日記"は"

今日は散歩に出た。知らない場所を求めて。
坂を登って行った。そのうち帰る道が少ないことに気づいて、途中で細い路地を見つけたので迷いを持ちつつその道へ入って行った。
 一抹の不安は、その道が行き止まりでないかということだった。極度の被害妄想気味なのがそうさせているのであった。しかし、その先には住宅地が続いていた。平均年齢も高そうで、壁が朽ちたり塗装が剥げたりした住み心地の悪そうな住宅地だった。高齢者のテレビの大音量が漏れることすらなかった。それ程人が少ないようで、静寂を静かに蝉が殺していた。テレビの砂嵐のような音だった。知らない蝉の音だった。坂を下り、右へ曲がり、左へ曲がり、曲がりつつ下り、そんなことを繰り返していた。世界が朽ちていく、滅んでいく被害妄想に囚われ、私が死んだら世界も滅べばいいと、そう思った。そうすると、目に映るものは変わった。そして、途中猫に会った。普段動物嫌いの私は注意深く横を通り過ぎるのだが、今日は手を振ってみた。人に見られたくないあまりに、ほとんど手は上がっていなかったが。ずっと前に思い付いた一節、一文。使い所のない一文。それの使命を、悟った。この紀行文を締め括るため存在していたのだ。
「なんだ、世界なんて、全部、全部全部! 私の模倣じゃあないか……」
そこまで書いて、それを頭にしまう。いろはすの最後の一口を飲み干し、呟いた。「はあ、下り過ぎた…」きつい坂を見上げ、ため息をついた。

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