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私が家事を始めたわけ

 私はとてもしっかりした人に見える外見をしているらしく、態度が大きいこともあって、すごーくちゃんとした生活を送っているように見えるらしいのだけど、実はズボラで忘れっぽく飽きっぽいといういささか困難な性格をしている。
 そのため「きくみさんのお家は、薄暗い間接照明が素敵なシンプルでスタイリッシュなお家なんだろうなあ。遊びに行ってもいい?」とパート仲間のお嬢様に言われても「うん」と言えるはずもなく、「いやあ、そんなことないよぉ…」と消え入るような否定をしてそっと遊びに行きたいという発言を無視するしかなかったのである。

 基本的に、家事は嫌い。
 「片付け」まではするけれども「掃除」は嫌いで、実家では私が掃除機をかけていると天変地異の前触れかと防災用品をチェックする目安とされていたほどである。だって、ホコリがあっても死なないし、髪の毛が落ちてても私は生きてる。
 結婚してしばらくは「料理」というものを頑張ろうと思った時期もあったが、旦那も息子も極度の野菜嫌いで味は保守派。見知らぬものは食べようとしないし、食べたとしても「うん」でおしまい。次第に料理に手をかけることへの虚しさを感じるようになり、そのうち、料理といえば「肉を焼くか炒めるか揚げるだけ」という状態に落ち着いた。
 洗濯も嫌い。汚れてなければ3日や4日同じ服を着たって誰も気が付かないし、気がついたところで強烈な匂いを放っているわけじゃなければ迷惑をかけない。そもそもあの「干し」て「取り込ん」で「たたむ」という一連の作業に徒労を感じる。乾燥機能付きのドラム式洗濯機を購入以降、いかに手をかけずに洗濯をするかだけを追求した私の洗濯物の仕上がりに満足できなくなった夫は、自分のおしゃれ着だけは自分で手洗いコースで洗濯して干すようになった。よいことだ。ぜひ私の分もやっていただきたい。
 洗い物ももちろん嫌い。ただ、洗い物は結婚前実家に所属していた時代に「お前が家に存在する対価として授ける仕事」として二十年あまり担当してきた仕事なので、他の家事に比べれば抵抗感は薄い。ただし、私が洗い物をしている食器には、数年後に謎の蓄積汚れが発見されるという謎があった。実に不思議である。

 そんなわけで、家事全般が大嫌いな私。家は、汚家の名を冠されるのを辛うじて免れるレベルで、気のおけない間柄ながらきれい好きな友人を家に招くのは躊躇される…そのへんの状態であった。

 それが最近、変わり始めている…と思う。

 きっかけは2つ。

 1つは、アクアリウムを始めたこと。
 一昨年メダカをもらったことがきっかけでどんどん深みに迷い込み、現在ではLDKの一角でそれなりのお魚コーナーを広げるレベルのハマり具合。
 特に、昨年末に足を突っ込んだ「ベタ沼」はなかなかのもので、小さな水槽で個別飼育、水換えは水を全部変えて水槽もじゃぶじゃぶ洗う、土などを入れないベアタンク飼育で💩が落ちているのを見たらすぐにスポイトで吸い出して水質悪化を防ぐ…などなど、こまめなケアが必要ながらも大胆な管理がわかりやすいものである。
 水が汚れたら(汚れる前に)こうする…けど、使っているフィルターによってはこうするし、飼育している魚によってはこうかも、敷いている底床によってはこんなことも…と要素が複雑に絡まり合い、これが正解!と言えるものがない(あっても各個人の各水槽によって違う)アクアリウムにおいて、ベタはかなり正解への道筋がわかりやすい魚である。ゆえに、やることが分かりやすくて私に向いていた。

 そして、やることが分かりやすければ「もっとやりやすくしよう」と効率を追求し始めるのが私の性格。ベタの数が増えるにつれて効率を追い求めた結果、水槽周りだけではなくキッチン周りの効率的配置と効率的処理をするのがよい(水槽ゾーンはLDKのダイニングの一角にあり、水換え等はすべてキッチンシンクで行うため)と判断し、いままで年に1回の大掃除くらいしか目を向けたことがなかったキッチン周りをきれいにし、汚れがつかないよう工夫し、さらにそれを維持するためにあれこれ策を講じるようになった。
 ついでに、キッチンをできる限り汚さず使うためにレンジ等を活用したレシピを探した結果、YouTubeで話題の「虚無料理」や「ズボラ料理」にたどり着き、これがまた虚無な舌を持つ家人の好みに合ったようで気に入られたので、虚無ながらも以前より格段に料理をするようになった。もちろん、だからといって洗い物が増えたわけではないあたり、さすが人気レシピである。

 第2のきっかけは、猫である。
 私は世界一かわいい猫2匹と暮らしているのだけど、そのうち1匹がもう何年もお腹に盛大な舐めハゲを抱えている。ハゲ発生初期に病院に相談したところストレスが原因だと言われ、その後はなるべくストレスを与えないよう過ごしていた。ストレスの原因になると思って、病院に行くことすらしなかった。しかしこの夏、ハゲの範囲が広がってきて世界一かわいい姿が台無しになってきたので、さすがに別の病院に連れて行ったところ、アレルギーの可能性を示唆されたのである。
 疑わしいアレルギー第一位はノミだろうということでノミ避けを処方してもらったが、どうも経過が思わしくない。
 次に怪しいのがダニであろう。我が家は前述の通り天変地異を呼ぶ女が掃除を担当しているため、まあ正直、あまり清潔ではなかった。なぜかダイソンの掃除機があるのだが、それも家電量販店の兄ちゃんの策略にハマってスティック型ではなく本体があるタイプの掃除機にしてしまったため、引っ張り出してくるのが面倒でほとんど稼働していなかった。
 しかし、世界一かわいい猫にダニアレルギーの可能性があるのだ。掃除機が嫌いなどと言っている場合ではない。かくして我が家はここのところ毎日天変地異が起こる可能性が高まっているのである。

 また、我が家には2年前までもう1匹世界一かわいい猫がいたのだが、その子がある日突然体調を崩したとき、なぜか風呂場の備え付けの棚の下に入りたがった。
 もうおわかりだと思うが、当然そんなところ無きものとして放置されていた場所だ。病気の体で寝転がるにはあまりにも汚いと思われ、そこに行きたがる猫様を何度も何度も連れ戻さなくてはならなかった。
 その後、体調が戻ることなく他界してしまった彼。
 いまだに、彼が最後にいたがった場所を「自分の掃除が行き届いていないから」という理由で連れ戻したことが時々思い出されて、後悔の念に駆られる私。
 今はまだ元気な世界一かわいい2匹の猫も、いつ体調を崩すかわからない。その時、彼女たちが「ここで過ごしたい」という場所が私のズボラが原因で使えない状態だったら…今度こそ後悔してもしきれないというものである。

 かくして私は、家の中をピカピカ…とまではいけないけれども、少なくとも「猫がどこに行っても大丈夫」な家にするために、そしてそれを維持し続けるために、行動を始めたのである。
 結構きれいになってきたと思うのだが家人が誰も褒めてくれないので、自分で自分の頑張りをここに記録して、悦に入っておきたいと思う。

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