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関心領域・・・<シネマガイド>

第2次大戦中、ナチス親衛隊が,ポーランドのアウシュビッツに強制収容所を作った。塀を隔てた屋敷に住む収容所の所長とその家族の暮らしを描いた映画である。


空は,青く晴れ渡り、近くの川縁で楽しそうに家族連れが水遊びしたり泳いだりしているきわめてゆったりとした風景。
所長ヘスには、妻ヘートゥ”ィッヒと男2人、女2人と赤ちゃんの5人の子どもの7人家族と犬そして使用人。
アウシュビッツの中では、なにが行なわれているかあたかも感知してない幸せな生活、子どもたちの騒ぐ声、赤ん坊の泣き声、犬の吠えてじゃれてる日々の風景。そんな空気の中にあって微かではあるがくぐもって神経に重くのしかかってくるような音が間断なく聞こえている。よく耳をそばだてないと気がつかないがこの官舎で生活している人たちには、それとなくわかってはいるが不可思議なBGMとなっていた。
窓から見える壁の向こうには大きな建物から黒い煙が上がっている。昼夜となく怒号、悲鳴、銃声が漏れ聞こえる。


映像には特別なトラブルも事件も描かれることなく説明や解説もなく淡々と
自然や生活が存在しているのみである。
ホロコーストとは、何が行なわれていたか観客の事前知識を念頭において制作されたと思える映画である。
そんな中、妻ヘートゥ”ィッヒの母が、引っ越してくる。しかし、何が行なわれているか解らないが,銃声や火葬場の音、煙などに耐えきれずに家を出て行ってしまう。また、赤ん坊が泣き止まない。ずーと泣き続けている。
その反面、ヘートゥ”ィッヒは,ユダヤ人から取り上げた立派な毛皮のコートを着て鏡の前でおしゃれしている。


ユダヤ人に対する過酷な生活環境、残虐な暴力、大量射殺とエスカレートしついに毒ガスによる窒息死へと収容所が新しく変わっていく。
所長のヘスに転属の命令が下る。妻に子どもたちと一緒に転居を持ち出すが妻はここに残りたいと拒否する。
ヘスは,単身赴任せざるを得ない。彼は、妻に毒ガスによる窒息死の話をしながら気分が悪くなり吐く。
パーテイーの席で上司に妻が転居を拒み単身で赴任するとにしたと嘆くとそれを聞いた上司は、転属を取りやめてくれる。ヘスに家族と共に暮らす生活が戻ってくる。
清掃人たちは、収容所で毒ガスで窒息したユダヤ人の靴や杖、帽子などの遺品が展示されているショーウインドーのガラスを無表情で拭いている。

説明のナレーションまなく淡々と描かれるヘスの家族の生活とヘスの執務室での電話のやりとりが前半の大部分。何を言うとしてるのか解らないまま映像は流れた。となりの観客は,ついにポップコーンを食べ始めた。後半は,転属を妻に伝え、妻は転居を拒む。そして最後にユダヤ人の遺品が山のように積まれている展示ショーウィンドー。
どうしてホロコーストのような人種差別による非人道的なことが起きたのか。ホロコーストの根底には反ユダヤ主義~ユダヤ人に対する憎悪や偏見のことでナチスの思想の基本的教義~とある。


戦争とは違う。一民族を宗教上の理由(?)か人種差別により人間の血が通わなくなった為政者の命令に従って業務を遂行した収容所長とその部下たちは残虐なこととわかりつつもそうせざるを得なかった。
それでも、青空の下で水遊びをしている家族たちのあたかも平穏に見える生活があったのだとしか思えなかった。
<関心領域>
イギリス、ポーランド、アメリカ合作
監督:ジョナサン・グレイザー 
出演者
ヘス:クリスティアン・フリーデル
ヘートゥ”ィッヒ:サンドラ・ヒュラー
第76回カンヌ国際映画祭にてグランプリ賞等を、第96回アカデミー賞国際長編映画賞・音響賞を受賞した。また、ゴールデングローブ賞等にノミネートされた。


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