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シャーリイ・ジャクスンの「くじ」という短編小説の紹介


この短編小説は1948年に発表されました。

内容としては、2019年に流行った「ミッドサマー」と同じ感じです。



奇妙な風習が作り出す恐ろしさを描いているのですが、

個人的にはやっぱり、その非論理的な風習を省みることもせず、ただただ思考停止で従っている登場人物達が一番恐ろしいなと毎回感じます。

なんか「集団の恐ろしさ」を感じるのです。

一人一人の個人が集まって集団が出来上がった時に、
風習であったり、集団の目的であったりを遂行する為に、
何があっても邁進していくその姿勢が恐ろしいなと思うのです。

その姿勢は、例えば、今回のコロナ茶番で浮き彫りになりました。

ワクチン接種会場で打った直後に倒れて病院に運ばれた人がいるのに、
その会場にいた残りの人達は接種を続けました。

普通だったら有り得ないですよ。目の前でワクチン打って倒れてる人がいるというのに、なぜ自分もそのワクチンを打とうと思うのか。

「ワクチン打って集団免疫をつけよう!」とか「ワクチンの安全性は保障されてる!」とかいった”催眠”にかかって、思考能力を失ったんでしょうね。

そういう奴等の一番酷い所というのは、”犠牲者”に目もくれないことです。

「倒れた個人の事例なんて知ったこっちゃない、全体が良くなる為に必要な犠牲だ!」的な感覚なのでしょうか?

マスクの問題も同じです。マスク未着用者に対して、着用者からの執拗な攻撃が行われました。

「全体が良くなる為に必要なことをちゃんとやれよ!やらないのだったら排除されて当然だ!」的な感覚なのでしょうか?

こういう「個人の事よりも全体の事を優先する」全体主義者が根拠にしていたモノが非科学的だったというのが、メチャクチャ恐ろしいことなのです。

過去の例を挙げれば、ヒトラーの全体主義は「ユダヤ人の血がドイツ人を汚す」という自身の妄想癖によって作られたことを根拠にしてましたし、今回のワクチン接種やマスク着用の推進者達は「感染症にワクチンやマスクが効く」という”曲学阿世の徒”の戯言を根拠にしてました…

自分の中の妄想を絶対的に正しいと信じ込んでるが故に、
それに即してないまともな人間を攻撃してくるし、
自らの非を反省しようともしない。

コロナ前の自分だったら、

「まぁ、何を信じて、何をしようと、その人の勝手なんだから、その人達が良いと思ってるならそうさせれば?」

的な”やっすい自由論”を言ってたと思いますが、

このコロナ禍において、

ワクチン未接種を理由に就活の面接を断られたり、

意味のないマウスシールドをゲーテインスティテュートから強制的に着けさせられたりして、


意味のない根拠に基づいたやり方で、私の個人の自由を制限してきて、全体の利益追求を優先する全体主義をこの身で体験してしまったが故に、

その恐ろしさを身をもって知り、断固として許せない立場になりました。

「ルールだから!」の一点張りで、何の意味も無い感染対策を押し付けてきたゲーテインスティテュート。いくらメールでその意味の無さを訴えても、「ルールだから!」の一点張りで思考放棄していたゲーテインスティテュート。「文句があるなら試験を受けさせない!」と試験開始前に、受験者が全員いる中で恫喝してきた、ドイツ人の責任者。

「あの時は仕方なかった」なんて言おうものなら絶対に許しません。全員が全員そのルールに従ったていたのであれば、しょうがないと言えるでしょう。ただ自分一人は反論していたのです。

しかも科学的な根拠を示して自分の論を論理的に訴えました。にもかかわらず、アイツらは「ルールだから!」の一点張りで、なんの根拠を示すことなく、他人の自由を制限してきやがったのです。

「あの時」にちゃんと声を上げていた人がいるのだから、「仕方なかった」では済まされないのです。「仕方なかった」で済ますのは、声を上げた人の意見を真摯に聞かず、「ルールだから」という根拠のない戯言であしらった”己の怠慢”です。恥を知れ。

で、この「くじ」という小説の中には、根拠のないルールが存在し、それに支配されている人達の姿が描かれています。人々はそのルールが慣習化してしまい、思考を放棄して、毎年そのルールに従うしかありません。

