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甲状腺検査はもうおしまいにしよう

 福島の子どもたちへの甲状腺検査が始まって8年以上経ちました。原発事故当時18歳以下だった子どもたち38万人全員の甲状腺を超音波検査し続けようという前代未聞の(世界に前例がない)大調査は5周目にはいります。僕はこの検査を中止するよう提言する記事を2019年6月に「論座」に寄稿しました。その繰り返しになりますが、ずいぶん時間が経ったのでここでもう一度整理しておきましょう。  

 ここで初めに追記しておきます(2022/1/19)。高野徹・緑川早苗・大津留晶の専門家諸先生と児玉一八さんと僕で「福島の甲状腺検査と過剰診断」(あけび書房)という書籍を出しました。専門家によるこの問題の解説は少なく、成書はこれだけです。特に高野・緑川・大津留の三先生による解説は貴重です。この問題についての基本文献になるはずです。ぜひご一読ください。書籍を読んでいただければ、僕のこのnoteは読む必要ありません。逆に、僕のnoteで関心を持たれたかたはぜひ書籍をお読みください。追記ここまで。

 もちろん僕は甲状腺の専門家ではないし、それどころか医師でも医学者でもありません。それなのにどうしてこういうことを言い続けているかというと、ひとつには本当の専門家の発言が少ないから、もうひとつにはこれから書くことは論理的に明らかだと思うからです。専門家としては高野徹先生が積極的に発言しておられます。僕の文章よりもためになるので、ぜひ高野先生の意見や解説をご覧になってください。
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/labo/www/CRT/KS.html

知っておくべき事実、分けるべき問題  

 この問題を考える上で知っておかなくちゃならないだいじな事実は  

1. 無症状者への甲状腺検査をしなければ、小児甲状腺がんの発生数は年間100万人あたり数人。
2. 福島の甲状腺検査の結果、放射能汚染が少なかったはずの会津でも他地域と同程度にがんが発見された。  

のふたつです。世の中には甲状腺検査とその結果についていろいろな意見がありますが、妄想のようなものも少なくありません。最低でもこのふたつの事実とは整合しなくちゃなりません。整合していないものは、それがどんなに精緻を極めた計算の結果だろうがどんな立派な思想に基づいたものだろうが全て無意味です。  

 さて、次のふたつの問題は分けて考えて下さい。  

1. 無症状者への甲状腺エコーそのものの是非
2. 被曝影響によって甲状腺がんが増えたかどうか  

 もっと言うなら、さらに分けて考えてほしいことがあります。それは  

3. 原発の是非  

です。  

 もちろん関係はあります。原発事故がなければ甲状腺がんが増える心配もしなかったし、甲状腺検査も行われませんでした。だから、そもそも原発がなければこんな問題は起きなかったはずです。でも、今議論したいのは、今まさに行われている甲状腺検査をこのまま続けていいのかどうかです。これは原発の是非とは関係なく議論しなくてはなりません。なぜなら、検査そのものが原発の是非と無関係に現在進行形で行われているのだし、これから説明するようにその検査が今まさに人々に害を及ぼし続けているからです。「原発が悪いのだから、有害であっても甲状腺検査を続けていい」などという理屈は通りません。これは重要です。  

 そして、1と2の関係について。はっきり言ってしまうなら、被曝の影響で甲状腺がんが増えていようが増えていまいが、それとは無関係に甲状腺検査はやめるべきです。甲状腺がんが被曝由来だろうがそうでなかろうが、無症状者への甲状腺エコーが有害無益であることに変わりはないからです。この点はあまり理解されていないように思います。被曝影響だろうがそうでなかろうが甲状腺がんは甲状腺がんです。被曝の影響で発生した甲状腺がんがそれ以外の甲状腺がんよりも恐ろしいわけではありません。そして、甲状腺検査そのものが抱える問題点もなんら変わりません。「被曝影響を調べるためなら、有害であっても甲状腺検査を続けていい」という理屈もありません。  

