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ローラースライダーに翻弄される人

 私が住んでおります静岡県の静岡市立日本平動物園には、日本一長いローラースライダーがございます。
 息子がまだ小さい頃、彼はこのローラースライダーに乗りたくて、私は動物の写真を撮りたくて(動物写真を撮るのが趣味なのです)、母子両得ギブアンドテイク的な暗黙の了解で、よくこの動物園に赴いたものです。
 ローラースライダーというのは、カラカラ回るパイプが並んだ滑り台をビート板みたいなものをお尻の下に敷いて滑り降りるアトラクションで、公園にあるような1秒で下についてしまう滑り台などで喜んでいるようでは、まだまだスベライダーとしては未熟者。真のスベライダーはこのロングロングローラースライダーを滑りこなしてこそなのです。なんだよスベライダーって。

 そんなわけで、まだ小さかった息子さんとともに動物園に行ったある日、私が心ゆくまで動物写真を撮ったあとにローラースライダーに向かったわけです。
 しかし、ローラースライダーの券売機で利用券を購入した時点で、トラブルの予感がワタシを襲いました。

 ワタシたちの前に並ばれたのは、ガタイのいいニーチャンと、控えめに言って大変ふくよかなオネーサンでした。オネーサンはふくよかでしたが身だしなみはきちんとしていて、黒のカッチョイイツーピースにブランドバッグで決めた方でした。
 デートで童心に戻って滑り台を楽しむ...通常なら別に何の問題もないんだけど、一つ、大問題があったのです。
 それは…

 オネーサンの尻幅が、滑り台の幅と、ほぼイコールなのです。

 ローラースライダーは長すぎるあまり直線では人類が耐えられるスピードを超えてしまうらしく(うそ)長くくねくねしたコースとなっており、パイプが尻に当たって痛いためビート板みたいなものに乗って滑るのだけど、このビート板の大きさが凄くビミョーなんですよね。
 ビート板は角をとった長方形で、斜めになると滑り台の両側の手すりに食い込んでしまい、動かなくなってしまうのです。かなり長い滑り台のため、むしろ暴走防止策としてそうしてあるのかもしれないんだけど、このせいで慣れてない人はビート板の扱いにかなり苦労するのです。

 しかもオネーサンの尻幅は、そのビート板の横幅をも超えるビート板対角線の幅にほぼ等しく、見るからに「うわ。滑れなさそう」というカンジがむんむん漂っております。
 多分、オネーサン本人も座った瞬間にそれを感じたらしく、ビート板の上に座った瞬間、ちょっぴり動きが止まったようでした。
 それでも後ろにへらへら笑っている母子連れ(※)がやってきたし、彼氏は先に行ってしまったし、オネーサンは果敢に滑り始めたのであります。
※なぜへらへら笑っているかというと、息子は滑り台が嬉しいから、ワタシはオネーサンの尻幅から察するに面白い光景が見られそうだと思っているから。

 カラカラカラカラ...カラ......。

 や、やはり。
 滑り始めていくらもしないうちに、オネーサン停止。
 カッチョヨク決めた黒のツーピースがつるつるした素材だったために、ビート板と尻を上手く同調できない模様であります。

 後ろに迫るワタシと息子を見て、焦るオネーサン。
 ビート板を敷きなおそうとバッグから手を離して膝立ちの四つん這いになったのだが...いけない、オネーサン!それはこのローラースライダーでは決してやってはいけない姿勢だ!!
 オネーサンは膝立ちになったせいで、巨大な尻よりもローラーとの接触面が減り、スムースに滑れるようになってしまったのである。
 オネーサンは「あああ」とかいいながらビート板に手を伸ばした姿勢で、後ろ向きに滑り降りていったのであります!

 その光景を真正面から見てしまい、大人として必死に笑いをこらえるワタシ。
 更に、オネーサンの背後では、オネーサンの呪縛から解き放たれたブランド物のバッグがカラカラカラ...と一人で滑っていってしまうではありませんか。それが前方で快調に飛ばしていたオニーサンの元に到着。オニーサンが「オオウッ!バッグだけきたぞ」と驚いている。
 オニーサンもオニーサンで、後ろで彼女が困ってるんだからちょっとは停まってやればいいのに、彼はオネーサンに「バッグは俺のところにきてるから安心しろ」と声をかけ、再び快調に滑り始めてしまう。
 オニーサンオニーサン、彼女が困っているのはバッグが行ってしまったせいではありませんよ…。

 オネーサンは急いで体勢を整えたものの、慌ててテキトーに座ってしまったので、またビート板が食い込んで進まなくなる。
 ビート板を直そうとすると、また自分だけ滑ってゆく。
 それを見られて恥ずかしいのでまた慌ててテキトーに座ってしまう。
 …という地獄の悪循環に翻弄される女性、約1名。

 オネーサンが何度も体勢を整えるので、ワタシと息子は時々オネーサンの真後ろで衝突防止のママ足ブレーキ(突撃しようとする息子を抱えて、滑り台の手すりに脚をつっぱって止めるブレーキのこと)をかけつつ「大丈夫ですか?」と声をかけるのだが、もう、3回目くらいからオネーサンは返事しなくなってしまった。

 結局オネーサンたちは途中の休憩所兼リタイア出口でリタイアしていったのだが、その後、帰りの駐車場で、ちょうど我が愛車の隣の車にオネーサンたちが乗り込むのをハッケン。
 オネーサンたちの車は多分昔の規格の軽自動車で、ガタイのいいオニーサンとふくよかなオネーサンは、ローラースライダーと同じくらいキツキツになりながら車に乗り込んで、走り去っていったのであった。

 …ひょっとしたら、そういう窮屈プレイが好きなおふたりだったのかな?

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