そんなことにならない為にも、「考える能力」というのは大事な事なんだと理解しています。決して、思考能力を放棄して、周りに迎合するような人間になってはいけないと思います。

そんな奴が非論理的な風習を壊せるはずが無いし、それどころかその風習が続くように働きかけるので、百害あって一利なしです。




この「くじ」については、他のサイトにて、とてつもなく凄いレベルの解説文を見つけたので、詳しく知りたい方は是非ともそちらを読んで頂けたらと思います。

短編小説ということで文字数は「8875文字」でした。15分もあれば読めてしまうくらいの長さではないでしょうか。

あと、この小説をもとにしたショートフィルム(英語字幕)をYouTubeで見つけたので、そちらも掲載しておきます。

文字派の人と動画派の人がいると思いますので、お好みに合わせて楽しんでもらえたらと思います。その後に、解説のリンクを張っておきますので、深堀したい方はどうぞ。





・動画:シャーリイ・ジャクスン「くじ」(Shirley Jackson The Lottery)




・文章:シャーリイ・ジャクスン「くじ」(Shirley Jackson The Lottery)


六月二十七日の朝は、からりと晴れて、暖かく明るい陽射しも澄んだ、夏らしい日となった。花は一面に咲き乱れ、草は青々と繁っている。村の人々は、郵便局と銀行の間の広場に、十時ごろから集まり始めた。

ところによっては、住人すべてがくじを引き終えるまで、丸二日を要するような大きな町もあるという。そんな町では、前日の二十六日から行われるらしいが、この村は全員合わせても三百人ほど、みんながくじを引いたところで、二時間もかからない。だから午前十時から始めても、時間内に終わるどころか、それから家に帰って、昼食の時間に十分間に合うのだった。

 むろん、最初に集まってきたのは、子どもたちである。学校の終業式は、つい先日のことだったので、子供たちもまだ、夏休みの開放感に、十分馴染んではいないようすである。ここに来ても、わいわい走りまわることもなく、ぶらぶらとやって来ては小さな声で話しているだけだった。その話題も、学校のことや先生のこと、教科書や叱られたことの域を出ていない。

とはいえ、ボビー・マーティンのポケットは、早くも石でいっぱいで、すぐにほかの男の子たちもそれにならって、なるべく表面がすべすべの丸い石を集め始めた。集めた石を広場の隅にうずたかく積み上げると、つぎにボビーとハリーのジョーンズ兄弟とディッキー・ドラクロア(村ではデラクロイと発音されていた)が、他の男の子たちの襲撃に備えてそこを守った。女の子たちはすぐそばに立って、自分たちだけでおしゃべりしながら、肩越しにチラチラと男の子の方を見やっている。もっと小さな子どもたちは、地面を転げ回ってはしゃいだり、お兄ちゃんやお姉ちゃんの手にしっかりとつかまったりしていた。

 つぎに顔を見せ始めたのは男衆だった。自分の子どもがいるのを確かめ、作物や雨の話、トラクターや税金の話をしながら、次第に集まってくる。石が積み上げられた一画からは距離を置いたところに輪を作った。ときおり誰かが冗談を口にしても、大笑いする者はおらず、せいぜいが笑みを浮かべて見せるぐらいだ。

女たちは色あせた平生着のワンピースやセーター姿で、男衆より少し遅れてやってきた。挨拶を交わすが早いか、夫の下へ行くまでのほんの短い間に、うわさ話の交換をすませてしまう。そのあと夫の隣りに並んで子どもたちを呼んだ。ところが子どもたちときたら言うことを聞かず、四度も五度も呼ばなければならない。ボビー・マーティンなどは、頭をひょいとかがめて母親の手をかわし、笑いながら石の山のほうに走っていく始末だった。だが、父親が厳しい声で一喝すると、ボビーもあわてて戻ってきて、父親と一番大きな兄の間にちょこんとおさまった。