 ただ、それを前提として、それでも「被曝影響で甲状腺がんは増えないと予想されている」という事実は言っておく必要があるでしょう。東電原発事故による放射能汚染では健康影響が見られるほどの被曝は生じていないと推定されているからです。これは国連科学委員会などの結論で、国際的に認められた科学的コンセンサスです。これはこれでだいじだと思います。実際、甲状腺検査の最初の2周(先行検査と本格第一回)の分析結果が出て、発見された甲状腺がんは放射線被曝とは無関係という結論が報告されています。明らかな地域差は見られないからです。まあ検査開始前から予想されていた通りです。もちろん、疫学ですから「絶対にゼロ」とは言えないのですが、発見された甲状腺がんの少なくとも殆どすべては被曝と無関係です。全部ではないのかもしれないけれど、殆どすべてです。ただし、甲状腺検査の是非は論理的にこの話と無関係だということも改めて理解してください。  

 チェルノブイリ原発事故で発生した明らかな健康影響は、子どもの甲状腺がんが増えたことだけでした(もちろん、収束作業に当たった人たちが急性被曝で亡くなったという悲しい事実はありますが、その話をしていないことは文脈で明らかなはずです)。これは放射性ヨウ素で汚染された牛乳を飲んだためとされています。福島ではその心配はありませんでしたが、それでも東電原発事故後にも子どもたちの甲状腺がんを心配する声が上がりました。そこで始められたのがこの甲状腺検査です。福島県のウェブサイトにある県民健康調査のページには甲状腺検査について「子どもたちの健康を長期的に見守ることを目的として」と書かれています。少なくとも公には、被曝影響の有無を知るための検査ではないことに注意して下さい。  

 ところが、世の中には被曝影響の有無にしか興味を持たない人たちがいます。甲状腺がん発見率の些細な地域差をおおごとのように議論する人たちがいます。彼らが無視しているはるかにだいじな事実は最初に書いた「汚染が少なかったはずの会津でも、甲状腺がんは同程度に見つかっていること」です。この検査をしなければ、福島県では年間せいぜいひとりかふたりの甲状腺がんしか発見されなかったはずです。ところが検査してみるとたくさん発見され、しかも会津でも発見されている。甲状腺がんの発見率の地域差以前に、そもそも発見率のベースラインそのものが上がっているわけですから、これを問題にしなくてはなりません。些細な地域差にばかり注目する人たちはまさに「木を見て、森を見ず」です。  

何が起きているのか

 ではここで数字を見ておきましょう。2020年2月13日の県民健康調査検討委員会で配られた資料によれば、「悪性または悪性疑い」と判定された人は総計237人。これはエコーで精密検査が必要とされた人たちに穿刺細胞診を行なった結果です。その中で実際に手術が行われたのは187人です。手術を受けた人のうち184人、つまりほぼすべては進行が穏やかな乳頭がんで、また、ひとりは手術の結果良性結節と分かり、がんではありませんでした。この方は明確に「検査の被害者」でしょう。  

 まず、とにかく人数が多いことに注目してください。それから、「悪性または悪性疑い」と判定されると3/4以上が手術になってしまうのも重要です(細胞診と手術には時間差があるので、手術の比率はもっと高くなるのかもしれません)。検査が繰り返されているため乱暴な比較しかできませんが、普通は年間ふたり程度しか発見されないのだとすれば、大雑把にその10倍以上の人数を手術したわけです。これは明らかに異常な事態です。どういうことなのか。繰り返し書いたように、会津でも同程度に発見されているのですから殆どすべては被曝影響と無関係です。だから、「無症状者の子どもに甲状腺エコーを行なうと、どこで検査しようとこの程度の率でがんが発見される」としか考えられません。  

