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ネタバレいっぱい海神再読第三十回 六章4. 小松尚隆は何故民のために犠牲になろうとしたのか

七章の前にこれがくるのだ。斡由の暗黒面暴露の前に尚隆の過去が〜。どんどんどん。

あらすじ:二十年前、小松。圧倒的な敵に包囲された海賊城。不安がる民を安心させる尚隆。しかし六太には絶望的状況を語る。
籠城三日目、尚隆は臣下に民を逃がすために出撃すると告げる。
尚隆だけは逃げられるように民を囮に使おうという老爺を怒鳴りつける尚隆。しかし敵は強く、民を守る臣下も民も倒れ、小松氏は滅亡した。

●優しい嘘

尚隆)まかせておけ。なんとかしてやる

とか言っちゃったんだ尚隆。あとで重荷になるようなことを…
この時点で尚隆には解ってた、勝ち目はなく生き延びることさえまず出来ないってことを。なのに民の望む安心させる台詞を言うのは、尚隆の優しさであり、勁さであり、…弱さでもあるのかも。
尚隆は民に過酷な現実を突きつけて苦しめるのがいやだったんだね。民に現実を見せない…眼を瞑らせ耳を塞がせる優しさ…
六太にだけは現実を語ったのは、小松の民ではなかったから? 二章3で眼を瞑らせようとしたのは雁の民だから?民扱い=眼を瞑らせる???

●過酷な現実

城下は完全に押さえられ、退路も補給もない。
兵糧も足りない。
投降すると言っても受け入れられない。
…これってかなり父のせいなんだよね。兵糧を陸から運ばせることにしてたのに後背に注意してなかった戦への疎さ。なのに開戦前に村上傘下に入らなかった矜持の高さ。尚隆の妻子も逃してやらなかった。
その父と妻子も死に、明かされる衝撃の事実。子の父は尚隆の父だった!尚隆、淡々としてるけどこれって普通の戦国物なら充分内乱の理由になることだよ。尚隆が怒ってなくても、私は怒る。尚隆にも。
尚隆はいろんなことを諦めてる人に見える。他人よりずっと先の見通せる人なのに…
「悔いはない」と言って「本当に?」と六太に聞かれて、一瞬の間だけ笑みを引いたとことかね…「諦めてんじゃないよ!」て肩をぽかぽか叩きたくなるよ…。

●父と妻子

父で不思議なのはあれだけ進言を聞かず、妻を奪い、危険な前線に送っておいて、尚隆と連歌などやろうとしてた事。
尚隆も事実としては色々言ったけど憎んでる感じじゃない。なんだろうこの腰の引けた馴れ合いぶり。やはり尚隆が祖父の子だった、てな裏設定を想像してしまう。
妻は大内氏から同盟の為に嫁いできた人だけど、大内は小松を助けてくれなかった。彼女も見捨てられた人なんだ。
尚隆はこの家族をどう思ってたのか。阻害されながらも自分が折れて波風立てずやり過ごしてた…でも、もし彼が家族を生かそうとするなら、なんとしても父を動かすか、父に取って代わらなきゃならなかった。それをしなかったところになんとも屈折したものを感じる。消極的な敵意くらいはあったと思う。尚隆も人間だから。

●小松尚隆は何故民のために犠牲になろうとしたのか

尚隆)ーふざけるな!

民を囮にして逃げろと言った老爺を怒鳴りつける尚隆。斡由とも共通する台詞。尚隆にとっての白沢があの老爺だったのかな。

尚隆)若、と呼ばれる意味をわからないでいられるほど俺は莫迦ではない
尚隆)俺がいつか主になるから俺を立ててくれたのだ
尚隆)お前たちもそうではないのか。のちの世の平穏を願うから、俺を立ててくれたのではなかったか

…尚隆、自己評価低っ。
それはあの父の影響と、も一つ、五章4のせいかも。
五章4で尚隆は開戦前から今の苦境を全て読んでいた。読みと違ってたのは、その時の領主が父でなく尚隆なことくらいだろう。進言して受け入れられず、肚を括って父に従ってしまったあの時、もし父から実権を奪って自分の考え通りに国を動かしていたらと考えはしなかったろうか?今の苦境を見てはひたすら自分を責めてたんじゃないか?
ここの尚隆はとてもカッコいい。

尚隆)民を殺されるは身体を刳られることだ。首を失くすよりそれのほうが余程痛い

しかし五章4ではその民の安全より父に従う事を選んだ。そのことをおくびにも出さなかったのは…出してもしょうがないてのもあるけど…尚隆の弱さだと思う。
尚隆のこと、けして嫌いじゃないんですよ。ただ人間だと思う。蔑ろにされたら傷つくし、苦しみに捕われたら弱くもなる。そう考えないと尚隆という人が解らない、と思う。
小松最後の戦は尚隆にとっては自分の失敗だったと思う。開戦前ならうてる手もあったのにうたず、民も臣下も守れずに自分一人生き延びた。
海神は尚隆がいかに自分の失敗に向き合い、自分の中で決着をつけるか、て話だと思うのです。

●六章4と八章2

最後の戦の前日、尚隆が小松の民と家臣にしてやれることはまだ一つ残ってた。尚隆は気づかず、よって試みず、うまくいったかも解らない。でもまだ一つあって、尚隆はそのことに八章2で気付いたと思う。
六章4と八章2は鏡像の様な関係だ。

尚隆)この首一つで、どれだけの民を購えるか、やってみよう

自分の首で民を購うとはどういうことか、なぜ自分が購えなかったのか、尚隆は八章2で、多分、悟った。
私も、六章4がなければ八章2の尚隆も、斡由も理解できなかったろう。
そうなんだよ、過去の大きな失敗に向き合い、決着をつけなきゃならなかったのは斡由も一緒。
では斡由の過去の大きな失敗とはなんなのか、で、次、七章に行きます!

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