 くじ引きを運営するのは、スクエアダンスや十代のクラブ、ハロウィンの催しと同じく、市民活動に捧げる暇とエネルギーを十分に持ち合わせているサマーズ氏である。丸顔で陽気な石炭屋の主だが、子どももなく、ガミガミと口やかましい女房とふたりきりで暮らす彼を、村人たちは気の毒に思っていた。そのサマーズ氏が、黒い木箱を携えて広場に到着すると、人びとのあいだからつぶやくような声がこだまする。サマーズ氏は手を振って、一同に呼びかけた。

「みなさん、今日は少し遅くなりましたな」
あとからついてきたのは郵便局長のグレイヴス氏である。両手で抱える三本脚の丸椅子を、広場の真ん中に置くと、サマーズ氏は黒い箱をその上に乗せた。人びとは丸椅子を遠巻きにしたまま、近寄ろうともしない。サマーズ氏が「どなたか手伝ってくださらんか」と声をかけたが、ためらうばかりである。やっとふたりの男、マーティン氏と長男のバクスターが歩みだし、サマーズ氏が箱の中の紙切れをかき回しているあいだ、箱が動かないよう押さえつける役を引き受けた。

 くじ引きが始まった当時の道具は、とうになくなってしまっていたが、丸椅子の上の黒い箱も、村一番の年寄り、ワーナーじいさんが生まれる前から使用されている。サマーズ氏はちょくちょく、新しい箱を作ったらどうかね、とみんなに持ちかけていたのだが、たかだか箱ひとつ分の伝統すらも、誰も破ろうとはしない。というのも、この箱はには、前の箱の一部が使われているという言い伝えがあるからなのだ。前の箱、すなわちこの土地に入植し、村を築いた人びとが作った最初の箱である。

だから、毎年くじ引きが終わって、サマーズ氏が判で押したように新しい箱のことを口にしても、実際にどうにかしようとする者もないまま、立ち消えになってしまうのだった。年々黒い箱は古ぼけて、いまではひどくささくれて地の木目が顕わになっている箇所さえある。おまけに、あちこち塗りもはげ、染みがついたりして、「黒」とすら言いかねるようなありさまだった。

 マーティン氏と長男のバクスターは、サマーズ氏が箱の中の紙片を十分にかきまぜてしまうまで、丸椅子の上の黒い箱を、動かないようしっかり押さえつけていた。なにしろ儀式の手順も少なからず、忘れられ、簡略化されてしまっている昨今であるから、サマーズ氏も、何世代にも渡って用いられてきた木の札を、紙片に代えることに成功していた。村が小さかったころなら、木札も大変結構だったのだろうが、現在のように人口も三百人を越し、さらに成長を続けるなかにあっては、黒い箱にはもっと出し入れのしやすいものがふさわしかろう、と、サマーズ氏が熱弁をふるったのである。

紙片は、くじ引き前夜、サマーズ氏とグレイヴス氏が作成し、箱に入れた状態で、サマーズ石炭商会の金庫に保管される。翌朝サマーズ氏が広場へ持ち出す準備ができるまで、金庫の鍵はかかったままだ。くじ引きが終わってしまえば、毎年箱は、さまざまな場所にしまいこまれていた。ある年にはグレイヴス氏の納屋、またある年は郵便局の地下、またある年は、マーティン食料品店の棚、という具合に。

 サマーズ氏がくじ引きの開始を宣言するまでには、まだやらなければならないあれやこれやがあった。第一に、リストの作成である。一族の長のリスト、その一族に含まれる各家族の世帯主のリスト、さらに各家族の成員のリスト。それから郵便局長が、サマーズ氏を正式に、くじの審判員に任命する。昔はここで、審判員が朗詠をやっていたもんさ、と当時を覚えている村人もいた。毎年毎年、決まった時間に、調子っぱずれの詠唱が繰りかえされたもんだ。審判員は立ちっぱなしで朗読、もしくは詠唱していたと言う者もいれば、人々の間を歩き回っていたのだ、と主張する者もいたが、いずれにせよ、ずいぶん前から儀式のこの手順は省略されてきたのだった。昔は迎えの言葉も決まっており、くじを引くひとりひとりに、審判員はその言葉を投げ掛けることになっていたのだが、それもまた時とともに変わっていき、いまでは来る者に、一言、声をかけさえすれば十分、と考えられていた。