 実際、多くの人が無症状のまま潜在的に甲状腺がんを持っていることは以前から知られていました。たとえば、甲状腺がんではない死亡者を解剖すると高い頻度で甲状腺がんが見つかります。このように死ぬまで症状を顕さないはずだったがんを検査で発見してしまうことを「過剰診断」と言います。原理的にはあらゆるがんに過剰診断があり得ますが、とりわけ甲状腺がんでは過剰診断が起こりやすいことが知られています。韓国ではがん検診に甲状腺がんを含めたところ、甲状腺がんの発見数が激増しましたが、甲状腺がんによる死者は変わりませんでした。この調査結果は2013年頃に伝わってきて、論文は2014年に公刊されました。また、ウェルチたちの「過剰診断」という本にはアメリカでの同様のデータが載っています。この本の邦訳が出版されたのも同じ2014年です。  

 つまり、無症状者への甲状腺エコーで発見されるのは生き死にに関係ない穏やかな甲状腺がんばかりで、急速に成長して死につながるような甲状腺がんには定期検診のようなものでは対応できないわけです。検査で見つけたがんが過剰診断かどうかはがんそのものを見ても区別がつきませんが、統計的にはわかります。韓国やアメリカのデータは、発見されたがんの大部分が過剰診断だったことを示唆しています。過剰診断が有害なことは言うまでもないでしょう。たとえば本来なら必要なかったはずの手術に繋がります。では、症状が出るまで手術せずに全例を経過観察にすればいいのかというと、話はそう簡単ではありません。がんを告知されて、ただし死ぬまで発症しないかもしれませんと言われても困るでしょう。また、「がん患者」になればそれだけで様々な不利益があるのは簡単に想像できるはずです。ウェルチらの本では「甲状腺がんのスクリーニングにあるのはデメリットだけだ」「何のメリットもないのだ」と断言されています。では、そのデメリットとはなにか。  

 過剰診断じゃなくて前倒し発見(狭義の「スクリーニング効果」)ではないかと考える人たちもいます。実のところ、過剰診断と前倒し発見の比率なんて誰も知りません。単に発症と死亡のどちらが早いかだけの問題とも言えます(子どもの甲状腺がんの多くは成長が止まるという見解もあり、そうだとすると過剰診断と前倒し発見は本質的に違うはずですが、ここでの話はどちらでもかまいません)。実際、甲状腺がんの殆どを占める乳頭がんは進行が遅いので、前倒し発見だとしても症状が出るのは何十年も先のことかもしれません。それなら、不利益は過剰診断と変わりません。過剰診断だろうが前倒し発見だろうが、無症状の甲状腺がんを早期に発見する利益はありません。  

 ここで、ありがちな誤解をひとつ説明しておきます。過剰診断は誤診ではないし、偽陽性でもありません。偽陽性というのは本当はがんではないのにがんと診断されることですが、過剰診断の場合は本当にがんがあります。がんには間違いないけれども、見つける必要がなかったがんです。というよりも、「見つけないほうがよかったがん」「見つけることが却って害になるがん」です。  

推奨されない検査

「がんには早期発見が重要」と広く信じられていますが、それは必ずしもすべてのがんについて正しいわけではなくて、がんには検診による早期発見が有効なものと有効ではないものとがあります。進行が遅いがんと進行が速すぎるがんに対しては定期検診が有効ではありません。逆に、検診が有効ながんはがん検診の標準的なメニューに入っています(ただし、自治体によっては甲状腺がんなど検診が有効ではないがんを含めているところもあります。困った話です)。甲状腺がんには早期発見・早期治療が有効という根拠はなく、早期発見はかえって有害です。  

 それでも、少なからぬ人たちが過剰診断の害を理解してくれません。彼らは治療さえ抑制的にすればいいはずだと考えているのですが、それは根本的なところで間違えています。さっきも書いた通り、過剰診断かそうでないかは臨床的に区別できないので、過剰診断は治療方針では抑えられません。また、治療しようがしまいが「がん患者」としての不利益はあります。過剰診断を防ぐ方法は検査しないことだけです。  

