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相見積情熱物語

 日本には数多くの緊急水道業者がある。

 お客様の中にはいかに優良なサービスを如何に安く依頼するかという点で競合企業を複数社呼んで相見積もりをかけるという選択を取られる人もいる。
 今回はそんな相見積もりの現場の話。

 梅雨時期の昼間。
 神奈川県某所に水栓器具の水漏れで臨場した時の事。該当住所に到着すると家の前に3台の軽バンが止められていた。

 「こりゃあ嫌な予感しかしないな…。」

 軽バンの中には競合他社のマグネットが付いたものもあり、確実にこれは相見積もりの真っ只中だという事が安易に想像出来た。それも他社スタッフと顔を合わせるタイプ。

 可能な限り一番最後に対応したい(これまでの流れを最も把握できるかつ要望を最大限に汲み取れる為)私はお伝えしてある到着予定時間ギリギリまで外で待機していた。

 しかし他社スタッフは出てこない…。

 「行くしかないか…。」

 競合ひしめき合う戦場へと踏み込む決心を固め、いざ呼び鈴を押す。
 
奥様「はぁーい!間に合って良かったぁ。皆さんお待ちなんでこちらへどーぞ。」

 奥様はブランド物のパンツスタイルでハキハキと物を言う第一線で仕事をこなされている印象の方だった。
 先ずは水漏れ現場の洗面台に通される。

 奥様「料金と出来る対応が出たら応接室へ来て下さい。」
 言われるがまま、適合器具と複数パターンの対応策、それぞれの料金を出して応接室へ向かった。
 
 応接室には3人の他社のスタッフがお茶を飲み待機していた。
 その場に笑いは一切ない。

奥様「もう一人いらっしゃったけど帰って行きました。あそこの会社を呼ぶ事は二度とないわね。友達にもそう伝えるわ。」

 ここに退路など無い事は理解出来た…。
 あとは他社がどんな案と金額を提示するか…。

A社:・洗面台水栓器具の交換
   料金¥100,000 (実際とは異なります。)

B社:・洗面台水栓器具の交換
  ・料金的にA社に及ばず。辞退希望。

C社:・洗面台の交換 ¥230,000(実際とは異なります。)
  ・洗面台水栓器具の交換 ¥95,000(実際とは異なります。)

 
 到着順に提示を促されるまま、A社B社C社は内容を提示して行った。
 「あ。これ。勝てる…。」
 直感的に判断した。
 何故ならば彼らから「絶対この仕事取ってやる!」という情熱がC社の人以外からは感じられなかったから。

菊池:・洗面台の交換 ¥230,000(実際とは異なります。)
  ・水栓器具の交換¥98,000(実際とは異なります。)
  ・風呂場水栓器具の交換¥85,000(実際とは異なります。)
  ・洗面台交換若しくは水栓器具交換と合わせて風呂場の水栓器具も交換して頂ける様であればトータル額から特別値引き -¥25,000 致します。
 ※ソファーから降りて奥様の前に正座し、画像とカタログをお見せしながら提示。

奥様「菊池さん。風呂は依頼してないわよ。」

菊池「はい。洗面台を見せて頂いた際にたまたま後ろの浴室が目に入りました。床は乾いているのに水栓器具とシャワーの付け根辺りから一筋の水痕が排水の方に流れているのに気付いたので。」
 「洗面台とお風呂の水栓器具。同年代に設置された物ですよね?」

奥様「家を建てた時のままだからそうね…。」

 結論としてこの日の相見積もりを制したのは私だ。
 洗面台水栓器具&浴室水栓器具&更に洗濯水栓も依頼して頂く運びとなった。

 他社の3人がぞろぞろ帰れられているのを横目に見ながら作業説明に当たる。
 
 交換器具を取りに一度軽バンに向かうと、A社とC社の人が何やら立ち話をしていた。
 少し気まずくはあったがペコっと会釈をして荷台を開く。

A社「イーライフさん!」

私「はいっ!!」

A社「イーライフさん新人さんでしょ。」

私「あ。はい…。」

A社「なんか見てて初々しくて凄く良かったよ。稼働始めた頃の事思い出しちゃってさ。」

C社「いや。本当ですよ。全然あの中にもう一声で割って入れたけどイーライフさんの必死感が伝わって躊躇しちゃいました。笑  出来ればお互いもう二度と会いたくないでしょうけど頑張って下さいね。俺もそこそこ頑張りますから 笑」


 他社の人とこうやって言葉を交わすのは初めてだった。必死感剥き出しで契約を取りに行ってる事を突っ込まれて少し頬が赤くなったが一言お礼を告げて直ぐに現場に戻った。

 作業を終了して、お会計が済む。

奥様「正直あの場でC社と菊池さんを更に競り合わせる事も出来たじゃない?でもそれをせず何故菊池さんに決めたと思う?」

菊池「分かりません…。」

奥様「あまりに必死で可愛かったからよ!!笑」
 「営業の仕事を始めた頃の自分を重ねちゃった!笑」
 「頑張ってね!!!!今のあなた凄く素敵よ!」

菊池「ありがとうございます。」

 またもや頬を赤らめ、お礼を告げて現場を後にした。

 1日のうちに。それも同じ現場で2度も "必死感" を指摘されるという事は余程だったのだろう。
 
 個人的には必死じゃない大人なんていないとは思っている。しかし言われた通り毎日毎現場本当に不器用ながらも必死だった。



 飯を食う為。生活の為。ボクシングを取り戻す為。


 幸い今。毎日ボクシングと向き合う生活を送れている。
 しかしこの頃。競技を離れ、朝から晩までかっこつかん程に必死に水道屋として現場と向き合った日々を忘れてはいけないな…。
 なんて事を今日考えていたので今回はこの話を投稿しました。

 
 日々の環境。支えて下さる人や組織。そして毎日切磋琢磨する仲間に。

感謝。 


菊池真琴

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