サマーズ氏はこうしたことをすべて、うまくこなした。清潔な白いシャツにジーンズといういでたちで、片手を無造作に黒い箱に乗せて、グレイヴス氏とマーティン親子に向かってよどみなく話し続ける様子は、まさしくこの儀式にふさわしい、重要人物のそれだった。

 長い話をやっとのことで切り上げたサマーズ氏が、集まった村人たちの方を向いたちょうどそのとき、ハッチンスン夫人が、広場に通じる道をバタバタと駆けてきた。肩に引っかけたセーターを揺らしながら、会衆の後ろに滑り込んだ。

「あたし、今日があの日だったってこと、すっかり忘れちゃってたわ」と、隣にいたドロクロア夫人に声をかけると、ふたりはそっと笑った。
「父さんがいないから、また薪を積みに行ってるんだろうと思ってたんだけど、外を見たらチビたちもいないじゃない、それで今日が27日だったってこと思いだして、いそいで走って来たのよ」
エプロンで手を拭うハッチンスン夫人に、ドラクロア夫人が答えた。
「間に合ったわよ。あそこじゃまだまだ話のまっ最中だもの」

 ハッチンスン夫人は首を伸ばして人混みを見渡し、夫と子どもたちが前の方に立っているのを見つけた。それじゃあね、とでもいうようにドラクロア夫人の腕を軽く叩いてから、人波をかき分けていった。みんな、快く道を空けてやる。
「ほら、ハッチンスン、かみさんが来たぞ」「ビル、奥さんが間に合って良かったな」という声が、人垣の向こうから上がった。

ハッチンスン夫人が夫のところまでやって来るあいだ、ずっと待っていたサマーズ氏が、ほがらかに声をかけた。
「テシー、あんた抜きで始めなきゃならんかと思ってたぞ」

にっこり笑ってハッチンスン夫人は言い返す。「このあたしに流しに皿を置きっぱなしにさせとくつもり、ジョー」
夫人を通そうと譲った場所から、元の位置に戻っていく会衆の間に、低い笑い声がさざ波のように拡がった。

「さて、と」サマーズ氏が改まった声を出した。「さっさと取りかかって終わらせてしまうとしようじゃないか。そうすれば仕事にも戻れる。だれかここにいない者は?」
「ダンバーがいない」
「ダンバーさんだよ」という声があちこちからあがる。

 サマーズ氏はリストを調べた。「クライド・ダンバーだね。そうだ、脚を折ったんだったな。だれが代わりにひくのかね」

「あたしってことになると思います」という声に、サマーズ氏は振り返った。
「女房が亭主のかわりに引くんだな。あんたのかわりをしてくれる大きな息子はいないのかね、ジェイニー」

サマーズ氏ばかりでなく、この村の住人ならひとり残らずその答えをよく知っていたのだが、こうしたことを正式に訊ねるのも審判員の役目なのだ。ダンバーの奥さんが答えるのを、サマーズ氏は礼儀正しく、いかにも関心がありそうな顔をして待った。

「ホレスはまだ十六歳になってません」ダンバー夫人は残念そうに答えた。「ことしはあたしがうちのひとの穴埋めをやらなきゃならないんです」

「よろしい」サマーズ氏は手に捧げていたリストに書き込みをする。
「ワトソンの息子は今年引くのかね」

 会衆のなかの背の高い少年が手を挙げた。
「はい。ぼくが母さんとぼくの分を引きます」そういって、落ちつかなげに瞬きしながら、会衆の間から上がる「いい男になったな、ジャック」だの「おまえの母ちゃんが一人前の男を育てたことがわかってうれしいぞ」といった声に、首をすくめた。

「わかった。これで全部だな。ワーナーじいさんはきとるかね」
「おお、ここにおるぞ」と答える声に、サマーズ氏は頷いて応えた。

 サマーズ氏が咳払いして、リストに目を落とした瞬間、一同は水を打ったように静まりかえった。
「皆の衆、用意はいいな?」サマーズ氏が声を上げた。「これから名前を読み上げる――最初は一族の長からだ――呼ばれたものは出てきて、箱からくじを引く。全員の番が終わるまで見ずに、たたんだまま手に持っておくこと。皆の衆、よろしいか」