 今や検診目的での甲状腺検査を推奨しないのが世界的な流れです。アメリカのU.S. Preventive Services Task Forceは2017年に無症状者の成人への甲状腺スクリーニングを「推奨しない」としました。もちろんこれはおとなの話なのですが、そもそも子どもへのスクリーニングなど想定されていませんから。いや、たしかに頭部に被曝した子どもはリスクが上がるとも書いてあります。しかし、それは放射線治療などで大きな被曝をした場合の話で、福島の子どもたちはそれに該当しません。2018年にはIARC(国際がん研究機関)が、原子力事故後の甲状腺集団スクリーニングは推奨しないと提言しています。そこでは慎重に、現在行われている活動への提言ではないと断っていますが、だから福島では続けてかまわないという意味ではありません。世界は原子力事故後ですら甲状腺検査をしない方向へ向かっているのです。  

 それは大人のデータに基づいた話であって、子どもには当てはめられないはずだと主張する人たちもいます。もちろん無症状の子どもへの甲状腺検査なんて福島でしか行われていないのだから、子どものデータがないのは当然です。そもそも子どもにがん検診なんかしません。当たり前です。でも、検査しなかったら小児甲状腺がんは稀だということは分かっているのですから、結論は論理的に明らかです。つまり、福島の子どもたちに甲状腺がんがたくさん発見されたのは無症状者を片っ端から検査したからであって、それ以外の理由ではありません。もし、他の地域でも同じ検査をすれば、同程度のがんが発見されるはずです。  

 実際、福島での検査と並行して、2012年から13年にかけて弘前・甲府・長崎でも小規模な検査が行われました。対照群というわけです。こんな検査が倫理的に許されるとは思えませんが、とにかくこれは三県調査として知られています。結果は4365人を検査して、ひとりの甲状腺がんが発見されました。4365人中ひとりというのは相当に高い比率で、これを年間発生率とみなすなら、小児甲状腺がんは年間100万人あたり数人というこれまでの知見では説明できません。一方で、福島での検査による発見率とは整合しています。これは無症状の子どもに甲状腺エコーをすればがんがたくさん見つかる傍証になります。  

 とにかく、「無症状の子どもたち38万人に甲状腺エコーを実施したから、潜在的な甲状腺がんを次々と見つけてしまった」のは明らかです。もちろんそれが受診者の利益になるのなら問題ありません。甲状腺がんを早期発見して、将来の死者が減るのならかまわないでしょう。ところが、実際には早期発見に利益はなく、むしろ害ばかりがあるわけです。発見された甲状腺がんのほぼすべては、早期に発見する必要がないものでしたし、その中には高い率で「死ぬまで発症しなかったはずのがん」が含まれていたと考えられます。  

ガイドラインの問題

 さて、検査でがんを見つけてしまえば、ガイドラインにしたがって手術するかどうかが決められます。多くの手術を担当した福島県立医大の鈴木眞一氏は、ガイドラインに従って相当抑制的に手術を決めたと言っています。だから過剰ではないのだというのが鈴木氏の主張です。たしかにその意味でなら、過剰な手術とは言えません。抑制的というのもその通りでしょう。それでも、手術の総数が異常に多いという事実は厳然としてあるわけです。これは今のガイドラインでは手術の適否を正しく判定できないことを意味するとしか考えられません。いや、手術例の多くにリンパ節転移があったではないかという意見もあるかもしれません。しかし、福島での甲状腺検査が示しているのは、転移があっても微小である限り問題ないということです。そうでなければ普段の10倍もの甲状腺がんが発見されている説明がつきません。  

