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東京都同情塔を読んで

読書の小窓}第170回芥川賞 九段理恵「東京都同情塔」
美青年(イケメン)好きの成熟した37歳の女性建築家牧名沙羅と彼女に見初められた美青年26歳のタクト(東上拓人)。

東京都のど真ん中、都民憩いの場、新宿御苑に地上71階建ての巨大な円柱のタワー「シンパシータワートーキョー・東京都同情塔」という刑務所が建てられた。(多分、都民の大部分は、建設に反対するだろう)

東京都同情塔

犯罪者になるために生まれてきたためではない。幸せになるために生まれてきたはずだ。しかし、犯罪者になってしまった。そんな人たち(ホモミゼラビリス)に同情して建てられた刑務所が東京都同情塔である。
それを設計した女性建築家が、牧名沙羅、そして、その同情塔で働いているのが沙羅の恋人タクトである。

ザハ・ハディド東京オリンピック・パラリンピックに向けて新国立競技場の設計コンペで最優秀賞に選ばれたザハ・ハディドの案が建設費が余りにも高いため白紙撤回となった。ことがあった。

ホモ・ミゼラビリスとホモ・フェリスマサキ・セト、社会学者、幸福学者の唱える「ホモ・ミゼラビリス 同情されるべき人々」と「ホモ・フェリス 祝福される人々」「幸せな人々」と定義したとAIが言う。

しかし、AIとは、~他人の言葉を継ぎ接ぎしてつくる文章が何を意味し、誰に伝わっているかも知らないまま、お仕着せの文字をひたすら並べ続けなければならない人生というのは、とても空虚で苦しいものなんじゃないか

~東京都同情塔入居条件
また、日本に三度も訪れている三流ジャーナリスト、マックス・クラインは言う。「世界一幸せな日本の刑務所;ホモ・ミゼラビリスのユートピア」とまた「シンパシータワートーキョーが描くディストピア:日本の平等主義者が夢見る無限の未来」「行き過ぎた多様性受容、平等思想のなれの果て」と記事の紹介をしている。

東京都同情塔を訪れたマックスは、受付で美青年タクトに様々な質問を投げかける。東京都同情塔に住むためには、~"日本国籍を取得して、かつ同情に値すると認められれば~罪を犯さざるを得ないほど不憫な生い立ちなら、誰にでも同情テストがうけられる。"~"ここでは、みんな平等ですから~ホモ・ミゼラビリスは幸せにならなければいけません。塔内のルールとして他者との比較はタブーです。"

日本語とは、日本人とは、
マックスは、なおも~"君達日本人とは、いくら言葉を尽くしても言葉の先にいくことができないからだ。・・・・口にされる言葉以上のことを、君たちが沈黙と中立的な微笑みの向こう側で考えているのはわかる。そのことが私をどうしようもなく苛立たせる。
・・・・・ゆるキャラの着ぐるみみたいに沈黙と中立的な微笑みを着込んで、本音と建て前、ウチとソトを使い分ける、器用で嘘吐きで綺麗なチューリップだ。綺麗な嘘をつくのに慣れすぎて嘘をついてる自覚さえない。いや、君たちは厳密には嘘をついてすらいないんだ。私はこう思う。君たちの使う言葉そのものが、最初から最後まで嘘をつくためにに積み上げてきた言葉なんじゃないのか?"・・・・

どうしてシンパシータワー東京<東京都同情塔>を建設することが決められたのか。

設計者牧名沙羅は、東京都同情塔を建設したことを後悔している。
・・・・"自分自身がこころから同意していないプロジェクトに協力するべきでなかった。・・・
私は人類の平和にも人間の尊厳にも興味はなかった。・・
しかし、私はその仕事を他の誰にも譲りたくなかった。・・・自分の心を言葉で騙していたことが、すべての間違いの根本的な原因だ。
・・・・いつか私が再び建築をする日が来るとしたら、それは百パーセント牧名沙羅の出費による建築、百パーセント牧名沙羅由来の意志による建築でなくてはならない。"

ザハ・ハディドは、新国立競技場設計コンペで最優秀賞に選ばれたが、建築費が高すぎてボツとなった。
牧名沙羅は、こころから同意してなかった東京都同情塔を建てたことを後悔している。

3年後はこうなっただろうステージ
東京同情塔は、満室となり今や入居申込者(ホモ・ミゼラビリス、同情されるべき人々)が、ウナギ登りに増加して入居申し込み待機施設が建てられた。
そして世界でもより安全安心で治安の良い東京は、最も危険な都市と化していった。
建築家牧名沙羅は、東京都同情塔を退去(罪を悔い改め改心して幸せになった)し更生して社会復帰をする退去者のための東京都復帰塔の建設に携わっている。

東京都復帰塔


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