 村人たちはもう何度も同じことをやってきていたので、指示など話半分にしか聞いていなかった。ほとんどの者は、無言のまま唇を湿らせながら、一点を見つめている。サマーズ氏が片手を高々とあげて名前を呼んだ。

「アダムズ」ひとりの男が会衆から離れて進み出た。
「やあ、スティーヴ」サマーズ氏が声をかけるとアダムズ氏も「どうも、ジョー」と答えた。たがいにこわばって神経質な笑みを交わす。アダムズ氏が黒い箱のところへやってきて、小さく折たたんだ紙片を取り出した。端をしっかりと握りしめ、くるりと向きを変えて、足早にもとの場所に戻り、家族から少し離れて、手元から目を背けるようにして立った。

「アレン」サマーズ氏がまた呼んだ。
「アンダーソン、……、ベンサム」

「くじとくじの間なんてあっという間のような気がするよ」とドラクロワ夫人が後ろのグレイヴス夫人に話しかけた。
「前のときなんて先週おわったばっかりみたいだよ」
「確かに日が過ぎるってのは早いわね」とグレイヴス夫人。
「うちの父ちゃんが行くよ」とドラクロワ夫人は言うと、夫が前へ出ていくのを、息を凝らして見つめた。
「ダンバー」サマーズ氏が呼び、ダンバー夫人がしっかりした足取りで進み出る間、「ジェニー、がんばって」「ほら、奥さんが行くよ」と、あちこちからささやきが洩れた。

「次はうちの番だわ」
グレイヴス夫人はそう言うと、夫が箱の脇をぐるっと回って進み、重々しくサマーズ氏と挨拶を交わし、箱のなかから紙片を選ぶ様子を見守った。そのころまでには会衆のなかに、小さく折りたたんだ紙片を大きな手で持ったまま、いらいらと裏にしたり表に戻したりを繰り返す男たちの姿が見られた。紙片を握るダンバー夫人もふたりの息子と一緒に立っている。

「ハーバート、……、ハッチンスン」
「ビル、あんたの出番だよ」ハッチンスン夫人の言葉に、周りにいたひとびとは笑いを誘われた。
「聞いた話なんだが……」アダムズ氏が隣のワーナーじいさんに話しかける。「北の方の村じゃ、くじを止めにしようとかいう話が持ち上がってるんだそうだ」

 ワーナーじいさんは鼻を鳴らした。「阿呆どもが集まって騒いでおるわ。おおかた若い衆に丸めこまれでもしたんだろうが、やつらにそんなことができるわけがない。おつぎは、洞穴暮らしに戻りたい、か。働くのはいや、しばらくぐうたらしてみたい、とでも言い出すんだろう。昔から言われてきた通りさ。『六月にくじ引きゃ、とうもろこしはじき実る』とな。やめたことなら、みんな、はこべとどんぐりのシチューを食わにゃならんことを肝に銘じておかねば。くじはいつまでもあるもんだ」じいさんは苛立たしげに付け加えた。
「ジョー・サマーズの若造は、みなにいちいち冗談なぞ言いおってからに」

「だけど、くじをほんとに止めちゃったところもあるらしいよ」アダムズ夫人が言った。
「厄介なことになるだけだ」ワーナーじいさんはひとことで切って捨てた。「尻の青い阿呆が集まってからに」

「マーティン」息子のボビーは父親が前へ出るのをじっと見つめている。
「オーヴァーダイク、……、パーシー」

「ああ、早く終わってほしいよ」ダンバー夫人は大きい方の息子に言った。
「お願いだ、早く終わっておくれ」
「もうすぐ終わりだよ」と息子が答える。
「走って父ちゃんに知らせに行くんだからね。いいね」とダンバー夫人。

 サマーズ氏は自分の名前を読み上げると、きちょうめんに進み出て、箱のなかから紙片を選んだ。
それからふたたび名前を呼ぶ。「ワーナー」
「わしはこの七十七年というもの、毎年くじに出てきた」ワーナーじいさんは前に向かって歩きながら言った。「七十七回目じゃ」

