夜咄ディセイブを語る
この曲はジン(自然の敵P)さんによって作曲されたものでカゲロウプロジェクトと呼ばれるストーリー性を持った作品群のうちの一つ、その中でもカノというキャラクターにフォーカスした曲である。
カノには目を欺く能力があり、相手から見た自分の見た目を自由自在に操ることができる。それと同じようにカゲロウプロジェクトの他のキャラクターも目に纏わる能力があり、それ自体の謎やキャラクターの過去が複雑怪奇に絡み合いストーリーが進んでいくというのがカゲロウプロジェクトやそのアニメ化作品であるメカクシティアクターズの内容である。
曲単体でもかなり良作であるがストーリーもなんとなく知っておくとより感動できるだろう。
要点としてカゲロウプロジェクトのキャラクターで目に纏わる能力を持つ者は一度死んでおり、その際に願ったことに纏わる能力を蛇の怪物から得て復活している。カノは母親からの暴力でできた傷を隠したいと願い目を欺く能力を得ているようだ。カノは本音を話すのが苦手で
という歌詞にもある通り自分の本心が他人に受け入れられるかどうか分からなくて怖いと考えている。
普段は掴みどころのない飄々とした態度でいるがそれは弱さを隠すためにそういう自分を演じているという可愛げのある嘘つきなのだ。
この曲は嘘つきのカノが自身の弱さを信じられる人に不器用に打ち明けるというようなそんな曲なんだと思う。カノのような虚飾虚勢の嘘つきにはかなり刺さる曲だろう。
という歌詞のこの部分、冗談めかして嘘っぽく本心をかたる場面だ。
素直に本心を語るのが怖いから冗談かもしれないと思わせる隙を逃げ道を用意しているのだ。よくある例だと振られるのが怖くて冗談っぽく告白してみるみたいなものだ。カノにとっては本心を告白することは一般人にとっては異性に告白するのと同じくらいハードルの高いことであると考えられる。
さて、ここまで書いたが改めて曲の全体像を紹介しよう、曲はネタ話というていでカノが誰かに愚痴を語るところから始まる。目を欺く能力を得る、それに加え人を騙すのも上手くなっていく。騙せない人がなくなり人外の力を得たことで色んな意味で怪物になりはてそれを自嘲するようなサビに入る、二番で本心を吐露しつつそれをまたちょっと誤魔化すようなフレーズが入る。本当の自分を分かって欲しいし受け入れて欲しいけれどやっぱり怖いのだろうと読み取れるような歌詞だ。そしてラストのサビでやっぱり自分は変われないしこんな自分が好きというような内容になる。
嘘が上手くなるにつれ罪悪感は消えていくが何度も繰り返した時にふと「自分は駄目なことをしているのではないか」という感覚になる、これは嘘つきが必ず通る道である。嘘が上手くなると本当を嘘っぽくかたるようになる。カノの場合羞恥心や自信のなさからそういった語り方でしか本心を打ち明けることが出来ないというのもある。さらに言えば私の感覚的にカノのつく嘘は自信のなさからくる嘘が多い。そうすると曲中で何度も出てくるオーマイダーティーという「私の汚れた」というフレーズが自信のなさからくる自嘲のようにも思えてくる。
自嘲は自嘲それだけの意味に収まらず、私はこの曲の中のカノの自嘲の中には優しさが描かれているのではないかと思っている。
このサビの部分、嘘を重ねて何も思わないやつは嘘を重ねているとも思っていないような奴だ。だがカノは自分が嘘を重ねていると自覚していることから嘘にまだ罪悪感の欠片が残っている。この場面は大変に個人的な解釈になってしまい申し訳ないのだが、カノは嘘を重ねる罪悪感から嘲笑うような不自然な笑顔を作ってしまっているのではないかと思っている。
さてこの曲というのはカノというキャラクターが持つ弱さや優しさ自嘲癖などを多角的に捉えて綺麗に描写した曲であると思う。それと同時にカノのような虚飾虚勢の嘘をつく人達の生態を正しく描写した曲でもある。嘘への罪悪感や悪い嘘を描くようなありふれたテーマでありながらも描写力がずば抜けていてリアリティーを感じさせてくれる。そして聴くものに嘘について、嘘つきについて考えさせる隙がある。その隙が夜咄ディセイブという曲の奥深さでありこの曲がもつ比類なき良さなのだ。
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