 これまでは手術そのものが稀だったために問題にならなかったガイドラインも、38万人もの前代未聞の大規模スクリーニングには対応できなかった。言い換えるとガイドライン通りでも「無用な手術」は行われるわけです。もちろん鈴木氏は専門家ですが、その発言には相当な驕りがあるように僕には思えてなりません。もっと事実に謙虚であるべきです。現代の医学知識ではまだ38万人の大規模甲状腺スクリーニングを適切に扱えないのでしょう。いや、将来扱えるようになるかどうかもわかりませんが。  

倫理

 このような事態を引き起こす検査を続けていいとはとても思えません。受診者に利益のない検査を行うことは医学の倫理に反します。よしんば被曝によって甲状腺がんがわずかに増えているのだと仮定したとしても、それでも無症状者への甲状腺スクリーニングは正当化されません。いずれにしろ、利益はなく害だけがあるからです。症状がないのに高精度エコーをかけてまで甲状腺がんを見つけださなくてはならない理由は全くありません。この検査は倫理に反しています。これは何度でも繰り返して言わなくてはなりません。  

 もちろん、被曝によって甲状腺がんが増えたかどうかを知りたいなら、この検査が最高なのです。それを調べたい研究者にとっては、それこそ喉から手が出るようなデータでしょう。だからこそ、受診率の低下を問題視しているのだと思います。みんなが安心して、受診者がゼロになればそれでいいはずです。ところが、県民健康調査検討委員会では受診率の低下が問題視されています。まったくわけが分かりません。唯一考えられる理由は、受診率が下がると疫学調査としての価値が下がるからです。しかし、疫学調査は検査の目的ではなかったはずですし、それを検査の目的としてはならないのです。何度も繰り返したように、この検査は受診者にとって有害無益だからです。そのような調査は医学研究倫理を定めたヘルシンキ宣言に反しますし、ヘルシンキ宣言があろうがなかろうが倫理に反するのは明らかです。甲状腺がんが増えたかどうかを調べる疫学調査のは二の次、三の次のはずです。なぜなら、いちばんだいじなのは受診者にとっての利益のはずだからです。そころが、今の福島ではそれがないがしろにされています。  

 それを考えると、本来ならそもそも始めてはならなかった検査だったことがわかります。始めることを決めた専門家たちはその点で非難されても仕方ないのではないでしようか。そもそも「見守り」などという曖昧な目的で手術につながる可能性がある検査を行おうという考えかたがまちがっていたのです。もちろん、こんなにたくさんのがんが発見されるとは予想せずに始めたのかもしれません。それならそのこと自体、専門家として責められるべき失態と思いますが、検査を始めたのは善意だとしましょう。では、それをいつやめるべきだったのか。これはかなりはっきりしています。2013年2月13日に開かれた第10回の県民健康調査検討委員会で3人の甲状腺がん確定が報告されています。これは明らかに多すぎです。この時点で、まずいことが起きているのははっきりしていました。この検討委員会で甲状腺検査の一時中止を決めなかった検討委員会には大きな責任があります。2013年の初めにはやめられたはずなのです。これ以降の検査については、言い訳の余地はないと僕は考えています。  

さまざまな問題

 既に多数の「検査の被害者」を出してしまった検査ですが、それでも、続けるよりは今すぐにやめるほうがましです。だらだら続けている大人たちは無責任です。せっかく大量被曝を免れた子どもたちが甲状腺検査の被害を受けるのは見ていられないではありませんか。甲状腺検査を続けるかぎり、さらなる被害の可能性があります。  

 有害無益だとしても希望者には受診の機会を与えるべきだという議論もあります。これにはいくつかの問題があるのですが、まずなによりも「希望者」とは誰なのかが問題です。本当に受診者本人が希望しているのでしょうか。親が希望しているだけではないでしょうか。この点はきちんと考えるべきです。また、そもそも希望者しか受けていないのだと主張する人もいます。そう、名目上はそうなっています。同意書を出した子どもだけが検査を受けるのです。ところが、検査は学校で授業時間を使って行われています。この「学校検診」には半強制性があるとして問題視されています。事実上の検査強制になっているというわけです。実際、小中高生の受診率は異様なまでに高く、これは学校で検診を行なっているせいだと考えられます。少なくとも学校検診はすぐに中止して、本当の希望者だけが指定医療機関に出向いて検査を受ける制度に変える必要があります。  

