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ネタバレいっぱい海神再読第五回 一章3.尚隆の治世の才について

あらすじ:朱衡・帷湍が側近となった経緯、王としての尚隆の才について語り合う。

●雁の気候について

雁の季節は風にもたらされるらしい。
夏は西の内海黒海から吹く冷たい風で涼しく、冬は北東の虚海の戴国から来る乾いた冷たい風で寒く、間の秋が作物の生育に適した気候らしい。いまは夏の終わりで秋の始め。秋の終わりに一月ほどの雨期が来る…
気候設定の創り込みが素晴らしい。海神は時間が入り組んでるけど、作中の「いま」は秋の始めから終わり、すなわち雨期の始まりに向かって突き進んでいくんだよね。
雨期の始まりは治水の締切でもある。このスピード感、好きだ。

●帷湍=猪突

帷湍は梟王のころからのベテラン官吏

尚隆との馴初め:即位間もない尚隆に、関弓で八年間に死んだ民の戸籍を投げつけた。

動機①尚隆に、麒麟が王を選べる年になってすぐ昇山してたらこの民は死ななくて済んだ、と突きつけたかった。
尚隆は胎果で昇山無理だったんだけどね。帷湍自身も八つ当たりかもしれないと言っている。

動機②新王に雁の窮状を知ってほしかった。
王が即位しても既に失われた民は戻らないのに、浮かれてる官や新王が恨めしくて、無礼に怒った新王に討たれることで新王朝の浮かれ気分の連中の胸に落ちる不快な石になりたかった…と言うけれど、最初からケチをつけることだよね。気弱なタイプだったらかえって王朝が縮まりかねない。なのに何故?

動機③帷湍は『梟王の圧政を、王に背かず、王の不興も買わぬよう、かといって良心に悖ることもないよう、綱渡りをするような気分で生き延びてきた』
これは処刑される民の命より保身を選んで放置したってことじゃない?それで気が咎めるのを自己犠牲で解消しようとしたんではないか、とこれは私の想像ですけどもそうなんじゃないかと。
…『』内を処刑される民が聞いたら、所詮役人とか言いそうだと思って…

●朱衡=無謀

朱衡は尚隆即位の時点で官になったばかり、梟王は知らない世代(尚隆と同い年くらい?)

尚隆との馴初め:尚隆の登極三日目、巡視の際に
『諡は用意してある。興王と滅王がそれだ。あなたは雁を興す王になるか、滅ぼす王になるであろう。そのどちらが、お好みか』と聞いた。

動機:帷湍と変わりないとのこと。ただ梟王没後の生まれだから負い目をかえす意識はないかな。
帷湍は過去のことを尚隆に伝えたけど、朱衡は未来のことを問いかけたんだよね。

●尚隆の治世の才

①帷湍には戸籍を拾って目を通しておくと答え、猪突と字を与えて側近にした。朱衡にはどちらも気に入らないからもっといいのを考えろといい、無謀と字を与えて側近にした。
二人にちゃんと答えてるんだよね。尚隆は問いかけに答えようとする時にはきちんと答えられる人。答えることで敵を味方にしていく…って八章の補助線をここから引いてたのかー!

②玄英宮の金銀宝玉と御物を売り払った。
大胆かつ質素で合理的…ただ尚隆の過去を思うと贅沢な環境が嫌だった、てのもあるかも。

③奸臣を放置し油断させた。朝廷内の争いを避けて国土を富ますことを優先し、横領された富は後で取り返せばいいと割り切った。

全体として大胆で合理的かつ実質的。ちゃんと国のことを考えてる。だから一見不可解な治水の放置も、きっと民のためなんだろうと読者は思っちゃうんだよね。

朱衡によれば、尚隆は諸官及び各州の州侯の入れ替えに取り掛かろうとしているとのこと。
てことは州の実情に手が入るということで…斡由が動いた(動かざるを得なかった)事情も描かれてるんだな。

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