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21話: 180度既成概念を変えたリッカムプログラム

おはようございます。ニッチな吃音の話題を提供する医師の菊池です。

〇〇プログラムという名前だと、〇〇さんという開発者の名前を想像するかもしれませんが、リッカムはオーストラリアのシドニーにある地区の名前です。下記の地図でリッドカムと書いているのは、Lidcombeなのですが、dを発音しないので、リッカムとしています。

下記、地図で、オーストラリア吃音研究センター(Australian Stuttering Research Centre, University of Sydney, Lidcombe, NSW2141, Australia)の場所がリッカム地区にあるので、名称の理由は分かります。

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このリッカムプログラムの名前を有名にした研究は、2005年のJonesらが27名のリッカムプログラム群と20名の対照群の無作為比較試験の結果が出たことにあります。下記にグラフを紹介します。

Jones M, Onslow M, et al. Randomised controlled trial of the Lidcombe programme of early stuttering intervention. BMJ. 2005 Sep 24;331(7518):659.

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対照群とは、治療をせずに経過を見ていた子たちです。
治療前は同じ程度の目立つ吃音がありました。しかし、9ヶ月後には対照群と比べてリッカムプログラム群は有意に吃音頻度が減少して効果のあるエビデンスを発表されました。オーストラリアだけではなく、アメリカ、カナダ、デンマーク、ドイツ、オランダ、ニュージーランドなどでもこの行動療法を行われています。日本でも2015年頃から、年に1回オーストラリアから講師の先生を読んで3日間の研修を開始していますが、現在、新型コロナの関係で研修を開かれていません。

この行動療法のリッカムプログラムは何がすごいか!というと、吃音界のタブーを打ち破ったことにあります。
2000年までは幼児吃音は意識させることが悪化、真の吃音になる(診断起因説)と思われていて、絶対意識させない=吃音治療と考えられていました。
その考えを180度変えて、別に吃音を意識させても悪いことが起こらないことが証明され、逆に吃音を軽減することを証明したことにあります。さらに、意識させない→吃音の話題をオープンにするようになりました。

では、具体的にどういう行動療法なのかは、子どもが「吃音がない発話」の場合は3種類の声掛け(言語随伴刺激)、「明らかな吃音」の場合は2種類の声掛け(言語随伴刺激)をします。

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5,6歳の子にこのような声掛けして、逆に吃音が増えないか、心配されると思います。明らかな吃音に対して声掛け(言語随伴刺激)を多く使うと逆効果とも言われていますので。このリッカムプログラムを行う場合は、研修を受けた言語聴覚士と一緒に始めないといけないことになっています。

吃音のある子、すべてにリッカムプログラムをした方がいいとは思っていません。吃音の原因としては、8割は体質(遺伝子)であり、自然経過で治らない吃音児がこのプログラムをすることにより治る確率が上がるデータは出ていません

リッカムプログラムの特徴は、セラピーの中心が家庭であることです。従来の、言語療法に連れてきて、親は待合室で待って、子どもとセラピストでの関わりでリッカムプログラムができる訳ではありません

そのため、リッカムプログラムをするには、親が毎日10分親子で邪魔されない時間を確保することができ、最初の頃は週に1回の通院をする必要があります。通院時はリッカムプログラムがうまくできているかのチェックです。きょうだい児がいる場合は、忙しい親御さんの場合、毎日10分の時間の確保が困難な場合があります。

導入したけど、親御さん(特に、母親)がうまく行動療法をできずに、逆に母親の自信を失うと逆効果だと思います。今後、リッカムプログラムが広まり、あまり歴史的な背景やエビデンスを知らないセラピストが、
「お母さんが、うまく子どもとリッカムプログラムできないから、いつまでも吃音が軽減せず、治らないですね」
言われることがあってはならないことだと思います。

私は、このリッカムプログラムをするか、否かが大切ではなく、その根底にある親子で吃音をオープンに話してもいいんだよ、ということが理解されることを願います。
Jonesの上図で対照群を見ると、何もセラピーをしなくても、吃音は時間とともに軽減していくことがあるのです。

そして、幼児の吃音の相談に来る母親の悩みの背景をしっかり把握し、継続的に経過を見ていくことが大切な姿勢だと思います。

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