「ワトソン」背の高い少年が、おずおずと会衆の間を進む。「大丈夫だ、ジャック」と声をかける者もあり、サマーズ氏も言った。「ゆっくりやっていいぞ」
「ザニーニ」

 それから長い間があった。息詰まるような時間が過ぎ、やがてサマーズ氏が自分の紙片を虚空に掲げた。「よし、みなの衆」しばらくだれも動けずにいた。それから一斉に紙片が開かれる。

「だれだ」
「当たったのはだれだ」
「ダンバーか」
「ワトソンじゃねえか」
やがてあちこちからこんな言葉が聞こえてきた。
「ハッチンスンだ。ビルだよ」
「ビル・ハッチンスンが当たったんだ」
「父ちゃんに言ってきな」ダンバー夫人が長男に言った。

 村人たちは、ハッチンスンの姿を求めてあちこち見回した。ビル・ハッチンスンは押し黙ったまま、手の中の紙切れを食い入るように見つめている。突然、テシー・ハッチンスンがサマーズ氏に向かってわめいた。
「あんたはうちのひとにくじを選ぶのに十分な時間をくれなかったじゃないか。あたしゃ見てたんだよ。こんなの、ずるいよ」

「テシー、あきらめな」ドラクロワ夫人が声をかけると、グレイヴス夫人も同調した。「いちかばちかだったのはみんな同じさ」
「静かにしろ、テシー」ビル・ハッチンスンは言った。

「さて、みなの衆。ここまではつつがなく進んできた。もうひとふんばり、やることはやって、時間通りに終わらせよう」サマーズ氏は次のリストに目を走らせる。「ビル、さっきはハッチンスン一族を代表してあんたが引いた。あんたの一族にはほかに家族がおるかね」

「ドンとエヴァがいるよ」ハッチンスン夫人が金切り声をあげた。「あの娘たちにも、いちかばちかやらせなきゃ」
「娘は嫁ぎ先の一族で引くんだよ、テシー」サマーズ氏は優しく諭した。
「あんただってみんなと同じぐらい、そのことはよくわかっているだろうに」
「こんなの、ずるいよ」
「ほかにはおらんようだな、ジョー」ビル・ハッチンスンは悔しそうに言った。「娘は嫁ぎ先の一族で引く。そういう決まりだ。となると、オレのところにはほかに家族はない。あとはチビたちだけだ」
「となると、一族を代表して引くのは、あんただ」サマーズ氏は説明口調で続ける。「その一族のなかで家族を代表して引くのも、あんただ。そうだね?」
「そうだ」
「子どもは何人だね、ビル」サマーズ氏は手続き通りそう聞いた。
「三人だ。ビルジュニア、ナンシー、デイヴィ。あとはテシーとおれだ」

「了解した。さて、と」サマーズ氏は言った。「ハリー、みんなのくじは回収してくれたかな」
グレイヴス氏はうなずくと、紙片の束を差し上げて見せる。「くじを箱に戻してくれ」サマーズ氏は指示した。「ビルのも一緒に中へ」

「もういっかいやりなおそうよ」ハッチンスン夫人は努めて冷静なふうを装いながら言った。「たしかにさっきのはズルだったよ。うちのひとには選ぶのに十分な時間がなかったんだもの。みんなだって見てただろ」

 グレイヴス氏が束の中から五枚の紙片を選び出し、箱に入れる。残りは全部地面に落としたので、紙片は風に吹かれてぱっと舞った。
「みんな、聞いとくれよ」ハッチンスン夫人は周りのひとびとになおも言い募る。
「いいかね、ビル」サマーズ氏が訊ね、ビル・ハッチンスンは妻や子どもたちに素早い一瞥をくれると頷いた。

「わかってるな。くじは全員が引き終わるまで、たたんだままだ。ハリー、デイヴィ坊やを手伝ってやってくれ」グレイヴス氏が小さな男の子の手を取ってやる。その子は手を引かれてうれしそうに箱のところへやってきた。「その箱のなかから、ひとつだけ取るんだよ、デイヴィ」サマーズ氏が言うと、デイヴィは手を突っ込んで笑い声をあげた。「ひとつだけだよ。ハリー、君が預かっておいてくれ」グレイヴス氏は子どもの手を取ると、ぎゅっと握ったままの拳を開いて、紙片を取り出した。デイヴィ坊やはグレイヴス氏の傍らで、大人を不思議そうに見上げていた。

