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BADDY 宇宙一大悪党の珠城りょう

映画でも本でも、期待値が高すぎると
いざ蓋を開けたらそうでもなかったなってこと、あるじゃないですか。

でもこれから話すのは、パンッパンに期待して行ったら、期待の500000000倍良かった伝説的ショーのお話。


2018年 月組
『BADDY ─悪党(ヤツ)は月からやってくる─ 』

青柳さん…、どこに行けば会えるの青柳さん…
なんて一幕の余韻も、客席に戻って吹っ飛んだ。
目の前に広がる月面………の、幕。

そうだった。
今日はむしろ、こちらを目的に来たんじゃないか。
サングラスで煙草スパスパしてる珠城りょう様に『オラァッ』される為に…

えっ
ほんとにやるの?今からそれを?

『今夜は月がきれいですね』と照れながら言った、あの青柳さんが?

『月がきれいだなんてとんでもない!』

二幕が始まるやいなや
組長(憧花ゆりのさん※当時)が、一幕の感動的な台詞をぶった切ってしまう。

舞台は未来の地球。その首都TAKARAZUKA-CITY。
とても平和で、103年間もの間「悪い」ことは何ひとつ起きていないらしい。

地球の平和を守っているのはグッディ捜査官(愛希れいか) を中心とするパトロール隊。
テロ、戦争、絶対ダメ。
喧嘩ダメ。飲酒ダメ。喫煙ダメ。
目標は『天国へ行くこと〜♪』らしい。

トンチキ衣装の月組生たちが、全身全霊の茶番劇を繰り広げる間にも、背景の月は「ポンっ」とマヌケな音を立てて煙は出るし、ロケットらしき物体が飛んで行くし、音楽はどんどん盛り上がって行くしで冒頭から「来るぞ来るぞ」感がすごい。

来るの?来るの?来るの?
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ …

『みんな!ずいぶん待たせたな!ハッハー!上田久美子作・演出。BADDY 悪党は月からやってくる─10場は……とっくの昔に開演中らしいなぁ!!!』
ドカーーーーーーン(爆発音)

ええーーーーーーーーーーーーーっ

こ、これが開演挨拶。

…ノシ…、ノシ…、ノシ…
もうもうとスモークの中、着ぐるみのような宇宙服の人が登場。

初見でこれを見て、お口がポカンにならなかった人いるのだろうか。

宇宙服がおもむろにヘルメットを脱ぐと、中には珠城りょう。
宇宙服なのにサングラス。咥え煙草。
首から上のカッコ良さと、ボテボテ宇宙服のミスマッチさがちょっと可愛い。

グッディ捜査官『きっ…、禁煙ですよっ!』

いやいや、おまわりさん。そうだけど、そこじゃない(笑)

103年間ずっと平和だった人たちが、いきなりこういう目に合うとこうなるのか。
もはや警察ですら、どこから取り締まったらいいのかわからなくなってしまっている。

バッディ『天国ゥ?…』
    『冗談じゃねぇ〜っ!!!』

バアアアン!!とか。バリーーン!!とか。
漫画だったら背景にそんな文字が書かれるやつ。
勢いよく引き抜かれた宇宙服。
1ミリもブレない体幹。

「宝塚ってなんだっけ!?」というレベルの、いい男の身体が飛び出してきた。
初見でこれを見て、ギャーーーッってならなかった人いるのだろうか(再び)

『ハーッハッハッハッハ!!!』
バッディが笑っている。
トップスターが、ショーのプロローグで出てくるなり高らかに大爆笑である。

ああ。青柳さんなんていなかったのだ。
だって今、この瞬間、地球はバッディに征服されてしまったのだから。

曲調が少しポップになると、どピンクのスーツに金色の巻毛のスウィートハート様(美弥るりか)が、これまた高笑いでご登場。
セクシーが服を着て歩いている。とは美弥るりか様のことだ。
(初見でこれを見て、み…み……美弥さまぁーーーーーーってならなかった人いるのry)


珠城りょうと、美弥るりか。
これだけ何もかもが対照的なトップと二番手が、未だかつてあっただろうか。

全く違う持ち味ながら、反発するどころか強力な相乗効果を生んで、2人が絡んだ時の絵面は尊いを通り越して…なんというか、壮絶だ。

大柄で逞しくダイナミックな珠城さんと、小柄で華奢で洗練された美弥さん。

真逆の2人がピタリと息を合わせる様は、まるで漫画やアニメの世界から飛び出してきたような珠玉の相棒であり、男役同士でありながらもその体格差と性質のギャップから、時として恋人のようでもある。
(※実際スウィートハートはバッディの恋人設定)

この公演を観て、他に類を見ない 美弥 × 珠城 の関係性の虜になった者は少なくないだろう。(私もその一人)


