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きっかけ 〜 カンパニー 青柳誠二の珠城りょう

2018年 月組公演『カンパニー/BADDY』⠀

この二本立てで、私は珠城さんに堕ちた。⠀

あまりに衝撃で、堕ちた事にも何日か気付いていなかったみたい。
ただただ、その日から「珠城りょう」という人が頭から離れなくなってしまった。⠀


もともと母の影響で幼少期から宝塚に馴染みのあった私は、特に深く考えるでもなく、そしてライトに、ゆるく長く宝塚が好きだった。
ブロマイドやDVDを買うような「好き」「御贔屓」と言えるジェンヌさんとの出逢いも、時々。⠀

宝塚から離れてしまった時期もあったけれど、
全組そこそこ満遍なく、大劇場公演を観劇して、同じく宝塚好きの妹や母と感想を言い合い、満足していた。⠀

珠城さんが月組の新トップに就任された頃、自身の出産や育児でちょうど宝塚から脚が遠のいていた。
当時好きだった宙組の朝夏まなとさんが退団してしまうと、いよいよ宝塚を観なくなった。⠀

なのに何故。
どうして。その画像を見つけたのだろうか?
(経緯は全く覚えていない)⠀

清く正しく美しい宝塚大劇場の大階段で、真っ白な衣装と大羽根に身を包み、ティアドロップのサングラス。
あろうことか、手には煙草。
『おらァッ』とばかりに威嚇している珠城りょうの画像を。⠀

とにかく私は、急ぎ妹にLINEした。
なんだか月組がすごい事になってる
『観たい』⠀

『観よう』とすぐに返事が来た。⠀

その時点ですでに月組は東京公演を半分過ぎた頃だったが、幸いチケットを譲ってくださる方がいて、本当に有り難かった。⠀

ところで芝居はなんだったか。
サングラスの珠城りょうは、ショーのようだが。
ポスターを見る限りでは芝居もなかなかトンチキそう。

サラリーマン風の珠城りょう。その後ろにバレリーナ姿の愛希れいかと、悪魔のようなコスチュームの美弥るりか。⠀

タイトルも長い。⠀

『カンパニー -努力(レッスン)、情熱( パッション)、そして仲間たち(カンパニー)-』 ⠀

なんの話なのか、皆目見当もつかない。(※原作未読、下調べゼロの人が件のポスターを見た感想です)⠀

(寝てしまうかもしれない…)
一抹の失礼な不安がよぎる。⠀

ともかく今日は、サングラスで咥えタバコで大階段に立つ珠城りょう様をひと目見る為だけに8800円(※2017年当時)払ったのだ。
この時点での『カンパニー』への期待値はゼロであった。
今となっては土下座して謝り倒したい。⠀

一幕が始まり、ほどなくして珠城さんが登場すると私は不思議な気持ちになった。⠀

「珠城さんってこんな方だった?」⠀

はて。では自分の知っている珠城りょうの記憶とは。⠀

PUCKのボビー。
1789のロベスピエール。
それから…最後に観たのは、龍さんの退団公演の時の、謎の南蛮人ロルテス。⠀

そのどれも、今オペラ越しに観ている、甘く柔らかな中低音で歌う、優しい顔のこの人とは重ならない。
(後々、この方のカメレオン俳優っぷりに舌を巻く事になるのだが)⠀

…それに、なんだろう。歌もセリフもめちゃくちゃ聞き取りやすいな。
珠城さんだけじゃない。久しぶりでお顔のわからない生徒さんも多いのに、月組全体がすごく観やすいし、聞きやすい。
単に滑舌の問題だけではない気がする。
芝居が良い。⠀

バレリーナ役のちゃぴちゃんには相変わらずパッと華とオーラがあるし、かつて「可愛い可愛い」とオペラで追っていた美弥さんも(こちらもバレエダンサーの役)、今や熟練男役の風格と色気が漂っている。⠀

個性豊かな月組生達があちらそちらで粒立って光っているのに、不思議と散らかった印象はなく、ひとつの方向へ矢印が向かっている。
そこへ来て、この珠城りょうの圧倒的安定感と主役感。
新生月組、もしかして、いやものすごく
良くない?⠀

芝居後半に『努力、情熱、仲間。僕に生きる勇気を与えてくれたのは、カンパニーなんです』という台詞がある。⠀

なるほど。そこからあのサブタイトルへ繋がるのか。
珠城さん率いる月組にもピタリとハマる、納得のタイトルだ。(長いなんて言ってすみません)⠀

珠城さん演じる、主人公の青柳は
「気は優しくて力持ち」だけではない、なんでしょう…
妙齢女の「好き」を全部詰め込んだみたいなサラリーマン。(言い方)⠀

気付けば私も(ちゃぴちゃん演じる)美波ちゃん越しに青柳さんが気になって、もどかしさにモダモダしてしまう。⠀

一生懸命で、誰の話も大真面目に聞き、クルクルと素直に変わる表情はどこか可愛らしく。
しっかりしてるのに隙があって
カッコいいのにちょっとダサくて⠀

硬派なのに、ふと、元妻帯者の余裕と色気が漂って…その大きな身体と懐にどうしようもなく飛び込んでしまいたくなる。⠀

珠城さんといえば、普段はダイナミックで運動神経良さそうなダンスが見ていて気持ちいいほどですが
青柳さんの、無理して体を痛めて『イテテッ』ってやる動作とか、オジサンの脚上げの限界感とかも絶妙。笑
研究されたのだろうなぁ。⠀

そしてクライマックス、
出番を前に緊張に震える美波ちゃんを、居ても立っても居られず、グッと腕の中に閉じ込める青柳さん……⠀

キスもない。歯の浮く甘いセリフもない。

ただ一度の抱擁で、私はまるで美波ちゃんと共に青柳さんの体温に包み込まれてしまったのだ。

その衝撃たるや。⠀

ずっと、宝塚のラブシーンって、対岸から美しいものを眺めるようにリアリティがないものだと思っていたんです。
美しい絵画を、はぁ〜素敵。って見るように。⠀

なんてことだ。
珠城りょうはリアルすぎる。まずいぞ。
これはまずい。⠀

さらに幕間で余韻に浸りながら、私はとんでもない事に気付いてしまう。
夢中で青柳さんを追い続けてしまったけど…⠀

この役、
どう考えても宝塚のトップスターがやる役じゃないよね…!?⠀

主役が誰よりも「普通」に存在してないといけないような役。そうでなければ芝居のバランスが崩れてしまうような話。⠀

だけどここは宝塚。
トップが一番目立つのが当たり前。
私がもしトップさんだったら、絶対この役やりたくない。
個性豊かな脇役に、食われてしまうもの。⠀

久しぶりの宝塚で、なんの話かも知らずにやってきた月組で、ただ「この人を見ていれば良い」という謎の安心感。⠀
珠城さんの真ん中オーラだけで、トップスター演じる「普通のサラリーマン」から、ずっと目が離せなかったのか。⠀

なんて求心力。
今までどうして気がつかなかったんだろう。⠀

『珠城りょうさんって
 めちゃくちゃすごいじゃないか!』


⠀きっかけ〜『カンパニー -努力(レッスン)、情熱( パッション)、そして仲間たち(カンパニー)-』 感想 完⠀


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