 大きな問題は、受診者がきちんと説明を受けていないことです。過剰診断や前倒し発見が無用な手術につながりかねないことはずっと曖昧にされてきました。初期に配られていたパンフレットには検査のメリットとして「早期発見・早期治療に貢献します」とあたかも早期発見・早期治療が有効であるかのように書かれ、「害」については一切触れられていませんでした。こんなのはめちゃくちゃです。インフォームドコンセントが正しくなされていなかったのですから、受診者(の親)が正しい判断をできるはずがありません。  

 批判があったため、説明書が改訂されて、新しい説明書には以下のように書かれるはずです。
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●メリット
(1) 検査で甲状腺に異常がないことが分かれば、放射線の健康影響を心配している方にとって、安心とそれによる生活の質の向上につながる可能性があります。
(2) 早期診断・早期治療により、手術合併症 リスクや治療に伴う副作用リスク、再発のリスクを低減する可能性があります。
(3) 甲状腺検査の解析により放射線影響の有無に関する情報を本人、家族はもとよ り県民および県外の皆様にもお伝えすることができます。
●デメリット
(1) 将来的に症状やがんによる死亡を引き起こさないがんを診断し、治療してしまう可能性があります。
(2) がんまたはがん疑いの病変が早期診断された場合、治療や経過観察の長期化に よる心理的負担の増大、社会的・経済的不利益が生じる可能性があります。
(3) 治療を必要としない結節(「しこり」)やのう胞も発見されることや、結果的に良性の結節であっても二次検査や細胞診を勧められることがあるため、体への負担、受診者やご家族にご心労をおかけしてしまう可能性があります。
........  

 メリットがあるかのように書かれている時点でこの説明は欺瞞です。まず、「安心」は医学検査の目的ではないので1をメリットに挙げてはいけません。2は根拠がありません。3は受診者個人の利益ではありません。メリットとして挙げられているものはすべて無意味です。当たり前です。無症状者への甲状腺エコーに受診者個人への利益はないのですから。デメリットと書かれているほうはまあ正しいのですが、たぶんこの程度の弱い警告では「害」と捉えない人も多いでしょう。こんなのはだめです。「有害無益な検査なので、受診しないことをお勧めします」くらいのことを書かなければ、正しいインフォームドコンセントとは言えません。それでもなお受けたいと言う人がいても、「やめたほうがいい」と言うくらいが正しいと思います。  

もうおしまいにしよう

 この検査はもう充分な数の「被害者」を生んだと思います。充分すぎませんか。検査を実施している人々はなぜ更なる被害者を生みたいと考えているのでしょうか。この検査はさまざまな意味で倫理に反しています。不幸中の幸いにして被曝による健康被害は出なかったのに、検査で被害者を生むなんて、おかしいと思いませんか。こんな検査は早く終わらせるべきです。最低でも学校検診はやめ、「有害無益」であることを広く知らせるべきです。  

 検査を終わらせるに当たってはひとつ重要なことがあります。これまでに甲状腺がんが発見されてしまった子どもたち(もう成人した人たちもいますが)のことです。検査しなければ発見されなかったがんなのですから、その責任は検査を実施した福島県と予算を出している国が取るべきです。彼らには生涯にわたって、甲状腺がんによって被る不利益を補償しなくてはなりません。それを約束した上で、もうおしまいにしませんか。  

 甲状腺検査に対する関心は相変わらずあまり高くないように思いますが、ぜひ関心を持ってください。  

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今日はピンク・フロイドの"Learning to Fly"を  

https://youtu.be/nVhNCTH8pDs

#オピニオン

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