「次はナンシーだ」十二歳のナンシーは、クラスメイトがあえぐように見つめるなかを、スカートのすそを翻して進み出て、しとやかな仕草で箱の中から紙片をつまみ上げた。「ビル・ジュニア」赤ら顔で大足のビリーは、箱を危うくひっくり返しそうにしながら一枚取り出した。「テシー」しばらくためらったハッチンスン夫人は、挑むようにあたりを見回し、それから唇を固く引き結んで、箱に近寄った。ひったくるように取り出すと、さっと自分の背中に隠す。
「ビル」サマーズ氏が呼ぶと、ビル・ハッチンスンが箱に近寄っていった。しばらく手探りしていたあげく、最後の一枚をつかんで手を引き抜いた。

 ひとびとは静まりかえっていた。少女がつぶやく。「ナンシーじゃなきゃいいんだけど」囁き声は、人波を端から端まで渡っていった。
「昔はこんなやり方はしなかったもんだがな」ワーナーじいさんがみなにはっきりと聞こえるように言った。「ひとの作風も、昔と今では変わってしまったな」

「よし」サマーズ氏が言った。「開いてもらおうか。ハリー、デイヴィ坊やの分は君がやってくれ」

 グレイヴス氏が紙片を開いた。白紙であることがみんなに見えるように高々と掲げると、会衆のあちこちからほっとしたような溜息が洩れた。ナンシーとビル・ジュニアもそれぞれのを同時に開いた。ふたりの顔がぱっと輝いて、笑顔になり、会衆に向かって、紙片を頭上高くにかざした。

「テシー」サマーズ氏が言った。しばらく待ってから、サマーズ氏はつぎにビル・ハッチンスンの方に目を遣った。ビルが紙片を開き、それを見せる。白紙だった。

「テシーだな」そういったサマーズ氏は、声を低めて続けた。「テシーのくじをみんなに見せてくれ、ビル」

ビル・ハッチンスンは女房の傍へ行くと、力ずくで紙片をもぎ取った。
黒々とした丸、サマーズ氏が前の晩、石炭商会の事務所で、濃い鉛筆で記した黒い丸がそこにあった。ビル・ハッチンスンがそれを高々と差し上げると、会衆の間にざわめきが拡がった。
「よし、みなの衆」サマーズ氏が言った。「さっさと終わらせるとしよう」

 儀式の多くを忘れ、もともとの黒い箱がなくなっていたにもかかわらず、石を使うことはいまだに村人の間にしっかりと記憶されていた。少年たちがさっき積み上げた石の山は、準備万端、ひとびとを待っていたし、かつて箱にあったくじの残骸が風に舞う地面にも、石はたくさん落ちていた。デラクロイのかみさんは両手で持ち上げなければ担ぎ上げられないほどの石を選び、ダンバー夫人を振り返る。「さあ、あんたも急いで」

 ダンバー夫人は両手いっぱいに小石を持ち、息を切らせていた。「全然走れないんだよ、あんた先に行っとくれ。あたしはあとから追いかけるからさ」
 子どもたちはとっくに石を握っていた。小さなデイヴィ・ハッチンスンも誰かにもらった小石を何個か持っている。

 テシー・ハッチンスンは、ぽっかりあいた空間の真ん中に、ひとり取り残されていた。少しずつ迫ってくる村人たちに向かって、絶望的に手をかざした。「こんなのずるいよ」

石がひとつ、こめかみをかすめた。ワーナーじいさんが疾呼した。
「さぁさぁ、みなの衆」
スティーヴ・アダムズが村人の先頭に立ち、その隣りにいたのはグレイヴス夫人だった。

「ずるいよ。まちがってるよ」ハッチンスン夫人は悲鳴をあげた。そこに村人たちが殺到した。

The End

http://f59.aaacafe.ne.jp/~walkinon/kuji.html



・とてつもなく凄いレベルの解説:シャーリイ・ジャクスン「くじ」(Shirley Jackson The Lottery)



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