生の手触り 洲之内徹『帰りたい風景』

洲之内徹の『帰りたい風景』を読んだ。内容はこれまでのシリーズと変わらず画商の著者が絵を中心に思うがままに語る。

読んでいて感じたのは、私の体験したことのないものの手触りについて語ってくれているということだった。
例えば拳銃。戦争や軍隊にも関わっていた作者は自分の持っていた拳銃の話や、発砲した話などをこともなげにする。例えば絵画、もちろん私も見たことはさんざんあるけど、作者は売り物でもあるし、時には洗うこともある。例えば死。65歳を超えたくらいの本であるから、時に死についても私よりも近いものとして語ってくれる。そんなもしかしたら触れるかもしれないけどなかなか触れないものの手触りを語ってくれる本だと思った。

現実世界を生きていても、手触りを感じることを忘れてしまうことがよくあるように思う。例えば綺麗な景色やおしゃれなカフェ。ついつい写真に撮ることとかを考えてしまい、実際その場にいるありがたみを味わうことなく消化してしまう。我が身も得難い経験をしている瞬間はあるのだと思って生きていきたいなと思った。

美術品の話をすると、藤牧義夫の隅田川両岸絵巻は、実物を東京都現代美術館でみて感激した作品だったので、この本に出てきて興奮した。16メートルにも及ぶ絵巻は、単純につながっている景色を描くのではなく、見ていくと段々と絵の奥に進んでいくような感じがする、緻密で不思議な絵画だった。

その他にも、絵を求めて様々なところにいく作者の文章に、ぞうの国行くときに行った鶴舞や、雨の中旅行した小諸などが登場した。旅をすることでディティールが埋まっていくのも素敵な経験だったと思う。

何冊よんでも少し幸せな気分になるシリーズだと思う。それでは。

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