わないでもない。でも、だったら実際のライブシーンも握手のシーンも、もっと大スクリーンで長く見せてほしかったなー…

ということはあったにせよ、長年好きで音楽を聴いていつつもちゃんと知ることのできずにいたボブマーリーの生涯について、この映画でだいぶ詳しく知ることができて良かったと思う。なにせ曲がいい!
アニメ映画以外、特に洋画だと割とみんなエンドロールでさっさと席を立ってしまう印象があったので(まあ英語で読めないですしね)、こんなにみんな最後まで席を立たずに観ていく映画は稀かもなあと思いました。だってこの音響でボブマーリーの曲、もっと聴いていたいもんね。最後まで日本語の翻訳歌詞つけてくれてて嬉しかったです。

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