見出し画像

テルミンを弾こう(2)

今回は、テルミンを買ったものの教えてくれる先生もいないしどうしようかなという人のために、テルミンの始め方を書きます。そうそう、前回だいじなことを書き忘れました。Etherwaveは日本ではKORGが輸入しています。楽器屋さんにない時はそう言って注文してください。残念ながらテルミンに詳しい楽器屋さんは限られます。大阪ならマークス・ミュージックの片山さんに相談すればなんとでもしてくれるはずです。大きな楽器屋がなければ、通販専門のサウンドハウスで買えばいいでしょう。

さて、最初に言っちゃうと、もし手近に教室があるなら、習いに行ったほうが早いです。それはまあ、どんな楽器でもそうですよ。ただ、テルミンには標準的な演奏法がないので、先生によって演奏のしかたが全く違うかもしれません。もっとも、日本で教室を持ってる人の多くは竹内正実さんに習ったか竹内さんのお弟子さんに習ったかだと思うので、竹内さん流(ということは、リディア・カヴィナ流)の演奏法の可能性は高いでしょう。習う人がそれでよければそれでいい、としか言いようがないんですよね。とにかく早く曲が弾けるようになりたいというかたには、竹内流はいいと思います。メソッドがはっきりしているので、間違いなく最初の上達は早いです。ただ、誰にどんな演奏法を習うにしても、「テルミンに決まった演奏法はない」ことだけは頭に入れておいてくださいね。習ったことが自分にとってベストとは限りません。とりあえず習ってみて、それから自分がどう弾きたいかを考えればいいでしょう。

それはそれとして、ここでは独学したい人を対象に、まずはテルミンの始めかたを書きます。テルミンはEtherwave、アンプはモニターアンプなどの歪まないアンプを想定しています。前回書き忘れましたが、練習用のモニターアンプは出力20ワット程度がいいと思います。YAMAHA MSP3あたりが代表的な機種になります。正直、音楽的には面白くありません。モニターアンプは楽器用のアンプではなく、なるべく原音に忠実な音を出すことを考えて作られてますから。アンプはいずれ買い換えるものだと割り切っておいたほうがいいでしょうね。

では、まずはセッティングから。Etherwaveを組み立てなくちゃなりませんね。まず、マイクスタンドに取り付けます。高さはとりあえず、本体上面がおへその高さくらいになるようにしておけばいいでしょう。これも絶対ではなくて、高くセッティングする人もいれば、低いのを好む人もいます。自分に合った高さをおいおい見つけていきましょう。アンテナにはまっすぐなピッチアンテナと曲げてあるボリュームアンテナがあります。どこに取り付けるかは、本体を見れば分かるはずです。ボリュームアンテナは膨らんでるほうが手前にくるように、そしてどちらもガタつかないように留めます。

テルミンは座っても演奏できますが、その場合には左脚がボリュームアンテナに近づかないように注意してください。身体の一部がボリュームアンテナに近づくと、音が小さくなったり出なくなったりします。その意味ではテルミンの置き場所にも注意が必要で、壁の影響も受けてしまうので、できれば周囲を1メートル程度は空けておきたいところです。

次は配線です。アンプとEtherwaveのスイッチがオフになってることを確認して下さいね。ちなみにEtherwaveの電源スイッチは○がオフでIがオンです。 Etherwaveには専用のACアダプターがありますから、これを本体背面の端子に挿して、反対側をコンセントにつなぎます。アンプもコンセントにつなぎます。シールドの一端をEtherwaveのAudio outに、反対側をアンプのInputに挿します。この時点でアンプの音量は0にしておきましょう。全部接続するまでアンプの電源を入れないこととアンプの電源を入れる時には音量を0にしておくのが、電気楽器・電子楽器の作法です。Etherwave Plusの人はヘッドフォン端子にシールドをつなぐとヘッドフォン用の音量調節が使えて、意外に便利です。

電源を入れる前に、Etherwaveのつまみを確認しておきましょう。つまみは四つあり、左からVolume, Pitch, Waveform, Brightnessと書かれています。Plusには五つのつまみがありますが、いちばん左はヘッドフォン用の音量です。Etherwaveを手に入れて真っ先に戸惑うのがVolumeつまみです。これは音量調節ではなく、ボリュームアンテナの感度を決めるためのものです。とりあえず右に回し切っておいてください。慣れてきたら自分に合う設定を見つければいいでしょう。Pitchは音程を調節するものですが、これは音を出してみないとわからないので、とりあえず真ん中にしておきましょう。残りのふたつが音質をきめます。Brightnessは音の「硬さ」を設定するもので、Waveformはもっと微妙な調節です。これもあとでいろいろ試してみて下さい。とりあえずはどちらも真ん中でいいと思います。

いよいよEtherwaveの電源をオンにして、アンプの電源をオンにします。アンプの音量を上げていくと、テルミンの音が聞こえるかもしれません。かもしれませんとは曖昧で申し訳ないのですが、聞こえるか聞こえないかはテルミン側のPitchの設定しだいで、しかもそれはアンプの音量を上げてみないとわからないのです。アンプの音量を上げて音が出ればよし、出なければアンプの音量を下げてから、Pitchを少し左に回して再び音量を上げてみます。どこまで回しても音が出なければ、配線ミスかスイッチが入ってないかです。この時に出る音が最大音量になるので、アンプの音量を適宜設定して下さい。