バッディ軍団登場のオープニングから中詰めまで、ショーは単純明快、かつ目まぐるしく進む。

 - 未来の地球は首都を中心に一つの王国であり、王と妃がその全てを治めている。
2人の間には王子と王女が1人ずつ。

 バッディとその仲間達の登場により、王子は初めて見た「ワルイ」に興味を持ち、王女はバッディの部下に恋してしまう。

 国家を守る警察のトップであるグッディ捜査官は、バッディ逮捕に奔走。
そんなグッディを密かに想っているポッキー巡査は、囮捜査の途中でバッディに誘拐されてしまう。

 バッディのアジトで「ワルイ」レッスンを受けるうち、ポッキーは、とある悪の才能を開花させて…!?-

初見かつ、予備知識ゼロでも、これだけの情報が一目瞭然に分かる作りとなっている。

中詰めまで、とあえて書いたのは、中詰め以降このショーは急展開と共に、この作品の深いテーマの核に一気に迫るからだ。

『悪いことがしたい♪いい子でいたい♪』という高い中毒性を持つ曲で展開される中詰めでは、これまでに登場した「良い(平和な地球人)」と「悪い(バッディ軍団)」が入り混じって、まさしく『グルグル、グチャグチャ』だ。

キュートなルックスとは裏腹に、びっくりするほど鍛え抜かれた筋肉、骨格、長身のちゃぴちゃん(愛希れいか)。
長い脚や腕を惜しげもなくのびのびと伸ばして、シルバーの衣装で歌い踊る姿は従来のトップ娘役の枠に収まらず、さながら男役スターのようでもある。

その隣に並ぶ珠城さんが、また更にデカい。
物理的な大きさもあるけど、それだけではない。

なんというか、スケールが大きいのだ。
珠城りょうという人は。
「宇宙一の」などというフレーズがついても、その肩書きに負けないほどに。

強い × 強い トップコンビが、バチバチに火花を飛ばしながら観客へ向かう姿、パワーは、圧巻だ。
2人の間に遠慮無用の厚い信頼関係が見えるのは、本科・予科の頃から切磋琢磨してきた絆もあるのだろう。

波乱の中詰めが終わると、物語は一転。
悪に目覚めた(?)ポッキー巡査が、とんでもない悪事を働き始める。
バッディを追いかけていたはずのグッディは慌ててポッキーを追い始め、バッディの一番の理解者であったはずのスウィートハートも、バッディを責めて行ってしまう。

取り残されたバッディは、ついに、彼の本質である「悪」を覚醒させるのだ。

「国家予算」ならぬ、
「惑星予算」

つまりは、全ての地球人を脅かす大金を盗み出すという大計画に成功したバッディ軍団は、意気揚々と月へ帰って行く。

その場に居たにもかかわらず、なす術もなかったグッディ達は、生まれて初めての感情に震える。

「怒り」
「悲しみ」
「許さない!」

そして皮肉にも、これらの感情を覚えて初めて、彼女達は「生きている」事を実感し、湧き上がる思いと同時に生きる喜びを感じるのだった。
そこからの「怒りのラインダンス」は、めちゃくちゃアツイ。


場面は月のバッディのアジトへ。
莫大な金を手に入れたバッディ。
大階段にただ一人佇む彼の、後ろ姿だけで私たちは知る事になる。

まぎれもなく彼は、これまで数え切れぬ修羅場と死戦を潜り抜けてきたであろうこと。
この世で一番の「悪」の軍団の、大ボスであることを。

老若男女関わらず、そんな説得力を出せる者が一体、どれだけいるだろうか。
あんな人の良いサラリーマンを演じた直後に、誰が、宇宙で一番悪い男の貫禄と哀愁を出せるというのか。

悪の男役群舞。
そのフィナーレに大どんでん返しがあり、バッディのアジトは炎に包まれ、仲間達は散り散りになる。
そこへ単身追ってきたグッディとの、愛と怒りと葛藤のデュエットダンス。

パレードは、物語のエンディングにもなっており、オチもある。
よくよく聞いていると、一人一人に合わせた歌詞がとても深い。

これだけのストーリーがありながら、構成は宝塚のショーのプロセスにきっちり沿っているのだから、上田久美子先生には脱帽だ。

珠城りょうという人の魅力と才能を知るのにも充分すぎるほど充分な二本立て。
そりゃトップになるわ。

この時点で、「珠城さんは、柚希礼音さんのような男らしいトップさんとして歩んでいくのだろうなぁ」などと思っていた私は、まだ何もわかっちゃいなかったのだ。

彼女の本当の振り幅を。

珠城りょうが、未だかつてない
全く新しい部類のトップスターだという事を。


『BADDY ─悪党(ヤツ)は月からやってくる─ 』感想⠀完

⭐︎絶対に自分の目で見た方が楽しいし、覚醒後の珠城さんがとにかく格好いいので(そしてめちゃくちゃハード!50秒くらいで着替えて出られたり)、未見の方はぜひ観てみてくださいね!(^ ^)


次回 『アーサー王伝説』感想



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