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ロング・グッド・バイ

奴が姿を現したのは、本当に突然のことだった。
我々は大阪旅行の1日目を終え、ホテルに辿り着き、疲れ果てた足を投げ出してそれぞれのベッドの上で携帯電話に向き合い、ゲームをしたり動画を見たりポイ活をしたりと自由な時間を過ごした。
それから買ってきたテイクアウトの晩御飯を食べ、お腹がいっぱいになったところで、私は風呂に入ってサッパリしたいと考えた。
スーツケースを開け、子どもたちの明日の着替えと下着を分け、私自身の衣類に手を伸ばした瞬間。
私は、自分の茶色のババシャツの上に、さらに濃い色の茶色の物体が乗っていることに気づいた。ゴミ?いや、違う。プリプリとしている。なんなら生きている。奴だ。おい、なぜ奴がここにいる?大阪に?そんなバカな。田舎の象徴とも言える奴が、なぜこの大都会大阪にいるのだ?私は混乱しながらも大声を出した。
「いやあああああ!!!!!」
その叫び声を聞いた子どもたちは、寝転がっていた体を素早く起こし、臨戦体制を整えた。
「どうしたの、ママ!?」
「こっちに来るんじゃない!!これはお母さん一人で十分だ!!!」
「もしかして……」
「言うな!!!!それより、ティッシュをよこせ!!!」
長男が状況を察し、竣敏な動きでティッシュパスをする。私はノールックで十数枚のティッシュを引き出し、奴を捕獲。床に転がっていたビニール袋を掴み取り、中にそれをぶち込んだ。
「ママ……」
子どもたちが戦慄するのを背に、私は捕獲したものを処分するため、ゴミ箱に向かった。
「俺、昨日の夜、ブンブン飛んでるのを聞いたんだ。スーツケースが空いていたから、きっとその中に入って……」
「やめて!!!!聞きたくない!!!!!」
長男の告白を遮る次男。地獄である。
カ◯ムシとのドライブウェイ。
ロング・グッド・バイーーーーーー。


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