音が鳴りっぱなしはでうるさいので、左手をボリュームアンテナの輪っかに少し入れてみましょう。これで音が出なくなるはずです。ボリュームアンテナは、手を近づけると音が小さくなるように設定されています。最初はこれが意外に思えるかもしれませんが、まあ、すぐに慣れますから。左手をボリュームアンテナに近づけたり遠ざけたりして、音量が変化するのを確かめてください。この変化の感度を調節するのがVolumeつまみで、左に回すほど変化が緩やかになります。

立ち方ですが、もちろん好きなようにすればいいのです。特に決まりはありません。多くの人は本体の真ん中よりも少し左寄りに立つようです。僕は足でエフェクターのスイッチを踏むので、右足の自由が利くように左足荷重で右足は少し前に出しています。両足均等荷重の人が多いとは思いますが。距離は右手を水平に軽く伸ばして、手の甲がピッチアンテナに触れるくらいかな。もっとずっと近くに立つ人もいますけど、とりあえずはこれくらいがいいでしょう。

それでは、いよいよピッチのチューニングです。チューニングはだいじなのですが、だんだん分かってくるので最初は気楽に。まず、今の状況を確認します。左手はボリュームアンテナから適当な距離に置いて、音が大きくなりすぎないようにします。いや、爆音でチューニングしちゃいけないわけではないんですけどね。フォームは気にせず、右手を体に引きつけた状態からアンテナ近くまで動かしてみましょう。状況は以下のどれかです。

1. 近づけるにつれて音が高くなる
2. いったん低くなって、音が出なくなり、さらに近づけると音が高くなる
3. 近づけるにつれて音が低くなる

1がとりあえずは正しい状況です。2または3の時はPitchつまみを左に回して、1の状況にしてください。

ここからチューニングに入ります。右手を身体に密着させたときに音が出ますか?音が消えてしまうならPitchを少し左に回して、手を密着させても音が出るようにします。そのまま上体を少し後ろに逸らしてみます。ちょっと逸らして音が消えるならオッケーです。逸らしたくらいでは音が消えないようなら、Pitchを少し右に回します。つまり、右手を体に密着させてもまだ音は出ているけれども、体を少し後ろに逸らせると音が消える、という状態にします。これが初心者向けの基本的なチューニングです。これで、テルミンのほぼ全音域が体とアンテナの間にぴったり入るわけです。

もちろん、絶対にこうチューニングしなくちゃならないというわけではありません。チューニングを変えると距離と音程の関係が変わります。短くチューニングする(つまり、右手が体に着く前に音が消えるようにする)と距離のわずかな変化で音程が大きく変わりますし、逆に長くチューニングする(体を逸らしても音が消えない)と音程を変化させるために手を大きく動かさなくてはならなくなります。最終的には自分にとっての演奏しやすさでチューニングするべきです。ちなみに、チューニングはテルミンの置き場所で変わりますし、同じ場所に置いても電源を入れてから時間が経つにつれてだんだん変化します。Pitchつまみに「ここに合わせればオッケー」という位置はありません。チューニングは変化するものです。こまめなチューニングを心がけましょう。これで準備ができました。最初は手間取るかもしれませんが、慣れてくればすぐにできるようになります。

今回はここでやめてもいいんですが、せっかくチューニングしたからには、何かやりたいですよね。最初にやるべきことは「いろいろ試して慣れる」です。いきなりドレミを弾こうとするのはお勧めしません。トライしてもいいですけどね。それより、いろいろな音を出して遊んでみるほうがずっとだいじだと僕は考えます。

たとえば、まずはボリュームアンテナに左手を近づけて、音を消します。右手を適当な位置に置きます。手はグーでもパーでもかまいません。ただ、今後のことを考えると手のひらをアンテナに向けるのはお勧めできないので、指の甲側をアンテナに向ける感じがいいでしょう。手のひらは真横に向けてもいいし、小指側がアンテナに近くなるように傾けても大丈夫。それから、左手をゆっくりと上げていきます。音が出ましたか。適当な音量で数秒そのままの音を保ってから、また左手をボリュームアンテナに近づけてゆっくりと音を止めます。

どうでしょうか。実は同じ音を保つというのが意外に難しいのです。だから、最初は音程が動いても気にしないほうがいいでしょう。いずれ慣れます。音量を上げてから、右手をアンテナに近づけたり遠ざけたりすると、音程が変化します。ゆっくり動かしたり速く動かしたり、大きく動かしたり小さく動かしたり、いろいろ試してみてください。ピッチアンテナに触れても壊れませんから、それもぜひ試しましょう。音量変化もゆっくりにしたり速くしたりしてみます。

とにかくいろいろ遊んでください。音色も変えてみるのもいいと思いますよ。音を出したり変化させたりすることそれ自体を楽しめれば、ドレミが弾けなくたってテルミンは楽しい楽器です。いきなり音階練習するよりも、まずは楽器に馴染むことです。充分に遊んでから音階練習に移ったほうがいいと僕は考えます。Enjoy!

最後に、今回は現代のトップ・テルミン奏者のひとり、Carolina Eyckの声とテルミンによるライブ・パフォーマンスを。

https://youtu.be/jtPFxLNBnyQ

次回は音階練習的な話をしましょう。近いうちにまた。
#音楽 #テルミン #theremin

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?